16話 簡単な診察
焉武はグラキエス、薔薇の2人と一緒にIPGの施設をある程度案内された。
「取り敢えずクラス10thのメンバーが動ける範囲内はこのぐらいかな。最後に血液検査を兼ねて診察室へ向かいましょう」
「食堂とかも案内したの?」
「したわ」
「はい。確か稲場 裕之さんがコック長をしている所ですよね?」
「そうそう!偉いわねー!!よしよし!!」
「んぐ!!」
また胸に顔が埋まり息が出来なくなった。グラキエスはすぐに薔薇の服を引っ張った。
「やめなさい。幾ら年下の若くて可愛い子が好きだからって、そこまでしたら誰も近寄らなくなるわよ」
「えぇー。良いじゃないのー。ねぇねぇ!!あなたってハーフなの?」
「え?」
「ほら!あなたの顔ってなんか外国人っぽくない?」
薔薇が鏡を取り出して、焉武の顔を映した。焉武も家で確認した時に不思議に思ったが、特にそれ以降は気にする事は無かった。
「いえ。純粋な日本人ですよ。顔に関しては千田研の薬の副作用で体質どころか性別すらも変わったんですから、別に顔が外国人っぽくなったとしても不思議じゃないと思います」
「まぁね。性別も変わったし、ミュータントにもなったし、今更見た目がハーフの人っぽくなったとしても、なんとも思わないわよね」
グラキエスがそう呟く。それを聞いて横で「ふーん」と薔薇も相槌を打った。3人は診察室へ向かった。
「診察室では文字通り怪我や病気になった人を診察したりする所よ。その後治療室に行ったりして、治してもらうの」
「なるほど…」
診察室に着くと3人は中に入った。
「失礼しまーす」
「あらあら。薔薇さんにグラキエスさん。その子は?」
室内はTHE 診察室といった感じで、特に何も無い清潔感のある綺麗な部屋だった。1人の女性が足を組んで椅子に座っていた。
「新入りの子よ。ミュータントになったのはつい最近だから身分証を持ってないの。だから血液検査をして、身分証を作れって長官にね」
「へぇ。それで薔薇さんはこの子が可愛いから付いてきたのかな?」
「バレちゃった?」
「バレるも何もあなたの性格と能力的に、たぶん薔薇を創造してそれをGPSの様にして、この子の居場所を知り、後をつけたって感じでしょう?」
「正解!さすが安治 癒美さん!!やっぱりIPGのメンバーの能力は知り尽くしてるわね!!」
癒美は呆れ顔をした後
「知り尽くすも何も…あなた常習犯だから、さすがに覚えるわよ。じゃあ君。椅子に座ってくれる?」
癒美が椅子を出して、ポンポンと椅子を叩く。指示された通り焉武はその回転椅子に腰掛ける。
「じゃあ君の名前と年齢と能力とか色々と教えてくれるかな?」
「はい。華山焉武。17歳です。誕生日は8月1日で、血液型はB型です。身長は171…」
「171?そんなに大きくない気がするんだけど…」
「まぁ色々とあるのよ。この子も。長くなるから詳しい話はまた私が後でするわ」
首を傾げる癒美を見て、グラキエスが後ろから簡単に説明した。
「能力は?」
「能力は…『身体を炎に変える能力』…です」
「変身系自然型能力者ね。了解っと」
パソコン入力を終えると一旦離れて、奥から注射器を持ってきた。
「じゃあ早速だけど血液を取りましょう」
「はい」
癒美は焉武の左腕を触り、消毒液を湿らせた布を当てて、その部分に注射器を刺した。ゆっくりと採血した後、そこに絆創膏を貼った。
「はい。終わりね。視力検査とかもしろって言われてるの?」
「いえ…。特に何も…」
「そう。寿長官らしいわね」
「長官は色々と適当だからね。しておいた方が良いんじゃない?」
薔薇がずっと頭を撫でながら言った。赤い髪の毛がボサボサになってきた。癒美は腰を上げて、壁にかけてあった布を取る。
「じゃあ始めましょうか。まずは左目からね」
「はい」
焉武は無難に視力検査をこなしていく。
「左目は視力1.6ね。OK」
「1.6!?前は1.0だったのに…」
「『ミュータントになった後視力が上がる』というのはよくある話よ。身体能力も上がるしね」
「そうなんですね」
「私も上がったわ!!焉武ちゃんとお揃い!」
「あんたは黙りなさい」
焉武に触ろうとする薔薇の手をすぐに掴んだ。
「じゃあ次はその綺麗な赤い右目」
「はい」
右目に被せていた暗い棒を左目に移動させて、再び板を見た。そして焉武は見えたランドルト環の穴の位置を正直に答えていく。
「へぇ。あなた右目の視力が異様に良いのね…。こんなに偏ってるのは初めてだわ…」
「どのくらいなんですか?」
「そうねぇ。少なくとも2.0は普通に見えてるから、2.1以上はあるでしょうね」
奥に歩いて行って、暫くすると機械を運んできた。
「一応視力を出来るだけ測りましょう」
「その機械はどれくらい測れるの?」
「まぁ大体…10…いや13ぐらいかな?人類で目が良いとされているのは、アフリカの民族の人で10以上あるの」
「へぇ。それは初耳」
「じゃあ焉武ちゃん。この機械の穴に目を入れてみて。右目は測ったから、取り敢えず左目を測りましょう。最初はまた2.0から。そして徐々に小さくしていくから、見えなくなったら手を上げてね」
「はい」
そして暫く時間が経った。
「お…終わり…よ…」
「え?」
焉武は機械から目を離す。どうやら全部答えてしまったらしい。いや悪い事では無いのだが、日本人で元普通の人間が全て答えるのは異例だった。
「取り敢えず貴方の右目の視力は13よ…」
「「「13!?!?」」」
「正直言って…流石の私も怖いわ…。ここまで差があるのに、視界がブレたりしないの?」
「いえ…特に…」
「不思議な現象ね…」
「……」
グラキエスは焉武をジーッと黙って見ていた。
「どうしたの?グラキエス?」
薔薇がツンツンとグラキエスの頬を人差し指で突きながら問いかける。
「いえ…。不思議だなぁと思って」
「まぁ今回の結果はまた後日伝えるわ。その時に同時に身分証も渡すという事で」
「分かりました…」
椅子から立ち上がり、癒美に頭を下げた。
「わざわざありがとうございました」
「いえいえ。面白いものが見れたから良いわ」
「じゃあ行きましょう。いつぐらいに出来そう?」
「そうねぇ。また知らせるわ。たぶん5日〜1週間には出来ると思う」
「了解」
「今日入ったんだったら、メンバー証も大体それぐらいで出来るんじゃない?」
「たぶんね」
「じゃあ行きましょー!焉武ちゃん!」
「はっ…はい」
焉武の手を掴んで笑顔で言った。
(大人しい人なのかなぁと最初は思ったんだけど、人は見た目によらないって本当なんだなぁ…)
心底そう感じた。
ーーーーーーーーーー翌朝
目が覚めた。窓から外を見ると、日の明かりが眩しく電気を付けていないのに、部屋が見渡せる。今日からこの部屋が自分の部屋なんだと感じた。
あの後グラキエスに自分の部屋を案内された。部屋に入ると、普通に良い部屋でベッドやテレビは備え付き、風呂もトイレと別で、しっかりとシャワーと湯船が分けられている。さすが富裕層区域の建物だと感動した。グラキエス達が帰る頃には既に夜中で取り敢えず風呂と歯を磨いて寝た。不思議な事に、自分の体だからなのかもしれないが、少し慣れてきたのでシャワーを浴びる際に目を瞑らなくても良くなった。
「取り敢えず…食堂に行くか…」
鍵を持とうとすると
「あっ…その前に…」
焉武はクローゼットを開けた。そこには1着の服があった。
「IPGのユニフォーム…」
ユニフォームに着替えると、部屋から出て鍵を閉めた。
ーーーーーーーーーー食堂
食堂はで食べ物を買う際はお金を払わなければいけない。当然の事である。焉武は自分が持っていた所持金と、昨日別れる前にグラキエスから貰ったお金を見た。そしてグラキエスのセリフを思い出した。
『良い?クラス10th〜7thはお小遣い制なの。つまり自分達より上の人から、お金を貰う形なのよ』
『そうなんですか?』
『えぇ。だって基本10th〜7thのメンバーは仕事をしないからね。殆どボランティアなのよ。やる事は。偶に仕事として殺人とかじゃなくて、万引きとかそういう系の犯罪者を捕まえるため、動く事があるけど、enemyとは戦わない。だから給料は少ないわね。だけど生活が出来ないでしょ?それだと。そういう事で、私達クラス3rd〜1stがお金をそれぞれ渡すというお小遣い制なの。成績が良ければ良い程、貰える量が増えると思うわ。もしくは機嫌をとるか。まぁその相手次第ね』
「大事に使わなきゃな…」
食堂のメニューを見つめた。意外と種類は豊富で自分が好きな食べ物も幾つかあった。
「へぇ。凄いな」
取り敢えずきつねうどんにしようと思い、メニューから離れようと歩き出すと
「ひゃ!!」
女性がぶつかってきて転んでしまった。
「大丈夫ですか?」
「いっ…だ…大丈夫…です…。!?」
すると女性が突然口を覆い隠して、必死に何かを探し始めた。
「どうしたんです?」
「マスクが!あった!」
女性はマスクを拾うと、すぐに顔に付けた。
「落ちたマスクは…汚いですよ?」
「だ…大丈夫です!!すぐに変えるので!!」
すぐにどこかへ走って行った。
「なんだったんだろう…」




