お披露目祭前日!(勇者の形は人それぞれ)
97「お披露目祭前日!(勇者の形は人それぞれ)」
「だが断る!」
俺は現在、『王立総合図書館』の『冒険者の心得』という本の前、それを手にとっている状態で、横から知らない女性にその本を取る手を押さえられている状況だ
そしてその女性が、本を譲ってほしいと頼んでいるにもかかわらず、先程のセリフを満面の笑みで口走ってしまったという現状だ
そのセリフを言われてしまった、ボーイッシュな彼女はというと・・・
「・・・ほえ?ど、どうしてダメなのかな?
先に見つけたの君だと思うけど、どうしても
その本を譲ってくれないの?」
一瞬何を言われたかわからなかったようだが、気を取り直して、改めてこの本をゆずってほしいと、俺に頼んでくる
俺は特にこの本に思い入れがなかったが、とりあえずで断ってしまったので、何らかの理由をつけてこの本を譲る事にしよう
「んん!そうだな・・・
まず君は何者なのか?さっき姫さまがどうこうと言っていたが・・・
君の正体がわからないままに、ハイどうぞとは言えないから、先ほどは断ったんだ
それが分かればこの本を、君に譲るとしよう」
俺はフードで顔が見れないのをいい事に、少し真面目ぶってそう答えた
別に、この子のことを知りたい訳ではないが、何も得ずに差し出すという事が嫌だったのだ
普通に「さっきのは冗談だ」と言えば良いだけなのだが、変なプライドがただで譲ることを躊躇わせた
するとボーイッシュな彼女は、「なるほど」と頷き
俺に語り始めた
「ああ、そういうことか!それは悪かったよ
私の名前は神木りさだよ
気軽にリサって呼んでくれればいいよ
たしか、異世界召喚?ってやつでこっちに来た勇者
みたいな事をみんなは言ってたかな?
色々姫さんには助けてもらったから、ちょっと力
を貸してあげようと思ってね
そのためにその本が欲しいからさ・・・、改めて
譲ってくれないかな?その『冒険者の心得』を」
そう言うと、神木さん、いやリサは「よろしく」と
俺に右手を差し出してきた
そうして俺はリサの言うままに握手をしていた訳だが・・・、内心メチャクチャ罪悪感が湧き出ていた
なぜなら・・・
「(この子、普通にいい子じゃねーか!
普通、こんな訳わからないところに、訳わからない理由で呼び出されれば、キレて言う事をきかないとか、そうは言わないまでも、何かしらの反発を心の中に大なり小なり持っているものだが・・・
この子は、それどころか自分を気遣ってくれた姫さまのためにと、この本を欲している
ちょっと手助けすると言うだけで、冒険者、というか勇者になる者など、いい奴以外の何者でもない
そしてそんな子に俺は、勇者を押し付けただけに飽き足らず、こんな意地悪じみた真似までしている
俺は何をしているのだろう?)」
などと、自分の心の中で自問自答し、己の存在意義について、じっくりと考えたい心境になってしまった
だが、このままボーっとしている訳にはいかない
俺は何事もなかったかのように咳払いをし、「なるほど」と意味ありげに頷いてみる
そしてあまり必要はないとは思うが、リサにその手伝うという言葉の思いの丈について尋ねてみる
「そうか・・・、勇者なのか
君は、リサは姫さまのためにこの本が必要と言ったな?じゃあ、リサは冒険者か、もしくは勇者になるってことか?
それがこの国、というかこの世界の勝手な都合で押し付けられただけの使命であっても
嫌な言い方になるが、姫さまのこれまでの言動が、君を勇者にするための気遣いや声掛けだったとしてもか?」
ただ、本を譲って貰うだけにしては、とても壮大で残酷な質問だとは思うが、リサの言葉を聞いたら、聞かずにはいられなかった
俺であれば、そんな理不尽な押し付け、そのような足枷やシガラミからは何としても逃れようとするだろう
しかし、彼女はそうしない
それはどんな気持ち、どんな心からそう考えられるのかを聞いてみたくなった
するとリサは突然、「あははは!」と笑い、俺の問いに答える
「私は勇者になるかもしれないけど、それは姫さま、それ以外のこの世界の人のためじゃないよ
私のため、そして私とともにこちらに来た『まゆ』
・・・わからないか、もう一人の方の勇者のことね
その子と自分が、この世界から元の世界に帰る方法がないかを探るために『勇者』になるって決めたんだ
現時点では元の世界に帰る方法がわからないみたいだけど、ないと確定している訳じゃないからさ・・・
『勇者』になれば、結構自由に動けて、この世界の謎にも触れれそうだからね
・・・、まあもし帰れないとしても、この世界に平和をもたらした『勇者さま』の方が生きやすそうじゃん?まあ私はそんな感じで頑張るつもり
だから、私たちを利用しようとしていたとしても、関係ないし、逆にそれを利用してやろうっても思ってるの!」
リサはそう言ってニッと微笑むが、俺は何も言う事ができなかった
ただ流されての発言だと当初思っていた予想を、いい意味で裏切り、かなり深く考えた末の『勇者』という選択だったようだ
そして何よりも、この世界のために頑張るのではなく、自分ともう一人の相方のためという理由で頑張るという所が、かなり俺好みの回答だった
そのためかわからないが、俺はその場のノリで
俺が手に持っていた本と、背中に隠し持っていたショートソードを差し出す
これは?と、ショートソードを見て首を傾げるリサに、俺は「餞別だ」と答える
「この本とついでにこれをやる
まあこの剣は普通の剣だが、冒険者を始めるばかりなら役に立つ事もあるだろう
いらないなら、どっかに売ってくれてもいいが
割と切れ味もいいし、そこそこ使えると思うぞ」
俺はそう言ってリサにショートソードを差し出す直前、女神さまの力をかなりの量込める
この剣は折れることのない剣、この剣に切れないものはないと強く願う
そして一瞬力を込めたのち、改めてリサにこの剣を差し出す
するとリサは、一瞬貰うかどうか躊躇ったが、特に剣に忌避感をいだくことなく、ショートソードを受け取った
「ありがとう、本だけじゃなくこの剣まで貰っちゃって・・・
ちゃんとこの剣は使わせて貰うよ、勇者には剣がないと格好がつかないからね!
・・・、そういえば、今更だけど君はなんて名前なの?私だけ名乗るのって不公平じゃない?」
リサはそう言うと、少しだけ上目遣いで俺を見上げて、俺の名前を聞き出そうとしてくる
俺はエイダが隣にいないことで、気が抜けていて
「俺の名前はカルマだ」
と、この国では名乗っては危ない方の偽名を名乗ってしまう
言った瞬間ヤバッ!っと思ったが、リサは「ふーん、カルマかぁ」と、特に何かに反応した様子ではない
俺は冷や汗をかきながらも助かったと思い、少しリサと話をしてから別れを告げてその場を離れる
「やべー・・・、あの子が感づかなくてよかったぁ
エイダいないとマジでやばい・・・」
俺はそう言って、逃げてきた先にあった図書館の少しクッションが置いてあるスペースに腰を下ろす
すると
「あれ?カルラ?本探しは終わったの?
私の方はまあまあの収穫が・・・」
丁度、手前の書庫から出てきたエイダと鉢合わせした
そして俺はエイダの問いに答えずに、ギュッとエイダを優しく抱きしめる
俺の失言を助けてくれる相棒は、エイダしかいないと、心の中で呟き、現実ではエイダを抱きしめ続ける
その間もエイダは「えっ!えっ?」と、突然の俺の行動に混乱していたが
「ずっと、俺の隣にいろよ」
と、俺がそう耳元で囁くと、「う、うん」とぎこちなくも頷き、俺を優しく抱きしめ返してくれるのだった・・・
勇者お披露目祭前日の中編!
次で多分前日シリーズは終わる予定です!




