悲しみの王様(採掘中)
「よし、この【ヒヒイロカネの大ハンマー】で扉を破るぞ!」
拓海は気合いを入れ、意気揚々とハンマーの柄へと手を伸ばした。
そして、全身の筋肉に力を込めて一気に引き上げようとする。
「ぬんっ……!! ぐぬぬぬ……っ!?」
だが――ハンマーは床にめり込んだまま、ピシリとも動かない。
神の金属ヒヒイロカネで造られた大ハンマーの重量は、文字通り桁違いであった。どれほど身体が頑丈になろうとも、単なる腕力だけで持ち上げるにはあまりに重すぎたのだ。
「た、拓海殿……? どうしたのだ……?」
冷や汗を流しながらプルプルと震える拓海を見て、大臣が不審そうに尋ねる。
「あ、いや……あの……重すぎてびくともしないです……」
「「「ズコーーーーーッ!?」」」
盛大なコケを見せるワーフたち。足元でシロも「くぅん……」と呆れたように前脚で顔を覆った。
「ええい、何をやっておるか! 男衆、全員で持ち上げるのだ!」
大臣の号令のもと、体格の良いワーフの兵士たちが数人がかりで群がり、「せーのっ!」の掛け声とともに血筋を浮かべてハンマーを持ち上げた。
そのまま勢いをつけて、オリハルコンの巨大な扉へと叩きつける!
ドガァァァァァァンッ!!!!!
凄まじい衝撃音が地下通路全体に激しく響き渡り、爆風とともに猛烈な煙が巻き起こった。
やがて煙がゆっくりと収まっていくと――そこには、見事に粉砕されたオリハルコンの扉の破片と、その先へと続く巨大な大穴が広がっていた。
そして穴の最前線で、頭にライトを括り付け、全身泥まみれになりながら楽しそうにツルハシを振り回している一人の老ワーフの姿があった。
「ハッハッハ! このへんの地層は固くて最高じゃわい! 掘って掘って掘りまくるぞいーーー!!」
「「「………………え?」」」
拓海たちと大臣たちの時が止まった。
ツルハシを担ぎ、汗を流して実に楽しそうに破顔しているその老ワーフこそ――失意の底に沈んでいるはずのバルバカン国王、その人であった。
王様は突如破られた扉と拓海たちに気づくと、豪快に髭をワシワシと掻きながら言った。
「ぬ? なんじゃお主らは? 騒々しいのう」
大臣が白目をむきながら、震える声で尋ねる。
「へ……陛下……!? 一体……一体何をしておられるのですか……! 悲しみのあまり引きこもっておられたのでは……!?」
すると王様は、目を丸くしたあとに腹を抱えて大爆笑し始めた。
「なにぃ!? わしが悲しみで引きこもっておるだと!? ギャハハハハ! 違うわい! わしはただ、誰にも邪魔されずに思う存分採掘がしたかっただけじゃ! アレが生きていた頃は恐ろしくてとても王様業をサボれんかったからな!!わっはっは!」
「「「このクソ親父(陛下)ーーーーーーー!!!」」」
大臣をはじめ、駆けつけた側近たちの激しい怒号が洞窟内に木霊した。
拓海のしんみりした同情心と優しさは一瞬で吹き飛び、あまりのバカバカしさにシロとともにその場に脱力して崩れ落ちた。
「なんじゃそりゃあ!」「どれだけ心配したと思っているのですか!」「このサボり国王め!」
家来たちは口々に怒鳴り散らしているが、その顔にはどこか安堵の笑みが浮かんでいる。文句を言いながらも、王様が元気に笑っていることが心底嬉しいのだ。
(ふふっ……なんだかんだで、すごく家来たちに慕われている王様なんだな……)
拓海は苦笑しつつ胸を撫で下ろすと、気を取り直して王様の元へと歩み寄り事情を説明した。
「そういうわけで、世界樹の苗木を育てるために、この国にある『金剛の霊土』を分けていただきたくてやってきたんです」
「ふーむ……まあ良いぞ! あんなもん、この地下深くに行けばいくらでも掘り出せるからの! 好きなだけ持ってい……」
王様が気前よく許可を出しかけた、その時だった。
ふと王様の視線が、ワーフたちが数人がかりで床に転がしていた【ヒヒイロカネの大ハンマー】に留まった。
「……ん? ぬ……ぬぬぬっ!? なんじゃあそのハンマーはーーー!?」
王様は目を限界まで見開くと、凄まじい猛ダッシュでハンマーへと飛びつき、舐め回すように観察し始めた。
「ヒヒイロカネじゃ……! 間違いなく伝説のヒヒイロカネ! なぜこんなハンマーがここにある!? 亡き妻以外に、これを加工できる者などこの世におらんはずじゃぞ! だ、誰じゃ?! このハンマーを作ったやつはー!?」
「あ、それを作ったのは俺ですけど……」
拓海が遠慮がちに手を挙げると、王様はガバッと振り返り、拓海の手を強く握りしめた。
「お主が……!? ……む? 待てよ?」
突然、王様は何かを閃いたように怪しげな笑みを浮かべ、コロリと態度を一変させた。
「ふむ……よく考えたらお主、我が王城の歴史ある扉を派手に壊してくれたのう? その上、国の宝である『金剛の霊土』までタダで持っていこうとは……ちと厚かましいのではないか?」
「ええっ!? いま気前よくくれるって……!」
「黙れぃ! ワシも鬼ではない。病に苦しむフェンリル殿のためだ、特別にチャンスをやろう!……このヒヒイロカネを使って、ワシ専用の【ヒヒイロカネのツルハシ】をおぬしが作ってくれるというなら、金剛の霊土をくれてやろう!」
(この王様、現金すぎるだろーーー!!)
拓海は心の中で盛大にツッコミを入れたが、相手は一国の国王だ。背に腹は代えられない。
「……分かりました。ツルハシ、作りますよ!」
「ガハハ! 交渉成立じゃ! では行くぞ若造、まずはツルハシの材料となる『ヒヒイロカネの原石』を掘り出しに、鉱脈へ出発じゃー!」
「ええっ!? これから自分で掘りに行くのー!?」
こうして拓海とシロは、テンションの上がりきった王様とともに、さらなる地下深くの採掘場へと連れて行かれるのだった。




