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コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす  作者: 明衣令央
第3章:それぞれの思惑

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第8話・選択



「この国の兵力だけで、魔物たちの襲撃だけなら、なんとか防げるかもしれません。でも、それだけだ。いずれ力尽きてこの国は魔物たちに滅ぼされるでしょう。元々、この国はかなりまずい位置にありましたからね」




「あぁ」




 オウンドーラ王国は、北、東、西を岩山に囲まれた、袋小路のような場所にある国だった。


 他国へと続く南に街道が伸びては居るが、その街道を挟んで魔物が居る森が広がっている。


 そこでオウンドーラ王は東と西の森に砦を置き、傭兵たちを雇って魔物を狩らせ、王都を守ってきた。


 だが、傭兵たちの仕事は魔物を狩るだけではない。


 街道を通る人々の護衛も兼ねていたのだ。




「俺たちがこの国から手を引くという事は、王都オフレンドに住む人々は、もうあの森を越えられないという事になります。それは、今まで王都オフレンドへと訪れていた商人たちが、もう来なくなるという事です。危険を冒してまであの街道を抜けて、王都オフレンドへ向かおうという商人なんていないでしょうし」




 そうして出口を塞がれた王都オフレンドは、兵力が尽きた時に滅びる事になりますから。




 そう続けたチェスターに、ギルベルトたちは、あぁ、と頷いた。


 そこまで読んでいたか、若いのに大したものだと感心する。




「さてと、今後の事なんですけど……明日はいろいろと買い物をして、明後日にはここを出たいと思ってるんですよね~」




「あぁ、それくらいがいいだろう。あまり長くここに滞在したくないし、森の魔物が湧いて出るまでに、あの森を抜けたいからな」




 魔の森の魔物たちは、一定時間を経過すると、どこからか湧いて出てくる。


 王都オフレンドへと訪れる前に、東と西の傭兵たちは、魔物を狩れるだけ狩ってきたが、あと数日経つと湧いて出てくるだろう。


 また倒すのは面倒だから、それまでにあの森を抜けてしまいたい。




「チェスターくん、買い物というのは、食料品や日用品という事でいいかな? こちらでも用意しよう」




「ありがとうございます、助かります。こういう相談をさせてもらえて、嬉しいです。今後ともよろしくお願いします」




 話がまとまり、本格的にワインを飲みかけたところで、ドアの外が騒がしくなってきた。


 そして誰かがノックもせずにドアを開け、中に入ってくる。


 入ってきたのは、この宿の女将だった。




「ギルベルトさん、酒場に傭兵たちがたくさんいるからおかしいと思っていたら、あんたたち、この国から手を引くらしいじゃないか。一体どういう事なんだい?」




 そう言った宿の女将の後ろには、酒場の店主や定食屋の主人など、この王都オフレンドで商売をしている者たちが続いていた。




「どうと言われても……その通りなのだが」




 ギルベルトが答えると、




「あんたたちは、この国、いや、私らを殺す気かい?」




 と女将は言った。


 やはり商売人は勘が鋭いと、この場に居た傭兵たちは思う。




「女将……私たちは、この国に雇われたただの傭兵だ。今回の事は、王が私との約束を守らなかったから、手を引く事にした。西の森の方は、契約期間が切れてしまっていたらしい。こちらには、あなたたちを殺すつもりなどない……が、結果的にはそうなってしまうかもしれないな」




「王様との約束って、娘さんの事かい? コールド伯爵の息子と暮らしていた女は、あんたの娘の偽物だったらしいね。酒場で飲んでる傭兵たちが全部話してくれたよ。全く、なんて事だ……。あの能天気な坊ちゃんにも、オウンドーラ王にも、呆れて物が言えないよ……」




 女将は深い息をついた。心底呆れているようだった。




「ねぇ、ギルベルトさん。最後にもう一度だけ聞かせておくれ。あんたたちは本当に、この国から手を引くのかい? 考え直すつもりはないのかい?」




「あぁ」




 ギルベルトは深く頷いた。




「私は、もうこの国の王が信じられない。いくら金を積まれようと、信用できない相手のために、命をかける事はできない。これは、我々の総意だと思ってもらって構わない」




「そうかい、参ったね」




「すまない、女将……」




「いや、そっちの言い分もわかるからね。仕方がない事なんだろうよ。今までこの国は、あんたたちに頼り過ぎていたんだ……」




 女将はそう言ったが、その後は難しい顔をして黙り込んでしまった。


 彼女と共に押しかけた他の者たちも黙り込む中、一番奥に居た一人の男が声を上げた。




「あのう、ギルベルトさんたちは、いつこの国を出られるんですか?」




 その男は他の者たちをかき分け、前に出てきた。




「そうだな。このまま女将が宿に泊まらせてくれるというのなら、明日旅立つ用意をして、明後日には王都オフレンドを出る予定をしている」




「そうですか。あの、私は旅の商人なのですが、この国を出られる時に、ご一緒させてもらえないでしょうか? 他にも知り合いの旅の商人が居ますので、全員で十人ほどになりますが……」




「いいですよ。一緒に行きましょう」




 旅の商人の問いに、ギルベルトに代って答えたのは、チェスターだった。


 チェスターはギルベルトたちをちらりと見、彼らが頷くのを確認して続ける。




「俺たちは、二日後の朝九時に、この王都オフレンドを出発する事にします。その時にオフレンドから出たい人が居るなら、魔の森を出るまで俺たちで護衛します。いいですか、二日後の、朝九時です。間違えないでください」




 このチェスターの言葉に、女将たちは無言で頷いた。


 今の生活を捨て、この王都オフレンドを出ていくか、このままここに残るか……国民たちは選択しなければならなかった。








 東と西の森の砦を守っていた傭兵たちが、オウンドーラ王国から手を引くという噂は、瞬く間に広がった。


 それと同時に、コールド伯爵の三男であるトマスが、ギルベルト・ガンドールの娘を陥れ、花嫁をすり替えて王都オフレンドで暮らしていた事、オウンドーラ王が娘を手に入れてギルベルトたちを脅そうとした事などが、尾ひれがついて広がった。




「ギルベルトさんが居なくなるなんて、今後この王都はどうなるんだ!」




「コールド伯爵のところの息子は、なんて事をしてくれたんだ!」




「オウンドーラ王は一体何をしているんだ!」




「森の中の傭兵が居ないと、どうなるの? 王立騎士団が居るのに、何の問題があるの?」




「みんな、王様と傭兵と、どっちを信用しているんだ!」




「この国がどうなるのか、王様に聞けばいいんじゃないか?」




 国民たちの反応は様々で、全く心配していない者も居たが、多くの国民たちは王宮とコールド伯爵家に押しかけた。




「オウンドーラ王、ギルベルトさんたち傭兵が居なくなったとしても、この国は大丈夫なのか? 本当の事を聞かせてください!」




 押し寄せる国民たちに、王は問いに答えるしかなかった。




「私の国民たちよ! 傭兵たちが何を言ったかは知らんが、全て奴らがついた嘘だ! 惑わされてはいけない! そして、何も心配する事はない! 嘘つきな傭兵たちが居なくても、この国は大丈夫だ! 何故なら、私たちには、王立騎士団が居るからだ!」




 オウンドーラ王は、王宮のバルコニーから、高らかに言い放った。




「傭兵の代わりは、いくらでも居る! 我こそはと思う者は、王宮へと来い! 多額の給金で雇ってやろう!」




 王の話を信じた国民から、わぁ、と歓声が上がる。


 彼らは、何も心配する事はないのだと安心し、自分たちを安心させてくれたオウンドーラ王を尊敬し、彼に感謝した。




 だがその一方で、オウンドーラ王の言葉を信じられない者たちは、今後自分たちがどうするべきかを真剣に考えていた。




 ギルベルトたちが居れば、魔の森を抜けて森の向こう側に出る事はできるだろう。


 だが、今の生活を捨てて森の向こうに出て、どうすればいいのか?


 新たな土地を求めてさ迷い歩くのか?


 新たな土地での生活は、どう暮らしていけばいいのか? 不自由な生活で苦労するのではないのか?


 それなら、このまま王都で暮らしていけばいいのではないか?




 盲目的に王を信じられる者たちは、良かった。


 だが、古くからこの地に居る者は、東と西の森にある砦の重大さを理解していた。




「このままこの国に居れば、間違いなく死んでしまう!」




 何があっても生きていこうと思い切った者たちは、二日後の傭兵たちの出立に合わせて、王都オフレンドを出る用意を始めた。



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