ドラゴン山脈
精霊の森で『月光水晶』を、バルバカンで『金剛の霊土』を手に入れた拓海とシロ。
残る最後の素材『炎龍の逆鱗』を求め、二人は世界で最も危険とされる『ドラゴン山脈』へと足を踏み入れていた。
「ひええええええっ!? 高い高い高い! 死ぬ死ぬ死ぬーーーーーっ!!」
雲を突き抜けるほど高く切り立った断崖絶壁。足元の岩場がガラガラと崩れ落ち、拓海は無様に悲鳴を上げながら千尋の谷へと真っ逆さまに落下していった。
ドガァァァァァンッ!!
凄まじい音を立てて底の岩盤へと激突し、猛烈な土煙が上がる。
「い、生きてる……? 痛くない……痛くないけどさぁぁぁっ! 怖いものは怖いんだよーーーっ!! 頑丈だからって平気なわけじゃないんだよーーーっ!!」
身体は傷一つない無傷だが、全身の毛穴から嫌な汗が吹き出し、精神的な恐怖で膝がガクガクと震える。足元に跳び下りてきたシロも「くぅ〜ん……」と情けない声を上げて拓海の足にすり寄った。
「ぜぇ……ぜぇ……シロ、もう帰りたい……。でも世界樹の実を収穫するために頑張らないと……」
弱音を吐きつつ立ち上がった拓海だったが、過酷な山脈は彼らを休ませてはくれない。
ガサガサッ!と不気味な音とともに、岩陰から大蛇のような巨大な蔦が何本も伸びてきた。危険度ランクSの怪植物『大喰らいの食肉花』だ!
「うわああああっ! なんかドロドロした液体を吐いてる! 汚い! 怖いっ!」
拓海の叫びも虚しく、巨大な花びらがガブリと拓海とシロを丸呑みにした。
「ぎゃーっ! 消化液がぬめぬめするーーーっ! 溶けないけど! 身体は頑丈だから溶けないけど! 息ができないし、めちゃくちゃ気持ち悪いーーーーっっっ!!」
『ぶはっ! ボクもいやだーーーっ!』
拓海はパニックになりながら、力任せに内側から食肉花の茎を「えいっ!」とぶん殴った。
ベキベキベキッ!と凄まじい音とともに食肉花が粉砕され、二人は消化液まみれになって這い出てきた。
さらに上層へ向かえば、今度は氷点下数十度の猛吹雪と、氷の刃を飛ばしてくる雪男の群れが襲いかかる。
「寒いっ! 寒さは普通に凍えるんだってば! 痛くなくても寒さは無理ーーーーーっ!!」
吹雪の中を半狂乱になりながら逃げ惑い、迫り来るイエティたちを超頑丈ボディで「どいてくれーーーっ!」とタックルで吹き飛ばしながら突破していく。
物理攻撃はすべて効かない。崖から落ちても、丸呑みにされても、魔物に殴られても身体はピンピンしている。しかし、度重なる死の恐怖と、精神的なプレッシャー、そして凄まじいスタミナ消費によって、拓海の心と体調は完全に限界を迎えていた。
「ふぅ……ふぅ……もうだめ……一歩も動けない……」
泥と消化液と雪にまみれ、ボロボロの這々の体になった拓海とシロ。
そうして死に物狂いで山頂へ登り詰め、ついに目的地の『炎龍の巣穴』へとたどり着いたのだった。
◇
「た、たのもう……っ! 伝説の……炎龍様ぁ……っ!」
拓海は巣穴の壁に手をつき、息も絶え絶えになりながら声を絞り出した。
山のように巨大で、吐く息で岩をも溶かすという恐ろしい炎龍。どれほど凶悪な怪物が待ち構えているのかと身構える拓海だったが――。
パチパチと温かな炎の粉塵が舞う巣穴の奥から現れたのは。
「……きゅ〜う?」
小さな一軒家ほどの大きさの赤龍であった。
「「……えっ????」」
拓海とシロは開いた口が塞がらない。伝承では「山のように巨大」と聞いていたため、拍子抜けした拓海は、思わず周囲を見回しながら優しく声をかけた。
「あ、あのね、ボク……? きみのパパかママは……お留守かな?」
すると、一軒家サイズの赤龍はパッと大きな目を怒らせ、プシューッと鼻から炎を吐いた。
「失礼な! ボクは子供じゃない! 立派な成体の炎龍だぞ!!」
「えぇぇぇっ!? そのサイズで!? だって伝承じゃ『山のように巨大な赤龍』だって!?」
「本当は山くらい大きいんだよ! でも……マナが足りなくて、どんどん身体が小さくなっちゃったの……!」
悲しげに羽を落とす炎龍に、拓海とシロは顔を見合わせた。
詳しく話を聞けば、龍が本来の巨大な姿を維持し、胸元に『逆鱗』を生やすためには、この山脈を満たす高濃度の純粋なマナが不可欠なのだという。だが現在、世界中のマナがスカスカに枯渇してしまっており、極度のマナ不足で縮んでしまっているらしい。
「マナが枯渇……? 一体どうしてそんなことに……」
拓海が首を傾げ、さらなる理由を尋ねようとした――まさにその時だった。
シュウウウウウウウッ……!
「「えっ!?」」
なんと、拓海たちの目の前で炎龍の身体がグングンと縮み始め、あっという間に一軒家サイズから「馬」ほどの大きさへと小さくなってしまったのだ!
「きゃ、きゃああっ!? また縮んだぁ!?」
「またマナがごっそり減った! 近くで勇者と魔王が戦ってるんだよー!」
「勇者と…魔王?!」
「そうだよ! あの二人、聖剣と魔杖に世界の魔力を限界まで注ぎ込んで喧嘩してるから、ボクのマナが全部持っていかれちゃうんだ! もう我慢できない! あのバカ二人、絶対に許さないんだからー!!」
「え、あ、炎龍様……!?」
あまりの理不尽さと怒りでぷっつん堪忍袋の緒が切れた炎龍は、馬ほどの大きさのまま「きゅあーっ!」と叫んで巣穴から外へ猛スピードで飛び出してしまった!
「うわああああっ!? 待って待って、置いてかないでーーーっ!?」
取り残されたら極寒の山脈で遭難決定である。パニックになった拓海は、反射的に飛び出して行く炎龍のしっぽに決死の思いで飛び乗った!
「シロ! 跳べっ!」
『うんっ!!』
シロも拓海の背中に飛びつき、間一髪で全員落とされずにセーフ!
「ひええええええっ!? 速い速い速い! 炎龍様、どこ行くのーーーっ!?」
「きゅ〜っ!(あのバカ二人の喧嘩の現場だよー! 踏みつぶしてやるー!)」
「やめてえええええっ! 僕たちを巻き込まないでーーーっ!!」
マナを吸われてブチギレた炎龍の背にしがみついたまま、拓海とシロの悲鳴を乗せて、炎龍は二人が激突する戦場――山脈の谷間へ向かって一直線に爆走していくのだった!




