第9話・守りたい場所
「ベル、大丈夫か?」
王都オフレンドを出て、目的の滅びた村に着いた後、具合の悪かったベルは復興作業の邪魔にならない場所で体を休めていた。
復興作業を手伝いつつ、頻繁に様子を見に来ていたフェンリルは、心配そうに彼女に声をかける。
「えぇ、だいぶ元気になったわ。心配かけてごめんなさい。明日は、私もいろいろお手伝いをします」
「そんなの、気にしなくていい。それよりも、無理をしないでくれ。ビルさんもそう言っていただろう?」
フェンリルにそう言われて、ベルは頷いたが、でも、と彼の顔を見つめ、苦笑した。
「ありがとう、フェンリルさん。でも、今回の事は、私のせいで起こったようなものだもの……。一緒に王都を出たみなさんに、私も何かできる事をしてあげたいの」
「そうか、ベルは優しいな。ギルベルトさんと同じような事を言うんだな」
「え? どういう事ですか?」
「ギルベルトさんが優しいっていう話だ。あの人は、これからの人生を、王都から出てきた国民たちを守るために使う事にしたらしい。優しくて、責任感のある人だな。ベルが優しいのは、ギルベルトさんに似たんだな」
「そう、かしら」
「あぁ、きっとそうだ。でも……」
フェンリルは彼女に近づくと、細い体を抱き寄せた。
「でも、その優しさが俺は心配だ。だから、ベルの優しい気持ちはわかるが、まずは自分の体を治す事を優先してほしい。俺は、ずっとベルのそばにいるから……。俺も、ベルやギルベルトさんと一緒に、ここを守るから……」
フェンリルの腕の中で、ベルは涙を流した。
ありがとう、と呟くと、当たり前だろうとフェンリルは答える。
「ベルが居る場所が、俺の居場所だ。ずっとそばに居る……だから……頼むから、しばらくの間は体を休めて、元気になる事だけを考えてほしい。俺のためにも、な」
「はい……」
頷いたベルは、フェンリルの逞しい腕の中で、彼のためにも元気にならなければと思った。
もちろん、王都オフレンドを出てきた国民たちの事は気になるが、自分にもしもの事があれば、愛する人がどれだけ辛い想いをするだろうと思ったのだ。
それは、フェンリルだけではない。ギルベルトもだ。
彼らに二度と辛い想いをさせるわけにはいかなかった。
「フェンリルさん、あのね」
「なんだ?」
「私、元気になったら、この村に防御結界を張るわ。ここを、守りたいの」
ベルがそう言うと、フェンリルは優しく笑って、そうか、とだけ言った。
「それから……あなたと一緒に、ここで幸せに暮らすの。あなたと、私と、いつか子供も授かれればいいな」
フェンリルはベルの言葉に驚いたようだったが、やがて幸せそうに微笑むと、頷いた。
それから、約一月後、廃墟から立て直された小さな村に、強力な防御結界が張られた。
この村は時を経てやがて国にまで成長していくのだが、強く逞しい王と兵士、そして防御結界に守られ、みんな幸せに暮らしたのだという。
そして、一人の青年の身勝手な愛で滅んだ国の事は、時が経つと供に、人々の記憶から失われていった――。




