↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/25

ムキムキ⭐︎マジカルクラフト!

空に向かって叫んだあと、しばらく呆然としていた拓海だが、ややあって気を取り直すとその場に座り込んだ。


「とりあえず、ステータスでも確かめるか……」


試しに小声で「ステータスオープン」と唱えると目の前に半透明なパネルが現れた。


web小説やゲームにはあまり興味のない拓海だが、現実ではあり得ない光景にテンションが上がる。


【名前】平野(ひらの) 拓海(たくみ)

【年齢】28

【種族】人間(神の加護:頑丈)

【HP】9999 / 9999

【MP】9999 / 9999

【スキル】

・自動翻訳

・アイテムボックス(容量無限)

・神級クラフトスキル(Lv.1)

※発動条件:マッスルポーズをとりつつ「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト」と発声すること


「……ちょっと待て」


スキルパネルに踊る発動条件を目にした瞬間、拓海のテンションは垂直落下した。


【神級クラフトスキル(Lv.1)】

※発動条件:指定のマッスルポーズをとりつつ「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト」と発声すること


「……見なかったことにしよう」


拓海は即座にステータス画面を閉じ、意識的に現実逃避を決め込んだ。

気を取り直し、とりあえず生活拠点となる目の前のボロ小屋へと足を進める。

中には、ボロボロの小さな木製のテーブルと椅子、そして同じくボロボロのベッドが一台放置されているだけだった。当然、布団などはない。


「……ハァ」


想像通りの惨状にため息をつきつつ小屋の周辺を見て回ることにした。

平坦な草の上は思いのほか歩きやすく、10分ほど散策を続けると、小さな沢とその周りに生い茂る木々、そして赤く熟したベリーが実る低木を見つけた。

つやつやとした赤いベリーを恐る恐る摘んで口に含んでみる。


「……うまっ」


濃厚な甘みとフレッシュな酸味が口いっぱいに広がった。

沢の水で喉を潤し、着ているシャツの裾を受け皿にしてベリーを収穫した拓海は、一旦小屋へと戻ることにする。

それほど長く歩いた感覚はなかったが、小屋に戻る頃にはすでに空が茜色に染まり始めていた。


「食事はベリーで済ますとして……問題は寝床だな」


この剥き出しの木板の上で寝るのは流石に厳しい。

覚悟を決めた拓海は、「記念すべき初クラフトだ!」と自分に言い聞かせながら、小屋の扉の前の草をむしり始めた。

夢中で草をむしり、へそのあたりまで小山のように溜まったところで、拓海は手の甲で汗を拭った。


「こんなところか」


さっそくクラフトしようと草の山に手を伸ばした拓海は、そのままピキリと固まった。 


(……そうだった)


発動には、あのマッスルポーズを決めながら「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト」と叫ばなければならないのだ。

周りには誰もいない。地平線まで続く草の海と、自分と、ボロ小屋だけだ。

だが、28年の人生で一度もそんな痛々しいポーズも呪文も口にしたことがない拓海にとって、いくら誰もいないとはいえ恥ずかしさのハードルは絶望的なほど高かった。


「……いや、使わなきゃ何も作れないし、この小屋じゃ夜を明かせないぞ……」


頭を抱え、深呼吸を繰り返す拓海。

背に腹は代えられない。生きるため、そしてこの劣悪な環境を少しでもマシにするため、彼は意を決した。

両腕を限界まで曲げ、力こぶを誇示するダブルバイセップスのポーズを取る。

そして、夕空に向かって叫んだ。


「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト!!」


『ムキーンッ!⭐︎』


どこからともなく幻聴のような効果音が鳴り響き、目の前の雑草の山が眩い光に包まれる。


『対象:野草(高耐久)×100』

『レシピ:ふかふか草のマットレス、草織りブランケット』


『製作を開始します――マッスル!』


(システム音までうるさいな大胸筋!!)


光が収まると、そこにあったのは雑草の山ではなく、繊細に編み込まれた柔らかなマットレスと、厚手のブランケットだった。


「……すごい。一瞬でできてる……」


あの大胸筋神のウザさと絶望的な恥ずかしさという代償は大きかったが、得られた能力は本物だった。

完成した寝具を抱えて小屋へと戻り、ボロいベッドの上にセットして横たわってみる。


「……最高かよ」


固い木板の感触は消え去り、驚くほどもちもちとした弾力が身体を包み込む。

隙間風もブランケットがしっかり防いでくれ、腹は先ほどの甘酸っぱいベリーで満たされていた。


「よし……これで今夜は凍えずに眠れる」


ポーズを決めた瞬間の恥ずかしさを思い出し、顔を真っ赤にしてブランケットに顔をうずめる拓海。


(誰も見てない……誰も見てないんだからセーフだ……)


自分にそう言い聞かせながら、疲れの溜まっていた拓海は、異世界で迎える最初の夜の深い眠りへと落ちていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。