15話 秘めたるモノ
「君はIPGに入りたいかい?」
周りの人達は全員真顔、中には睨んでくる人も居るが、長官だけは優しい笑顔でこちらを見ていた。
「俺は…」
皆黙っている。あくまで自分で決めろという事らしい。焉武は両親の事をまず思い出した。目の前で苦しく死んでいった母。そして怪物化された父親。焉武は歯を噛み締めた。
「IPGに入りたい…」
「なぜ?」
顔を上げて、長官の目を真っ直ぐ見た。
「アイツらを…この手で確実にぶち殺したい…から…。誰のためでもない…。ただの俺の目的なんですけど……。とにかく…あのクソ野郎どもを…そしてそいつらを束ねている組織や、そのボスを…この手で確実に潰したい…」
涙を流しながら答えた。長官はニヤリと笑った。
「なるほど。すまないが。殺せるかどうかはその時にならないとわからない。それでも良いか?」
「はい…」
「よし!分かった。じゃあこれから君はInternational Peace Guardiansの正式なメンバーだ。俺が認める」
「長官の選択は信じてるけど、なんの面接もテストもしないで入れて大丈夫なの?」
「大丈夫大丈夫」
流石に長官のこの対応を見ていて、焉武は心配になった。勿論認めてもらえて、IPGのメンバーに入れてくれたのは嬉しい。しかしここまで楽観的な姿を見ると、本当にこんな人がIPGの長官なのかと疑問視してしまう。
「そうだなぁ。君は当然新入りだから。ここの事もあまり知らないだろうし…。誰かこの子に施設を案内したい人はいないか?」
するとあの銀髪のグラキエスという女性と、薔薇を渡してきた女性と竜次が同時に手を挙げた。
「あなたはどうせ焉武が可愛い女の子だから案内したいんじゃないの?変な所に連れ込んで変な事しようとしてるんじゃないの?」
涼が睨むような目で竜次を見る。
「いやいや。流石に俺でもそんな事しねぇよ」
「私がやりたいわー。この子可愛いからー」
「グラキエス頼んだよ」
「分かったわ。全く…。あなた達は仲良くしなさい」
「えー。私じゃ駄目なの?」
「お前も色々とやりそうだしな…。君の事を全く知らない新入りに、セクハラ訴訟を起こされるのは嫌だからな」
「流石の私も新入りの子にそこまでしないわよ。したとしても…お尻を摩るぐらいかな?」
「うん。グラキエスで良いな」
グラキエスは手を下げると、ゆっくりと立ち上がり焉武に近寄った。
「一応血液検査もするという事で良いんですよね?」
「あぁ。案内しながら診察室に行って、そこで血液を取ってもらって。ミュータント身分証を作るのに必要だからな」
「分かったわ」
「ほら行くわよ。これからの事を話し…というか説明しながら施設を案内するわ」
「はっ…はい」
グラキエスが焉武を拘束していた枷を外した。立ち上がり、グラキエスについて行った。
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「とにかく自己紹介からね。私の名前はグラキエス・ファー。ギリシャ生まれだけど、育ったのは日本だからギリシャ語よりも日本語が得意なの」
「そうなんですね。どうりで見た目は外人さんなのに、日本語が上手だと思いました」
グラキエスの顔を見た。両目共に青色をしており、珍しいなと感じていた。それに気付いたのか、グラキエスは笑顔で
「この目の色は生まれつきなの。父さんが同じ目の色していてね」
「そうなんですね。グラキエスさんの能力は…?」
「私は『氷を創造し操る能力』。まぁ創造&操作系と言われる能力よ。貴方は確か『炎になる能力』だったわよね?」
「はい。あまりよく分からないですが…。たぶん…」
「まぁ仕方が無いわよね。ここが訓練場」
グラキエスが立ち止まり、窓から外を見た。焉武も外を見ると、とても広い土地があった。
「なんか学校の運動場みたいですね」
「まぁね。正直そんな感じで作ったらしいし、運動会をやる時だって、この訓練場でリレーとかをやるわ」
「運動会…?」
「えぇ。IPGはミュータントのミュータントによるミュータントの為の組織と言っても過言じゃない。ミュータントなら例え赤ちゃんでも保護するの。勿論親に育てる気があって、問題がないのなら何かするって訳には行かないけど、このご時世虐待だったり、育児放棄をする家庭の方が多くてね。勿論一般の人の家庭でもそうだけど、特にミュータントは差別される対象だから…。私達はそういった所で生まれた子達を保護するの。だから普通の子らの様な生活をさせる為に、一応学校のような行事とかも出来るだけ用意してあるの。交流も兼ねてね。そういうのがあったら、皆とも仲良くなれるでしょ?勿論文化祭とかもあるわ」
「結構行事あるんですね…」
「えぇ。旅行とかもする事があるわ。勿論その時はクラス1st〜3rdが1人ずつ引率するのが条件だけどね。そして本部には常にクラス1st〜5thは居なきゃ駄目だから、全員一緒にって事は無いけど」
グラキエスは再び歩き始めた。そして口を開く。
「そうね。あなたはミュータントについてどれぐらい知ってる?」
「いえ…全然。何しろ無縁な生活だったので…」
「そう…。一応座学があってね。IPGである以上クリーチャーやenemyらと戦うのは必須だから、学校で学ぶ様な事以外に、ミュータントについての勉強もあるの」
「なるほど…」
焉武は先日の事を思い出した。冷静になって考えると、あの時ミュータントについて何も知らなかった。自分の起きた事や自分の能力を知るに必死で、敵の事を考える暇が殆ど無かった。あの薩春とかいう奴は油断していたから、良かったものの研に関しては本当に何も分からなかった。だから負けた。
「無知は弱点の1つになるからね。最低限の事は知らなくちゃ…。まぁそれだけじゃあ足らないけどね」
「能力の練習とかはどんな事をするんですか?」
「主に体力作りかな?能力を使う際に必ず体力は消費されるから。あなたの様な変身系は特にね」
自分が能力を最大限に使い過ぎて、体が全く動かなくなった事を思い出した。そして敵が居るのにも関わらず眠いという感覚が襲ってきて、実質気絶もしてしまった。
「確かに…体力が無いと戦うことすらままならないですね…」
「だから体力作りを主にしてるの。あとは能力の技術向上。簡単に言うと使いこなせるよう練習するということね」
「ふむふむ…」
「…?ポケットに何か入ってるわね」
「あぁ…これですか?」
焉武はポケットの中の薔薇を取り出した。
「不思議ですよね。薔薇といえば茎に棘があるイメージなのに…」
「はぁ…めんどくさい事になりそう…」
すると突然誰かが焉武に抱き付いてきた。
「!?」
「みーつけたー」
その女性はあの部屋にいて、焉武のポケットに薔薇を突っ込んだ人だった。
「やっぱり…あんただったのね。薔薇…」
薔薇と呼ばれる女性は両手で、焉武の両頬を撫で始めた。
「やっぱり可愛いぃぃー!」
「んむーー!!」
「ほっぺたプルンプルンね!!顔もモデルさんみたい!!」
「薔薇ー。その程度にしておきなさい。初っ端から新入りにトラウマを植え付けないで。取り敢えず紹介しておくわ。彼女は茨城 薔薇。能力は『植物を生やし操る能力』の創造&操作系能力よ」
「よろしくねーー!!焉武ちゃーん!!」
「全く何歳なのよ…あんたは…もう良い歳でしょ?」
焉武は薔薇の胸に埋もれていて、息が出来なかった。
「んぐぐ!!」
「可愛いーー」
「はぁ…やっぱりか…」
グラキエスは薔薇をジーッと見ながら呟いた。
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「なぜあそこまで華山焉武をメンバーに勧誘したかったんですか?」
「ん?入ったのは彼女の意思だよ」
「しかし長官のあの時の顔は『彼女をどうしても仲間にしたい』という顔でした」
「彼女には俺らに対して敵意がない。逆に俺らの敵のenemyに対して強烈な敵意を持っている。そんな仲間は沢山いた方が良いだろう?それにそれを証明してくれたのは君自身だ」
「そうですが…」
真子は少し不満そうな顔をしていた。
「彼女の中にはenemyに対する強い憎悪がありましたが…その他にも…」
真子は少し震えていた。顔が恐怖の顔に染まっている。
「彼女の心の中を確かに見ました。そして彼女の発言が嘘か真実かを確かに見ました。しかし…その他にも…見たものが…」
「君の能力は『触れた者の発言の真偽を見る能力』だろ?特殊系の…」
「寿長官…正確に言うと『触れた者の心の中を覗き見る能力』です。それを応用して、相手の言っている事が嘘か真実かを見分けるのです…」
「まぁ心配するな。とにかく彼女が味方である事に違いは無い。今は安全だ」
寿は焉武の顔写真をじーっと眺めながら語った。




