↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

21/25

世界樹ーユグドラシルー

ドラゴン山脈での死闘を終え、我が家へと戻ってきた拓海とシロ。

拓海は庭の一角にぽつんと佇む、ちっぽけな苗木の前にしゃがみ込んでいた。

異世界に来て初めて木を切り倒した際、ポロッとドロップした正体不明の苗木。

植えた日から今日まで、まったく成長する気配もなく、ヒョロリと伸びた細い茎の先に小さな葉っぱを2枚つけているだけ。何の変哲もない、どこにでもあるような苗木だ。


「……これが本当に、世界樹の苗木なのかな」


拓海は不安そうにつぶやいた。

世界樹がつける実は『万病を癒す万能薬』になるという。今も病床で苦しんでいるシロの母親――伝説の魔獣フェンリルを救うためには、どうしてもこの実が必要だった。

しかし、目の前にある頼りない苗木を見ていると、本当にあの巨木になるのか半信半疑になってしまう。


『わんっ! 拓海、早くためしてみようよ!』


シロが励ますように拓海の脚に鼻先をすり寄せてくる。母親を心配するシロの瞳には、強い希望が宿っていた。


「……よし! やってみよう!」


拓海は意を決すると、持って帰ってきた3つの素材を取り出した。

まずは、バルバカンで手に入れた『金剛の霊土』。

拓海は黄金色に輝く金剛の霊土を世界樹の苗木のねもとにたっぷりと敷き詰めた。土が温かな熱を帯び、苗木を包み込んだ。

次に、精霊の森で手に入れた『月光水晶』。

透き通る青い水晶を清らかな水に一晩浸し、じっくりと魔力を溶け込ませた『月光水』を、ジョウロで苗木の根元へとそっと注ぎ入れる。カチカチだった茎が、潤いを得てピクンとわずかに跳ねた。

そして――最後の仕上げ。

炎龍から受け取った、真っ赤にギラギラと輝く『炎龍の逆鱗』だ。


「頼むぞ……!」


拓海は祈るような気持ちで、真っ赤な逆鱗をそっと苗木の小さな葉っぱに押し当てた。

その瞬間――。



シュワァァァァァァァッ……!



「わぁ……っ!」


幻想的な光が庭中にあふれ出した。

硬かったはずの『炎龍の逆鱗』が、まるで雪が解けるように、キラキラと輝く赤い光の粒となって崩れていったのだ。光の粒は流星の糸のように苗木に引き寄せられ、吸い込まれるように葉や茎の中へと消えていく。

土の気、水の潤い、そして龍の生命力。

3つの極上素材を吸収しきった苗木が、満足したようにわさわさと葉を揺らした。

かと思うと――。



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ……!!



「っっっ!? な、なんだ!?」


大地が激しく揺れ始めた! 地鳴りのような重低音が響き渡り、足元から突風が吹き荒れる!


「まずい! シロ! 離れるんだーーーっ!!」


拓海は直感的な危険を察知し、なりふり構わず後方へとダイブするように飛び退いた!

直後、苗木だったものが「ドッカァァァン!」と爆発的な勢いで天を目指して生長を始めた!

茎は一瞬で丸太のように太くなり、皮をメリメリと引き裂きながら、拓海が丹精込めて作った石造りの家をドカンと押し潰し、丸ごと呑み込んでいく!


「家がぁぁぁぁぁっ!?」


だが、拓海がショックを受ける暇すらなかった。


『くぅぅんっ!?』


「シローーーっ!?」


病の母を治す薬ができるかどうかに気を取られ、あまりの急展開に反応が遅れてしまったシロ。逃げ遅れたシロの体が、目にも止まらぬ速さで太くなっていく世界樹の巨大な幹の中へ、ズルズルと巻き込まれ、呑み込まれてしまったのだ!


「シロっ! シローーーっ!!」


枝葉が空を覆い尽くし、太陽の光を遮る。

世界樹はぐんぐんと天を穿ち、雲を突き抜け、果てしない巨木へと至るまで成長し続けた。

やがて――地響きのような揺れがようやく収まった。


「はぁ……はぁ……っ!」


拓海はフラフラになりながら立ち上がった。

かつて我が家があった場所には、見上げるのも首が痛くなるほどの、規格外に巨大な世界樹の幹がドスンと鎮座していた。家は跡形もなく幹の中に埋没している。

拓海は青ざめた顔で、目の前にある世界樹の樹皮に向かって必死に叫んだ。


「シロ! シロっ! 大丈夫か!? 返事をしてくれ!」


『……うん! ちょっとびっくりしたけど、どこも痛くないし大丈夫だと思う!』


頭の中に、シロの元気な念話が直接届いた。


「よかったぁぁぁ……っ!!」


拓海はその場にへたり込み、胸を撫で下ろした。

念話によるとシロは『狭くもなく暖かくて心地いい』場所にいるという。


「……しかし、どうしたらいいんだこれ……?」


安心したのも束の間、拓海は巨大な世界樹を見上げて頭を抱えた。

はるか頭上、雲の切れ目から覗く世界樹の枝先には、まだ「青くて硬い未熟な実」がポツンと実っているのが見えた。万能薬にするには、これが熟すのを待つか、適切に収穫しなければならない。

だが、今の最大の問題はシロ救出だ。


(シロを助けるために斧で切り倒したり、穴を開けたりしたら、せっかく生長した世界樹が枯れるかもしれない……! それに、幹のどのあたりにシロが埋まってるのかも外からは全く分からないぞ……!)


「傷つけずにシロを救出する方法……う〜ん……」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。