ま、またお前かー!!
やがて陽が落ち、満天の星が夜空を彩る頃。
拓海とシロはツバキの手引きのもと、気配を殺してアラクネ族の集落へと潜入していた。
月光に照らし出された村の光景を目にして、拓海は思わず息を呑んだ。
(め、めちゃくちゃ和風だーーーーー!?)
立ち並ぶのは、見慣れた洋風の木造建築ではなく、重厚な茅葺き屋根の家々。
足元にはしっとりと湿った砂利道が続き、村の入口や要所には朱塗りの鳥居が静かにそびえ立っている。さらに奥には風情ある高床式の大型倉庫が建ち並び、まるで日本の時代劇や古民家村に迷い込んだかのような趣であった。
「こっちだ、足音を立てるなよ」
ツバキが声をひそめ、しなやかな八本の蜘蛛脚で滑るように先導する。
警備の目を掻い潜り、彼女は目当ての高床式倉庫の前にたどり着くと、重厚な木の扉をわずかに隙間開けた。
拓海とシロはすべり込むようにして倉庫の中へと身を躍らせる。
ひんやりとした倉庫の内部には、ほのかに上質な糸と木の実の香りが漂っていた。
ツバキが手元の小さな提灯に明かりを灯すと、暗がりの中に浮かび上がったのは、倉庫の一番奥に敷かれた艶やかな絹の布だった。
そして、その布の上に大切に安置されていた「ご神体」を目にした瞬間――
「ぶぶーーーーーっ!?」
拓海は盛大に吹き出した。
「なっ!? バカ、声を落とせって言ったろ! 気づかれたらどうするんだ!」
ツバキが慌てて拓海の口を手で塞ごうとし、シロも「わんっ!?」と驚いて毛を逆立てる。
「ご、ごめん……っ! むせて、ゲホッ……!」
必死に口を押さえながら謝る拓海だったが、その心の中は阿鼻叫喚の嵐だった。
(そういえばご『神』体って言ってたな!! アラクネ族が祀ってた神様もあいつかよぉぉぉぉーーー!!)
そこにあったのは、王城の聖像で見たのと全く同じ、あの不吉な筋肉神ナルキッソスの、憎たらしいほど優美で整った顔立ちの像だったのだ。
元は艶のある最高級の白大理石のような石で作られていたのだろう。
長年の月日によって表面は少し風化し、ところどころに風情ある苔がむしているが、割れた断面は今なお輝くようなツヤを保っている。
しかし……その被害状況は実に悲惨だった。
細身の胴体部分こそ無傷で残っているものの、首が根本からバッキリと折れ、さらに一番大事な顔面のパーツに至っては、眉間の真ん中から真っ二つにパックリと割れてしまっていた。
(う、うわぁ……。見事に割れてるな……。っていうか……)
拓海は頭を抱えた。
(いくらフィアやシロのためとはいえ……俺にあの筋肉神を称える像なんて……精神的にクラフトできるのか……!?)
「……どうなんだ? 直せそうなのか……?」
ツバキが不安そうに拓海の顔を覗き込んできた。
拓海は必死に顔を引きつらせ、冷や汗を流しながら答える。
「……おう。なんとか……なんとかしてみせるよ……!(精神が持てば!)」
妖精国、精霊の森、そしてアラクネの里を巻き込んだご神体修繕ミッション。
拓海のクラフターとしての腕前とメンタルが今、かつてない試練に晒されようとしていた!




