鉱山都市バルバカン
精霊の森で無事にひとつ目のアイテム『月光水晶』を手に入れた拓海とシロは、ふたつ目の聖なるアイテム――『金剛の霊土』を求め、ドワーフたちが治める採掘と鍛造の都市『バルバカン』へとやってきていた。
険しい岩山を幾つも越えた先に広がるのは、山肌を削って作られた壮大な巨大鉱山都市だ。
立ち並ぶ無数の煙突からは黒煙が立ち上り、街のあちこちから鉄を叩く「カンカン! カン!」という心地よい槌音が響いてくる。
「すごいな、シロ! まるで街全体が巨大な工場みたいだぞ」
『わんっ! 鉄と石のにおいがすごくするね!』
シロも珍しそうに鼻をひくひくさせながら、拓海の隣を歩く。
このバルバカンでは、採掘専門の男性ワーフたちが深部から鉱石を掘り出し、鍛冶専門の女性ドーワたちがそれを美しい武具や道具へと打ち鍛えるという、見事な役割分担のもとで成り立っている国であった。
一見すると活気に満ちあふれているように見える街だったが、案内されて足を踏み入れた王城の空気は、外の賑やかさとは裏腹に、なぜか重苦しくどんよりと沈み込んでいた。
「……拓海殿、遠路はるばるようこそバルバカンへ。しかし……実に心苦しいのだが、いま『金剛の霊土』をお渡しすることは叶わんのだ」
重厚な白亜の応接室で拓海たちを迎えたのは、立派な髭を蓄えた大臣のワーフであった。大臣は深く深呼吸をすると、胸に手を当てて深々と溜め息をついた。
「そこをなんとかお願いできませんか?俺たち、世界樹の苗木を育てるためにどうしても必要なんです」
拓海が尋ねると、大臣は悲痛な面持ちで目元をぬぐいながら、ゆっくりと口を開いた。
「実はな……我が国の国王陛下が、半年前、最愛の女王陛下を病で亡くされて以来……王城の最下層、地下へ続く『開かずの扉』の向こうへ閉じこもられてしまったのだ」
「引きこもり……ですか?」
「うむ……。『金剛の霊土』は王と女王しか立ち入れぬ最深部の聖域にある。だが、陛下は誰の呼びかけにも一切応じず、お食事の差し入れすら扉の前に置かせるのみ。愛する伴侶を失った深い絶望から、たった一人で暗闇の中で喪に服しておられるのだ……」
大臣の後ろに控える若い側近や兵士たちも、一同に悲しそうな顔で俯いている。
「そんな……」
拓海は胸を痛めた。
最愛の妻を亡くした悲しみで心を閉ざし、誰とも会おうとしない王様。
足元でシロも「くぅん……」と切なげに耳を伏せ、拓海の脚に体を寄せている。
「俺に……何かできることはないでしょうか。俺、クラフターなんです。たとえば女王さまとの思い出の品を作るとか、少しでも励ますことができれば……」
「気持ちはありがたい。我ら家来たちも、あまりに陛下が心配で、なんとかして扉をこじ開けてお顔を拝見し、お慰めしたいと連日試みているのだ。……だが、あの扉が立ちはだかっておるのだよ」
「扉……ですか?」
大臣は重々しく頷くと、「ついてまいれ」と拓海たちを王城の地下深くへと案内した。
◇
幾重もの階段を降り、ひんやりとした冷気が漂う地下の最下層へたどり着くと、そこには息を呑むような光景があった。
薄暗い洞窟の行き止まりに鎮座していたのは、圧倒的な存在感を放つ黄金色の巨大な門扉だ。
「これが……『開かずの扉』……」
拓海が近づいて表面を触ると、金属特有の冷たさと同時に、押し返されるような強大な魔力を感じた。
「この扉は、地上で最も硬いとされる伝説の金属【オリハルコン】で鍛造されているのだ。どんな攻撃魔法も弾き返し、生半可な大槌では傷一つつけられん。この扉を打ち砕き、こじ開けることができるのは……同じく神の金属と称される【ヒヒイロカネ】で造られたハンマーただ一つ」
大臣は悔しそうに拳を握りしめた。
「かつて陛下が採掘された『ヒヒイロカネの原石』なら、宝物庫に一つだけ保管されておる。……だが、ヒヒイロカネはあまりに頑丈で熱を通さず、我が国でそれを加工し道具へと鍛え上げることができたのは……後にも先にも、最高峰の鍛冶技術を持っていた、今は亡き女王陛下だけだったのだ」
「女王様だけ……」
「左様。ヒヒイロカネの原石があろうと、それをハンマーに加工できる者はもうこの世におらん。ゆえに、我らは陛下が自ら扉を開けてくださるのを、ただ祈って待つことしかできんのだ……」
家来たちが絶望に肩を落とし、静まり返る地下通路。
扉の奥に閉じこもった王様を心配しながらも、手出しができないもどかしさに全員が下を向いている。
その時だった。
「――あの、それなら俺が作ってみてもいいですか?」
静寂を破った拓海の言葉に、大臣をはじめワーフたちが一斉に顔を上げた。
「な……何と言った、たくみ殿? ヒヒイロカネを加工するだと……!? バカな、あれはドワーフの伝説的な鍛冶職人であっても手を焼く幻の鉱石なのだぞ!?」
「俺、これでもクラフターなんです。現物の原石を見せてもらえませんか?」
大臣は半信半疑の表情を浮かべつつも、拓海の真剣な眼差しに押され、急いで宝物庫から重厚な木箱を持ってこさせた。
箱の蓋を開けると、そこにはまるで太陽の欠片のように真熱に揺らめく、不思議な輝きを放つ鉱石が収められていた。
【ヒヒイロカネの原石】
品質: 伝説級(SSランク)
説明: 太陽の炎が結晶化したとされる伝説の神金属。加工には途途もない魔力と神級の技巧を要する。
(おぉ!これがヒヒイロカネか!)
拓海は深く息を吐くと、一歩踏み出し、両腕を大きく曲げて胸を張る魅惑(?)のマッスルポーズを決めた!
「ムキムキ⭐︎マジカルクラフト!」
「ムキーンッ!⭐︎」
「なっ……なんという掛け声と魔力じゃ!?」
「原石が……ヒヒイロカネが形を変えていく……!?」
ワーフたちが拓海のマッスルポーズに目を剥いて驚愕する中、真紅の光は徐々に凝縮され、やがてカツンと重厚な音を立てて収束した。
光が消えたあとに拓海の手に握られていたのは――太陽のような赤い紋様が浮かび上がる、圧倒的な威容を誇る超重量級の【ヒヒイロカネの大ハンマー】であった。
「で、できた……!」
「「「バ、バカなあああああーーーーーっ!?!?」」」
亡き女王にしか加工できないはずの伝説の金属を、謎のマッスルポーズと掛け声とともにものの数秒でハンマーへと仕立て上げた拓海の姿に、地下通路はワーフたちの怒号のような歓声と悲鳴に包まれるのだった!




