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漢の約束、ヒヒイロカネのツルハシ

「ガッハッハ! 若造、足元に気をつけい!」


「気をつけろはこっちのセリフだよっ! うわああああっ!?」


ヒヒイロカネの原石が眠るという最深部の坑道へ向かう途中、王様の豪快すぎるダイナマイト採掘と無茶なショートカットのせいで、拓海たちは落石や落とし穴、果ては巨大地底虫の襲来という大トラブルに巻き込まれていた。


「ふぅ……ふぅ……死ぬかと思った……」


どうにか原石の採取を終え、洞窟の出口にたどり着いた頃には、拓海は髪をボサボサにして地に伏し、疲労困憊であった。足元でシロも「くぅん……」と舌を丸出しにして倒れ込んでいる。


「ガッハッハ! たかだか地底虫の一匹や二匹、若さと筋肉で吹き飛ばせい!」


「誰のせいでこんな目に遭ったと思ってるんだよー! もうツルハシなんて作ってやらないぞ!」


ぜぇぜぇと息を吐きながら怒る拓海に、王様は髭をワシワシと掻きながら、ポケットからごろりと拳大の赤く輝く鉱石を取り出し、拓海の手に押し付けた。


「まあまあ、そう怒るな! これをやるから許せ! 採掘のついでに掘り出した極上のヒヒイロカネの原石じゃ!」


「えっ……こんな貴重なものを……?」


「クラフターなら有効に使えるだろう!取っておけ!」


豪快に笑う王様を見て、拓海はあきれつつも苦笑いを浮かべた。


(まったく……理不尽でメチャクチャだけど、この圧倒的な大らかさと気前良さがあるから、みんなに慕われてるんだろうな……) 


◇


城の工房へと戻った拓海は、約束通り王様のために腕を振るうことにした。

採取してきたヒヒイロカネの原石を台座に置き、一歩下がって両腕を大きく曲げ、全身の筋肉をアピールするマッスルポーズを決める!

「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト!」


「ムキーンッ!⭐︎」


光が収まり、完成したのは――滑らかな曲線と、手に吸い付くようなグリップ、そして太陽の炎を宿したかのように真紅に輝く刃を持つ、究極の【ヒヒイロカネのツルハシ】であった。

王様はそれを受け取ると、先ほどまでの豪快な笑顔を消し、静かに目を細めた。

怖いくらい真剣な眼差しで、刃の角度、バランス、重み、金属の密度に至るまで見聞していく。その空気の張り詰め方に、工房にいた大臣たちも固唾をのんだ。

やがて、王様はツルハシを軽く2、3度振り下ろした。

空気を切り裂く鋭い風切り音が響く。


「……見事じゃ。寸分の狂いもない、良いツルハシじゃな」


王様は顔を上げると、いつもの豪快な破顔に戻って拓海の肩をバシバシと叩いた!


「約束通り、『金剛の霊土』は持っていくがよい! 素晴らしい道具をありがとな、拓海!」


◇


【金剛の霊土】を手に入れ、いよいよバルバカンを後にして次なる目的地へと向かう拓海とシロ。

街の門のところでは、大臣をはじめとするドワーフたちが見送りに集まっていた。


「拓海殿、本当に感謝する。お陰で陛下のお元気な顔と、あの豪快な笑い声を取り戻すことができた」


大臣が深々と頭を下げる。


「いえ、俺の方こそ楽しかったです。……それじゃあ、行ってきます!」


拓海が手を振り、シロとともに街道を歩き始めた、その時だった。

背後から、大臣が腹の底から声を張り上げた。


「ムキムキ⭐︎!!」


続けて、見送りの兵士たちが一斉に叫ぶ!


『マジカルクラフトーーー!!』


さらに、街のあちこちの屋根や窓から顔を出した民衆たちが、大歓声を上げる!


『ムキーンッ!⭐︎ ムキーンッ!⭐︎』


両手を掲げてマッスルポーズを決めるドワーフたちの熱いリスペクト(?)の叫びが、山々にこだまする!


「それはやめてーーーっ! 流行らせないでーーー!!」


拓海は真っ赤になって絶叫しながら、シロと一緒に逃げるように街道を駆け抜けていくのだった。


◇


賑やかな声援が遠ざかり、静まり返ったバルバカンの裏手――風通しの良い見晴らしのいい丘の上に立つ、小さな墓標の前。

王冠を外し、完成したばかりのヒヒイロカネのツルハシを脇に置いた王様が佇んでいた。


「……ふぅ」


王様は静かに息を吐くと、胸のポケットから大切そうに小さな布包みを取り出した。

慎重に紐を解くと、そこにあったのは――花びらのような奇跡のカットを描き、永久の輝きを放つ超極上の激レア鉱石【フラワーダイヤモンド】だった。

このフラワーダイヤモンドは、あらゆる鉱石の中で最も硬く、【ヒヒイロカネのツルハシ】でしか絶対に採掘できない幻の宝石。

かつて王様がヒヒイロカネの原石を掘り出したのは――生前、「一度でいいから見てみたい」と憧れていた妻のために、最高峰の鍛冶師であった妻自身にツルハシを作ってもらい、このダイヤモンドをプレゼントしたかったからだった。

だが……ツルハシに加工する前に、妻は病に倒れ、帰らぬ人となってしまった。

妻亡き後、王様がずっと地下深くに引きこもっていた本当の理由。

それは、サボっていたわけでも、ただ遊んでいたわけでもない。

亡き妻に最高のダイヤモンドを捧げるため、ヒヒイロカネのツルハシなしでフラワーダイヤモンドを採掘する方法はないかと、たった一人で暗闇の中、奮闘していたのだ。

王様は愛おしそうにダイヤモンドを見つめると、そっと妻の墓前に供えた。


「……遅くなってすまんの、お前。やっと……やっと届けることができたぞ」


王様は腰から二つの金属製グラスを取り出すと、上等な酒を注ぎ、片方を墓標の前に置いた。

そして、自分用のグラスを高く掲げる。


「拓海という面白い若造が作ってくれたんじゃ。お前が作ってくれたものには及ばんが…なかなか良いツルハシだったぞ」


カチン、とグラスを合わせる寂しげな音が秋風に溶けていく。

王様は酒を一気に煽ると、晴れやかな笑顔で青空を見上げた。


「待っておれよ。……ワシがそっちに行く時は、お前が腰を抜かすくらい、もっとたくさんの素材を持っていってやるからな。その時はまた……ワシに最高の鍛冶を見せてくれ」


風が吹き抜け、墓前に備えられたフラワーダイヤモンドが、まるで見つめ返すように優しく輝いていた。

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