第2話・商人の逃亡
今まで通りの生活ができると思っていたトマスだったが、少しずつ王都の異変に気付き始めた。
物価が上がり、国民たちがみんな苛立つようになってきたのだ。
「どうして小麦粉がこんなに高いのよ! 以前の五倍じゃない!」
「それは、商品が入ってこないから、量がないんですよ」
「それなら、仕入れに行けばいいじゃない! あんたたち商人は、仕入れて売るのが仕事でしょう!」
店先で国民が商人に怒鳴りつけているのを見て、トマスはコールド伯爵家の屋敷に戻り、棚という棚を開けて食料をかき集めた。
そしてそれを持ってベルと暮らした屋敷に戻り、倉庫に備蓄する。
両親やウォルトが戻ってきた時に食料がないと叱られるかもしれないが、その時はこの屋敷に招けばいいだろう。
無人の屋敷に置いたままでは誰かに奪われるかもしれないから、両親はトマスを褒めてくれるかもしれない。
「商人たちが食料を手配してくるまで、これでなんとかなるだろうけど、早くなんとかしてくれないものかな……」
トマスはそう思ったが、それは簡単にはいかなかった。
王都オフレンドに残っていた商人たちは、誰もが国民たちに責められて憔悴しきっていた。
商品の仕入れのためには、あの魔の森を越えて行かなくてはならない。
だが、今はもうあの魔の森に、傭兵たちは居ないのだ。
商人たちだけではあの魔の森を越えていくのは、不可能に近かった。
彼らはオウンドーラ王を信じてこの王都に残り、他の商人たちがギルベルトたちと出て行った時、馬鹿にしたように笑っていた事を、心の底から後悔していた。
ギルベルトたち傭兵と共にこの王都オフレンドを出て行った者たちは、正しかったのだ。
「とりあえず、このままここに居てもどうしようもない」
それが、商人たちの出した結論だった。
例え打つ手がなくとも、何か行動を起こさなければ、このままでは国民たちが何をするかわからない。
そこで商人たちは、この王都に残っていた冒険者などの、腕に覚えがある者たちをかき集め、商品を仕入れに行くという名目で、王都オフレンドを出る事にした。
今店に置いてある商品は、全て置いて行く事にした。
国民たちに、
「商品を大量に仕入れてすぐに戻ってくる。迷惑をかけたお詫びだ」
と言ってばら撒けば、国民たちは気を良くして頷き、何の疑いもなく商人たちを送り出した。
だが、商人たちは戻ってはこなかった。
魔の森を抜けられずに途中で全員死んでしまったのかもしれないし、無事に魔の森を抜けたのだとしても、最初から戻るつもりがなかったのかもしれない。
そのどちらなのかはわからないが、これで王都オフレンドに住む者たちは、完全に退路を断たれた事になってしまった。




