第13話・料理
体はまだ不自由なところもあったけれど、私は少しずつ砦の雑用をさせてもらうようになった。
「なぁ、無理するなよ。手とか、切るなよ」
厨房で食事の用意をするために、ジャガイモの皮をむこうとしていた私に、フェンリルさんが言った。
「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
「でも、あんた……いや、ベルは、まだ上手く体が動かせないだろう? 怪我でもしたら……」
「大丈夫です。ゆっくり時間をかけてやらせてもらいますから。それに、少しでも体を動かした方が、リハビリにもなりますし……」
「まぁ、そうなんだけどな」
フェンリルさんは、厨房の椅子に腰を掛けて、優しい眼差しで私を見つめる。
私は多分顔を真っ赤にさせて、緊張しながら、だけどフェンリルさんが心配しないように、気を付けてジャガイモの皮をむいた。
「今日はエリスさんが、大きな魔豚を仕留めてきたって言ってました。他にも、森に生えていたキノコをたくさん採ってきてくださったんです。だから、具がいっぱいのスープを作ろうと思うんです」
「へぇ、そうか」
「フェンリルさんは、好き嫌いは無いですか?」
「あぁ、無い。何でも食うぜ。というか、ここでは狩った魔物で食えそうなものを、適当に焼いて食うって感じだからな。ちゃんとした料理なんて、しばらく食ってないから、楽しみだ」
「美味しいって思ってもらえるように、頑張ります」
「あぁ。でも、無理しないようにな」
「はい」
私が頷くと、フェンリルさんはまだ心配そうだったけれど、チェスターさんに呼ばれて厨房から出て行った。
フェンリルさんは、本当に優しい人だ。私の事をとても心配してくれている。
「頑張ろう……」
フェンリルさんのためにも、この西の砦のみなさんのためにも、美味しい料理を作りたかった。
このまま何もできないままじゃ嫌だ。少しでもみなさんの役に立ちたい。
そうしないと、もうここに居られなくなるかもしれない。
それだけは、絶対に嫌だ。私は、フェンリルさんのそばに居たい。
今度こそ、大切な人から離れたくない――。
「あ……」
ずきん、と頭が痛んだ。
それと同時に、私は以前にもこんな事を思った事があったような気がした。
思いつめ過ぎたのか、涙が零れて、私はジャガイモと包丁を置くと、慌てて涙を拭った。
そして周りを見回して、誰にも見られていなかった事を確認する。
泣いていたなんてフェンリルさんに知られたら、きっとまた心配をかけてしまうから。
作った料理は、西の砦のみなさんに、とても喜んでもらえた。
「すごい、ちゃんとした料理、久しぶりに食べた! 魔豚なんて、俺たちじゃ丸焼きしかできなかったのに!」
と言ったのは、チェスターさんだ。予想以上に彼が喜んでくれて、私はびっくりした。
「定期的に王都に行って、ジャガイモとか小麦粉とか、日持ちしそうな物を買っては来るけど、誰も料理しないんだよね。だから、すごく嬉しい」
「そんなに喜んでもらえて、嬉しいです」
私はちらりとフェンリルさんに目を向けた。
チェスターさんや、他のみなさんはとても喜んでくれているけれど、フェンリルさんはどうだろうと気になったのだ。
「本当、美味い。ベル、料理上手いな」
フェンリルさんは、笑顔でそう言ってくれて、私は胸を撫で下ろした。
褒めてもらえたのが、嬉しくてたまらない。
好きな人に喜んでもらえるという事がこんなに幸せな事なのか、と思う。
「あの、また作ったら、食べてもらえますか?」
そう尋ねると、フェンリルさんもみなさんも頷いてくれた。
「魔豚、まだあるから、ハムにしますね。私、魔豚をハムにするの、結構上手なんですよ。いくつかコツがあって……」
「ベル?」
「ベルちゃん?」
フェンリルさんや他のみなさんが、驚いたような表情をした。
どうしたんだろうと少し考えて、私の今の発言のせいだと気が付く
「私……今、なんて……」
魔豚をハムにするのが上手い、と、私は言った。
どうしてそう言ったのだろう?
だけど私の頭の中には、魔豚をハムにする手順や、美味しく調理する方法が鮮明に浮かんでいたのだ。
「ベルちゃんの料理、すごく美味しいから思ったんだけどさ……ベルちゃんは、魔豚を料理したり、大勢の食事の用意をしていた事があったのかもしれないね」
チェスターさんがそう言い、私もその通りかもしれないと頷いた。
だけど、料理の方法を思い出しても、私は自分自身の事は、何も思い出せなかった。




