第8話・ギルベルトの苦悩
「俺も、新しいリーダーは、ギルベルトさんがいいと思うんですよねぇ」
国民たちが寝静まった後、チェスターはダンカン・ダウソンとビル・ヒドルスに言った。
「パメラさんがさっき言ったように、新しい場所での生活に、まとめ役っていうか、リーダー的な存在は必要です。そして、それをギルベルトさんに求めるのは、普通の事だと思います。ギルベルトさんは、どうして駄目って言うんでしょうか?」
「さぁ、どうしてだろうねぇ」
ダンカンとビルは顔を見合わせると、苦笑した。
「チェスターくんこそ、ギルベルトよりも、フェンリルくんがリーダーの方がいいんじゃないのかい? もしくは、君とか」
ダンカンの言葉に、チェスターは首を横に振った。
「フェンリルは、西の砦で傭兵をしていた時はともかく、村のリーダーってタイプじゃないから、嫌がりますよ。あと、俺は補佐タイプですからね、リーダーって柄じゃない。それに、パメラさんたちがギルベルトさんに新しいリーダーになってもらいたいって思うのは、安心感を求めているんだと思うんですよね。だから、みんなのためにも、ギルベルトさんになってもらいたいんですけど……」
「確かにね。でも、私たちから無理強いはできないよ」
「それは、そうですけど……」
ダンカンとビルに諭されはしたものの、今後の事を考えると、チェスターは諦めきれなかった。
「多分、今回の私たちの行動で起こるだろう悲劇の事を、考えているのだと思うよ」
「そうだね。ギルベルトは少しだけ、後悔しているのかもしれないね。間違いなくたくさんの命が、消えてなくなってしまうだろうから。彼は、たくさんの命を見捨ててしまった、と思っているのかもしれない」
「そう、か……。確かに。でも、それなら俺たち全員そうだし、第一オウンドーラ側の問題じゃないですか」
「あぁ。だけど、ギルベルトはああ見えてとても優しい男でね。気にしてしまうのだと思うよ。そして、だからこそ、自分はこれからの新しい暮らしのリーダーにはなれないと思ったのだと思う」
「なるほど、そういう事でしたか……」
チェスターは頷くと、ちらりと後ろへと目を向けた。
チェスターの視線を追いかけるように、ダンカンとビルもその方向へと目を向ける。
「盗み聞きとは、感心しませんよ、パメラさん」
苦笑したチェスターに、名前を呼ばれたパメラも苦笑した。
「盗み聞きじゃないよ。飲み物を持ってきたら、聞こえてしまっただけ。と言っても、ただの白湯だけどね」
パメラはそう言うと、コップを載せたトレイをチェスターに渡した。
「あの人……ギルベルトさんは、本当に優しい人なんだね。でもね、気にする事はないと私は思うよ。だって、これから確かに大勢の命が失われてしまうかもしれないけれど、あいつらは、自分の意思で王都に残るって決めたんだよ。その命まで、ギルベルトさんが背負う事はないさ。だってギルベルトさんは、オウンドーラの王様じゃない。オウンドーラの事は、オウンドーラ王が考えるべき事なんだよ」
「なるほど」
「それに、ギルベルトさんは、王都を出た私たちを守って、ここまで連れて来てくれたじゃないか。そして、私たちがここで暮らしていけるように、できるだけの事をしようとしてくれている……あの人は、王都に残った人間を見捨てたんじゃない。王都を出る決意をした私らを、救ってくれたんだよ。だから、私はあの人に新しいリーダーになってほしいんだ。人を見捨てたなんて、思ってほしくない。そんな事で落ち込むのなら、これから私たちをしっかりと守り抜くって言ってもらいたいもんだよ!」
そう言い切ったパメラに、チェスターは拍手を送り、ダンカンとビルは、ありがとう、と彼女に感謝した。
そして彼女の背後に視線を向け、
「ねぇ、ここまで言ってもらっているのだから、引き受けてあげたらどうだい? どちらにせよ、君はここで暮らす人々を一生守っていく人生を歩むつもりなのだろう?」
と言った。
パメラが振り返ると、そこにはギルベルトが居り、あぁ、と頷いた。
「ここで暮らす者たちを、私は自分のこれからの生涯をかけて、守っていこう。私に君たちを、守らせてくれ」
そう言ったギルベルトに、パメラは涙ぐみながら、
「ありがとう」
と言った。




