第7話・これから
話は、数時間前に戻る。
ベルを休ませたいという理由から、ギルベルトたちは王都オフレンドに宿を取っていた。
「ビル、ベルはどうだ?」
ベルの診察をしていた、マディの父親であり医者でもあるビル・ヒドルスは、ギルベルトと、タイラーの父親であるダンカン・ダウソンの待つ部屋に戻って来ると、苦笑した。
「そうだな……あの傷で、よく生きていたものだ。ギルベルト、フェンリルくんには本当に感謝した方がいい。彼が居なければ、ベルは確実に死んでいただろう」
ベルを診察したビル・ヒドルスは、そう言ってギルベルトを見つめた。
「ベルの体は、完全に元のようにはならないだろうね。もちろん、リハビリを続ければかなり動けるようになるだろうが、完全に元通りにはならないよ。あと、ずっと失っていた記憶を取り戻したばかりだと言っていた。不自由な体に、精神的疲労、そしてオウンドーラの王宮での防御魔法の使用で、かなり衰弱してしまっている。命には別条ないが、しばらくの間はどこかに留まって、ゆっくりした方がいいだろうね」
「そうか……」
ベルの体にとって一番いいのは、この王都オフレンドに留まる事だろうが、それはしたくなかった。
それはフェンリルたちも同じだろう。
では、どうするか……フェンリルたちは、何か考えているのだろうか?
「誰か、来た……」
ドアの外に誰かの気配を感じ、ギルベルトは呟いた。
ドア近くに居たダンカンが立ち上がり、ドアを開けると、そこに居たのはチェスター・パーシーだった。
「うわっと……驚いた……」
チェスターは、ワインを持ち、トレイにワイングラスとつまみを載せてそこに居た。
「チェスターくん、どうしたんだい?」
「いや、今後の事を相談したいと思いまして、ね。西の砦は、だいたい頭を使う事は、俺がやらされるんですよ。相談に乗ってください。あと……飲みましょうよ。みんな、砦の警備から解放されて遊びに行ってますから、こっちも楽しくやりましょう」
ダンカンがちらりとギルベルトへと目を向けた。
ギルベルトが頷くと、ダンカンはチェスターを部屋の中に入れる。
「じゃあ、失礼しまぁす」
チェスターはテーブルにワインとトレイを置くと、コルクを抜き、グラスに注いでいく。
「じゃ、晴れて森の砦から解放されたって事で、乾杯」
「あぁ、乾杯」
苦笑しながら、四人はグラスを合わせた。
砦に居る時は、魔物の襲撃があるため、ゆっくり飲む事ができなかった酒を味わう。
「ところで、いきなり本題なんですけど……」
「あぁ、そうだな」
「みんなで、村でも作っちゃいません?」
「は?」
チェスターの言葉に、ギルベルト、ダンカン、ビルの三人は、首を傾げた。
「チェスターくん、村、と言ったか?」
チェスターにそう問うたのは、ギルベルトの右腕と呼ばれているダンカンだった。
チェスターはつまみに持ってきたチーズをかじりながら、はい、と頷く。
「森を出て少し行った先に、魔物の襲撃を受けて滅んでしまった村があるでしょ。あそこに新しく拠点として村を作ったらどうかって思うんです」
チェスターの言った場所には、確かに魔物の襲撃を受けて滅んだ村があった。
だが、そこに村を作っても、また魔物に狙われて襲われてしまうのではないか。
「あの、西の砦の傭兵たちは、みんな俺やフェンリルについてくるって言っているんですけど、東の砦の方はどうですか?」
「さぁ、どうだろう……聞いていないな。私だけ、そちらに合流させてもらおうと思っていたのだが……」
これから先、ギルベルトは自分一人だけで、西の砦の傭兵たちに合流しようと考えていた。
他の仲間たちには十分な報酬を渡しておいてから、みんな好きなように生きていくだろうと思っていたのだ。
だがーー。
「何を言っているんだ、ギルベルト。俺も一緒に行くつもりだよ? もちろん、タイラーやみんなだってそうだ」
「え? だが……」
「ギルベルトずっと一緒にやってきたんじゃないか。私もマディも、一緒に行くよ。ベルの体も気になるしね。チェスターくん、我々も合流させてもらっても構わないかい?」
ギルベルトは驚き戸惑ったが、ダンカンとビルは直接チェスターと交渉し、話を進めていく。
「はい、全く問題ありません。むしろ、こちらからお願いしようかと思ってたくらいです。だって、これだけの傭兵が居たら、どんな魔物が襲って来たって、大丈夫でしょう?」
「なるほど」
若い者はいろんな事を考えるなぁと、感心したようにダンカンが頷いた。
「東の傭兵も、西の傭兵も、オウンドーラ王国との契約が終わった後もバラバラにならないのなら、このまま一緒に行動した方がいいと思うんです。今まで貰ったまま使う機会がなかった報酬もたっぷりありますし、森の魔物を狩った時に得た素材や魔石もあるから、しばらく働く必要もないでしょう。ゆっくりしたいって、みんなそう思っているはずです」
「確かにそうだね、それで拠点……村、か」
「そうです。拠点……村があれば、みんな体を休める事ができるでしょう? ベルちゃんも、まだ長い移動はきついと思うし、どこかで落ち着いた方がいい」
チェスターは、ちらりと先程ベルを診察していたビルに目を向け、ビルが頷くのを確認すると、ギルベルトに目を向ける。
「チェスターくん、ベルの事を考えてくれて、ありがとう」
ギルベルトはそう言うと、チェスターに頭を下げた。
ベルは西の砦の傭兵たちに、とても大切にされていたのだと改めて思う。
だが、気がかりな事もあった。
「チェスターくん、拠点をどこかに作るとしても、君が言っているあの場所は、オウンドーラ王国に近すぎるのではないか? あの場所に拠点を……村を作れば、オウンドーラ王国は、また傭兵たちが王都オフレンドを守ってくれるのだと、誤解するのではないか?」
チェスターの言う滅びた村のあった場所は、方向は違うが、魔の森から王都オフレンドへ向かう距離と同じくらいの位置にあった。
ギルベルトは、オウンドーラ王国とはこれ以上関わりたくなかった。
だが、確かに体調の悪いベルに長い移動をさせたくない気持ちもある。
「それなら、心配ないと思います」
「何故だ?」
「確かに誤解を与えてしまうかもしれませんが、それは相手が勝手に誤解するだけの事ですし、あの場所は森の中ではなく、森の外です。しかも、王都オフレンドとは反対側の、ね。だから、オウンドーラ王国は、俺たちがあの場所に村を作っていても、気づかない可能性だってあるんです。それに……」
「それに?」
「それに、もうあの国は終わりますから」
苦笑しながらそう言ったチェスターに、ギルベルト、ダンカン、ビルも同じように苦笑し、そうだな、と頷いた。




