後日談 アンジュの場合
アンジュ王女が即位して四年。
クルサード王国は宗主国ルクレール帝国を後ろ盾に、
フォスティーヌとソニア、宰相となったフェルナンが内政を正し、クルサード王国公爵家当主でありルクレール帝国王女であったアリアナが、母国の力を借りて教育、武力にメスを入れた。
わずか二年で財政は持ち直し、四年たった今では他の属国に負けない発展を遂げていた。
どれだけ前国王夫妻のリカルドとマジェスタが無能だったのか伺い知れる。
フォスティーヌ、ソニア、フェルナン、アリアナの手腕はもちろんのこと、アンジュの政治的判断は素晴らしく、クルサード王国女王として非の打ち所のない治世者となっていた。
が、最近、アンジュの様子がおかしい。
一人溜息をつく姿が見られるようになった。
「大丈夫か」と聞かれたら「大丈夫」と答える。
執務に遅れはないし、学園でも異常はない。
疲れたのかと言われればそうであろう。
たった十三歳の少女が国を背負って立ち、学園に通いながら女王としての執務もこなす。側近がいくら優秀であっても疲れは溜まるだろう。
フェルナンはアリアナに相談した。
するとアリアナは、
「あぁ、そうね、そういう時期かしら」と、
サササと手紙を書き、「出しといてね」と侍女に渡した。
手紙の返信が届いて直ぐにアリアナは登城し、アンジュに会った。
顔を合わせてすぐにアリアナは「ふふふ」と笑った。そして、
「あの時のフォスティーヌ様の気持ちがよく分かったわ」と言う。
「あのね、貴女には休養が必要よ」
「……あっ!」
そう、アリアナが十八歳の時、フォスティーヌの助言でクルサード王国学園へ編入してきた。王女ではなく子爵令嬢として。そしてフェルナンと出会い、この国に根付いたのだ。
「……私は心が疲れているのですね……」
「そうね、寂しい時は相談するように言ったけれど、なかなか言えるものではないわね。ましてや、女王ですもの。泣き言なんて言えないと思うのも分かるわ」
私はたかが王女でしたけどね、とアリアナは笑う。
ボロボロと涙をこぼすアンジュに、アリアナはハンカチをそっと渡す。
「嫌なわけではないのです。国が発展していく様はやりがいがあるし……」
「そうね」
「学園でも友人達がフォローしてくれていますし」
「そうね」
「国民の期待に応えたいし」
「そうね」
「……でもどうしても女王でなければという想いが消せないのです。わかっています!我儘を言ってはいけないと!私しか居ませんし、私しか出来ないことがあることは幸せなことだとわかっています!」
「……」
「でもどうしても、どうしても消せないのです!
普通の令嬢としての生活を求めてしまう……」
「そうね、その通りだわ」
アンジュは泣きじゃくる。女王としてあるまじき行為だが、目の前のアリアナは同じ経験を持つ人間だ。アンジュの言葉にただ肯定し、頷き、必要以上の慰めのないことに安堵するアンジュの涙は止まらない。
「……だからね!お休みしましょう!」
「……えっ……」
「学園の次の長期休暇の時、一緒に【女王】もお休み取っちゃいましょう!」
「えっえっえっ!そんなの可能でしょうか……」
ニコニコと笑うアリアナに呆けるアンジュ。
「ルクレールとクルサードの国境のルクレール側の街に、友人の別荘があるのよ。手紙を出したら受け入れてくれるそうよ。私もお邪魔したことがあるけど、自然は素晴らしいし、街並みも豊かだわ!」
あら、クルサード側に別荘を買おうかしらと、考え込むアリアナはさらに続ける。
「残念だけど私ほどの時間はあげられないわ。長期休暇の一カ月。しがらみのない場所で、貴女らしさを取り戻して欲しい」
「いいのでしょうか……」
アリアナはアンジュの手をギュッと握りしめる。
「いい?よく聞いて。貴女は今、皆の愛を忘れているだけです。私もそうフォスティーヌ様に言われたわ。でも頭では分かっていても受け入れられなかった。心の壁に弾かれるようにね。
貴女も同じでしょう。
いくら私が言葉を尽くしても流れていくような感覚。
でもね、何度でも言うわ。アンジュ様、愛しているわ。この国に女王としてではなく、友人として、大切な義妹としてよ」
今は覚えていてくれるだけでいいわ、とアリアナはアンジュを抱きしめた。
そうして学園が長期休暇に入ってすぐ、アンジュはルクレールの国境の街、サラナンへ旅立った。
「……大丈夫でしょうか……」
フォスティーヌが不安気に尋ねる。
「大丈夫よ。護衛はつけたし、あちらでも受け入れ態勢は万全と連絡が来たわ。あとはアンジュ様の心が癒されるかどうかね。ううん、心配しなくてもいいわ!絶対に元気に戻ってくる!」
その根拠は?と聞くフェルナンに、アリアナはニヤリ顔で、さあね〜と答える。そして、
「いい報告が聞けるかもよ」としたり顔もした。
馬車で三日かけてたどり着いたサラナンの街は、アリアナの言った通り、自然豊かで活気のある街だった。こんな国にしたいと窓から外の様子を眺めていたアンジュだが首を振り考えるのをやめた。今は女王じゃないと自分に言い聞かせながら窓のカーテンを閉める。
しばらく目を閉じ、馬車の揺れに身を任せていると、揺れがおさまり、アンジュは目を開いた。どうやら着いたらしい。護衛にエスコートされ、地に足をつくと、そこは別荘という名の城が建っていた。
「こ、これが別荘!?」
思わず声に出すアンジュ。そこはアンジュが住むクルサード王国王城をほんの少し小さくしたぐらいのもので、宗主国ルクレールの偉大さを伺い知るものだった。
別荘の使用人が両脇に並ぶ中、中央から歩み出る者がいた。アンジュの近くまでたどり着くと、頭を下げる。
「お、お世話になります」
とアンジュが頭を上げるように言うと、
「ようこそおいでいただきました。
この別荘の持ち主、ルクレール帝国ビンダー侯爵家次男ニックと申します」
はじめまして、と名乗るニックにどこか既視感を覚えたアンジュだが思い出せない。気の所為だろうとし、
「クルサード王国のアンジュです。お世話になります。……あの、クルサード王国女王ではなく、ただのアンジュとして扱っていただきたいのです。名もアンジュとお呼びください」
と言うと、ニックがにこやかにそれに返した。
「お聞きしておりますよ。アンジュ様。アリアナ様から伺っております。我が姉がアリアナ様の友人なのですよ。幼い頃から私も随分可愛がっていただきました。ここ三、四年はひどく……。
いえ、とにかくお入りください。お疲れでしょう」
アンジュはニックにエスコートされ、別荘に足を踏み入れた。中は外観ほど豪奢ではなく、アンジュ好みの家具や花が飾られ安堵した。
通されたアンジュ用の部屋も華美ではなく、薄青にベージュでまとめられた可愛い部屋だった。
「……素敵っ!」
「気に入られましたか?」
「ええ、とても!ありがとうございます。ビンダー様」
「ああ、私のことはニックとお呼びください。まだ夕食までは時間があります。ゆっくりお休みください」
「ありがとうございます!ニック様」
部屋の中を見て回るアンジュは後ろを向いたニックの顔に気づくことはなかった。
その日はニックと夕食を共にし、他愛も無い会話をして床についた。
明日はニックに街を案内してもらうことになっている。アンジュが起きてから出かければいいから、ゆっくりしてほしいと言われた。
明日の予定は街に行くことだけ。何時に何をし、更に何をこなし、それから何をしてと時間に追われていた私が、予定が一つなんて……とアンジュは笑った。
初日だというのに信じられないほど深い眠りにおちていた自分に驚いて目が覚めた。
「嘘でしょ、ぐっすりだったわ」
何度も悪夢で夜中に目覚め、寝汗でびっしょりだった日もあった。
起き上がると同時にノックの音がする。
「どうぞ」
許可をし部屋に入ってきたのは、侍女のサリーだ。ニックがつけてくれた侍女で、昨日も夜の支度をお世話してくれた。クルサード王国から連れてきた侍女もいるが、昨日着いたばかりの上、アンジュの乗っている馬車と仕様が違うため、長時間の移動は辛かっただろう。今日はゆっくりしてもらうことにした。
「おはようございます。よくお眠りになられましたね」
「ええ、自分でも驚いたわ。何時振りかしら。朝まで起きないなんて」
「よろしゅうございました。ニック様がお待ちです。支度をいたしましょう」
「ええ、お願いね」
顔を洗い、身支度を整える。
「あら?このワンピースは私が持参したものではないわ」
「はい。ニック様からの贈り物です。いかがですか?」
「まあ!いいのかしら!」
「ええ、お喜びになられますよ」
ルクレール帝国風の薄青のワンピースはまるでアンジュの為にあつらえたように身体に馴染んだ。
ワンピースだけじゃなく、この部屋もアンジュの好きな色や好きな形の家具。寝具の肌触りも、全てアンジュの好みに仕上がっている。
「アリアナ様が教えたのかしら」と少し疑問に思った。
「ああ!よく似合ってます!」
ニックはソファーから立ち上がり、アンジュを迎えた。
「素敵な贈り物をありがとうございます。私好みで嬉しいですわ」
「喜んでくれて嬉しいな。さあ、出かけましょう!」
丘の上に建つ別荘から下ったサラナンの街は、初めて馬車で通り過ぎた時と同じ様に活気に満ち溢れていた。
「この街はルクレール帝国の発祥の地といわれています。ここから北の今の王都の辺りは未開の地でした。それをこの街の住民の先祖が切り拓き、ルクレール帝国が出来たのです。だから国境の街でありながら、ルクレール帝国ここに有りと誇りを持って暮らしている人が多いのですよ」
「そうなのですね」
ニックは丁寧にこの街の成り立ちや名所を案内した。街一番の商店街の一画に馬車は止まった。
「ここは?」
「サラナン一押しのカフェです。テラス席を予約してあります」
「テラス席!?初めてです!友人とカフェに行ったことはあるのですが、いつも警護上個室しか行けなくて……。あの……大丈夫でしょうか」
「ははは。気にしなくて大丈夫ですよ。この街には王族もお忍びで訪れます。警備も王都並みに厳しいので安心してください」
テラス席はサラナンの街並みを見下ろせる二階にあった。
「……っ素敵だわ!」
「満足いただけました?」
「ええっ!」
「それは良かった。ここの紅茶もタルトも王都に負けません。クルサード王国の侍女達にもお土産を買っていきましょう」
アンジュは、ニックの気遣いに感謝をして、紅茶と桃のタルトを食べながら景色を眺める。
風が髪をなでる。
遠くには子どもたちの声が聴こえる。
穏やかに流れる時間。
「来て早々、こんなに癒されるなんて……」
「それは良かったです」
「ふふ。ありがとうございます」
「まだまだこれからです」
それからニックは、アンジュのやりたかったことに全て付き合った。
「時計台に登りたいなんて、普通の令嬢は言いませんよ」
「ハアハア……。高い所からこの街を眺めてみたかったのよ!」
時計台から見た景色は素晴らしかった。
「見て!丘の上の別荘と同じ高さよ!」
「では貴女の部屋から眺める景色と同じなのでは?」
「あ……」
「普通の令嬢は釣りなんてしませんよ」
「ニック様、さすがにエサはつけられません。お願いします」
「はあ……」
湖で釣りにも出かけた。
「何故貴女のほうが釣れるんですか……」
「ニック様は一匹も釣れませんでしたね」
「……」
「ニック様!ニック様!あれも食べてみたいです!」
「普通の令嬢は市場の串焼きを食べたいなんて言いませんよ」
「お嫌いですか?」
「……実は大好物です」
二人で市場の簡易な椅子に座り、肉の串焼きに齧り付いた。
一度、ニックに聞いたことがある。どうしてここまでしてくれるのか。するとニックは、
「私達は同い歳ですね」
「はい」
「貴女はクルサード王国の女王です。私は侯爵家次男です」
「……はい」
「けれど、私は宗主国ルクレール帝国の出身で、貴女は属国クルサード王国です」
「はい」
「一勝一敗です」
「……はい?」
「だから対等です」
「……対等?」
「対等です」
「友人と夏休みを満喫しているのです」
「友人?」
「はい」
「ふふふ」
「ははは」
アリアナが言っていたアンジュの心の壁は砕け散った。アリアナもフォスティーヌも、フェルナンもソニアも、学園の友人達もアンジュが女王でなくても側にいてくれるだろう。
「皆からの愛を忘れているだけです」とアリアナが言った言葉が心を打つ。
「対等です」と言ったニックは、その通りにアンジュに接した。アンジュのしたい事ばかりすることはなく、二人がバラバラな事がしたい時には言い合いになったりした。
対等と言えどアンジュ優先ではあったが、「それは嫌だな」と言われる事が新鮮で、ニックがやりたくないだろう事をわざわざ考えて提案したりしていた。
アンジュは毎日が本当に本当に楽しくて、自分が女王であることなんて忘れていた。そこに淡い恋心が生まれるのは当然のことだろう。
実はアンジュには心が疲れていた理由があった。
アンジュは十七歳。あと一年半で学園を卒業する。
アンジュにはまだ婚約者がいない。
属国とはいえ、クルサード王国女王であるアンジュには、山程の縁談の申し込みがあった。
王配を選ぶのだ。慎重になる。クルサード王国の王配に相応しいのは誰なのか。前国王夫妻の様に愛に溺れ、無能になりたくない。
でも夫婦になるのなら、アリアナとフェルナンの様に、お互いを想い、高め合う関係になりたい。それは我儘なのだろうか……。女王でなければ……。
今のアンジュは違う。心を取り戻したアンジュは、あの時、女王になると決めたのだから、クルサード王国の為に生きると決めたのだから、決して逃げない!愛する人たちの為に、と決意を新たにしていた。
そして束の間の自由を楽しんだ。
恋心を隠して……。
アンジュの帰国まで一週間。
薄青の花ネモフィラが咲く高地へ行ってみないかとニックに誘われた。ネモフィラは春の花。しかし、サラナンの高地にあるそこは涼しく、夏の訪れが遅いため、いまでも咲き誇っているネモフィラの群生地だそうだ。
「大丈夫ですか?」
「平気よ」
山の麓までしか馬車は行けない。その先はもちろん徒歩になる。サラナンに来てから、あちこちへ動き回っていたアンジュにはこれくらい何ともない。ゆっくりではあるものの、確実に歩を進める。
「着きましたよ」
と、ニックに手を引かれたどり着いたそこは、一面に薄青のネモフィラが広がっていた。まるで空を映し出したように広がるその光景に、アンジュの瞳から雫が落ちる。
「私ね、薄青色が好きなの。十四の歳かしら、親友ができてね、その娘の瞳が薄青だったの。本当に楽しくて毎日が輝いてたわ。
即位したばかりでなかなか学園に通えなかったけど、行けば彼女がいる。他愛も無い話で盛り上がって笑って、時にはケンカして。
アリアナ様が友情は力になると仰っていたのよ。その通りだったわ。
……でもね、彼女、私が執務で忙しく、学園に通えないうちに、突然母国に帰ってしまったの。留学生だったのよ。あまりに突然で連絡先も聞けなくて、それきり会っていないの」
ずっと黙っていたニックは
「彼女に会いたいですか?」
と、聞いた。アンジュはそうね、と答える。
「会いたいわ。でも出来ない。探す時間もないし、手がかりもない。でも会えたら……。そうね、頬を張ってやろうかしら。
何で何も言わずに居なくなったの!
ずっとずっと寂しかったのよ!……ってね」
するとニックがアンジュの手を握り、自分の頬にパチンとアンジュの手を当てた。
「ごめんね、アンジュ」
「……え?」
「……実は」
執務室にいるアリアナのもとにアンジュから手紙が届いた。
封を開け分厚い量の手紙を読む。
「あらバレちゃったわ。ふ〜ん、でもやっぱりね」
とアリアナはクスクスと笑い出す。
そばに居たフェルナンが、フォスティーヌとソニアと共に「何があったのですか?」と聞くと、
「アンジュ女王の王配が決まったわ。ルクレール帝国ビンダー侯爵家次男ニックよ」
と、アリアナはアンジュが旅立つ前に見せたしたり顔で答えた。
「ここだけの話にしてね」とアリアナは話を続ける。
ルクレール帝国ビンダー侯爵家。そこはルクレール帝国の諜報部を司る家門であり、王家の影を育成する組織だ。
アリアナはアンジュの学園の護衛にアンジュと同じ歳のニックを選んだ。ビンダー侯爵家次男として育ったニックは優秀で任務に最適だった。
男でなければ……。
だか、幸いにニックは成長過程が遅く、身長もそれ程高くなく、まだ声変わりをしていなかったので、カツラを被り、女装して学園に編入した。
「思春期の男児が……、地獄……」
と呟くフェルナンは置いといて、アリアナの話はさらに続く。
ビンダー家の「影」教育が身に付いているニックは、すぐにアンジュと親しくなったが、半年程で声がかすれるようになり女子生徒として通うことが無理になり、仕方なくニックは帰国した。アンジュに別れを告げないまま。
その後は側近としてアンジュを守るのではなく、違う影を目に見えない形で置くことにした。
それが出来るのなら、ニックでなくても良かったのではと、声が上がったが、アリアナだって理由がある。
アンジュには可哀想なことをしたと思う。
でもアリアナの想定以上の仲の良さには驚いた。
「それはつまり……」
「ええ、アンジュ様の伴侶にニックはどうだろうと思ってたのよ。
笑えるわ!ニックったら、アンジュ様に一目惚れよ!
アンジュ様の為人をニックに見極めて欲しくて任命したのだけど、まさか初日に恋に落ちるなんて!」
クルサード王国に嫁ぐまで、ずっとからかって遊んでいたのよ。対象者に惚れるなんてバカね〜とか。
こっちの思惑通りなんて知らずに!、とアリアナはケラケラ笑う。
「それで、私の経験からも、そろそろアンジュ様の限界が来るんじゃないかと。縁談もたくさんあったけど、私は政略なんかでアンジュ様を縛りたくなかった。あの方は国のためにそうするつもりだったでしょうけど」
三人は頷く。クルサード王国の為に生きる。アンジュの強い決心を知っているから。
「ニックは宗主国ルクレール帝国侯爵家次男。身分は申し分無いわ。諜報の腕も一流。性格も良し。他の属国の王子やら令息等比べ物にならないわ。」
アンジュ様がニックを選んで良かったわ〜。まあ、アンジュ様が薄青色が好きな時点で、こうなる事は想像してたけど。と、アリアナは机の引き出しから紙を取り出した。
「フォスティーヌ様、こちらにサインをしてくださいな」
「……え!?婚約届!?」
「はい。ルクレール帝国ビンダー侯爵家当主と、ニックのサインは記入済みです。あとは王太后であるフォスティーヌ様と、アンジュ様ですね」
「……」
「ニックではダメですか?」
「い、いえ!ダメではないです!ありがたいお話しで……」
ではどうぞ。と、アリアナはペンを差し出す。
フォスティーヌはペンを受け取りサインをする。
「よろしくお願いいたします」
「はい。皆で幸せになりましょうね!」
アンジュは帰国後、アリアナの元へ行き、
アリアナ様のバカーっ!と叫びながらアリアナの胸をポカポカ叩いた。
アリアナはそんなアンジュを抱きしめながら大笑いをしていた。
「……でも、ありがとうございます」
アンジュは顔を真っ赤にして泣き笑いながら礼を言った。
「ではこちらにサインをくださいな」
「……え、婚約届!?」
「ニックはすでに記入済みです」
「ま、まぁ」
「二人で決めたのでしょう」
「……はい」
ニックは初めて会った時から決めてましたけどね、とアリアナはペンを差し出す。
アンジュはペンを受け取りサインした。
「ありがとうございました」
「いいえ、たくさん幸せになりましょうね」
卒業と同時にアンジュはニックを王配に迎えた。
バルコニーから手を振る、白のウェディングドレスを纏い王配と仲睦まじくする女王の姿に、クルサード王国民はこの国の繁栄を確信した。
読んでいただき、ありがとうございました。
これで完結です。
短編作品
知ってました?「俺がいないと駄目なんだ」と思わせる女は、他の男にもそう思わせてますよ
も合わせてお読みいただけたら嬉しいです。




