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コールド伯爵令息の身勝手な愛は、一国を滅ぼす  作者: 明衣令央
第2章:ベル・ガンドール

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第13話・料理


 体はまだ不自由なところもあったけれど、私は少しずつ砦の雑用をさせてもらうようになった。




「なぁ、無理するなよ。手とか、切るなよ」




 厨房で食事の用意をするために、ジャガイモの皮をむこうとしていた私に、フェンリルさんが言った。




「心配してくれてありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」




「でも、あんた……いや、ベルは、まだ上手く体が動かせないだろう? 怪我でもしたら……」




「大丈夫です。ゆっくり時間をかけてやらせてもらいますから。それに、少しでも体を動かした方が、リハビリにもなりますし……」




「まぁ、そうなんだけどな」




 フェンリルさんは、厨房の椅子に腰を掛けて、優しい眼差しで私を見つめる。


 私は多分顔を真っ赤にさせて、緊張しながら、だけどフェンリルさんが心配しないように、気を付けてジャガイモの皮をむいた。




「今日はエリスさんが、大きな魔豚を仕留めてきたって言ってました。他にも、森に生えていたキノコをたくさん採ってきてくださったんです。だから、具がいっぱいのスープを作ろうと思うんです」




「へぇ、そうか」




「フェンリルさんは、好き嫌いは無いですか?」




「あぁ、無い。何でも食うぜ。というか、ここでは狩った魔物で食えそうなものを、適当に焼いて食うって感じだからな。ちゃんとした料理なんて、しばらく食ってないから、楽しみだ」




「美味しいって思ってもらえるように、頑張ります」




「あぁ。でも、無理しないようにな」




「はい」




 私が頷くと、フェンリルさんはまだ心配そうだったけれど、チェスターさんに呼ばれて厨房から出て行った。


 フェンリルさんは、本当に優しい人だ。私の事をとても心配してくれている。




「頑張ろう……」




 フェンリルさんのためにも、この西の砦のみなさんのためにも、美味しい料理を作りたかった。


 このまま何もできないままじゃ嫌だ。少しでもみなさんの役に立ちたい。


 そうしないと、もうここに居られなくなるかもしれない。


 それだけは、絶対に嫌だ。私は、フェンリルさんのそばに居たい。


 今度こそ、大切な人から離れたくない――。




「あ……」




 ずきん、と頭が痛んだ。


 それと同時に、私は以前にもこんな事を思った事があったような気がした。


 思いつめ過ぎたのか、涙が零れて、私はジャガイモと包丁を置くと、慌てて涙を拭った。


 そして周りを見回して、誰にも見られていなかった事を確認する。


 泣いていたなんてフェンリルさんに知られたら、きっとまた心配をかけてしまうから。






 作った料理は、西の砦のみなさんに、とても喜んでもらえた。




「すごい、ちゃんとした料理、久しぶりに食べた! 魔豚なんて、俺たちじゃ丸焼きしかできなかったのに!」




 と言ったのは、チェスターさんだ。予想以上に彼が喜んでくれて、私はびっくりした。




「定期的に王都に行って、ジャガイモとか小麦粉とか、日持ちしそうな物を買っては来るけど、誰も料理しないんだよね。だから、すごく嬉しい」




「そんなに喜んでもらえて、嬉しいです」




 私はちらりとフェンリルさんに目を向けた。


 チェスターさんや、他のみなさんはとても喜んでくれているけれど、フェンリルさんはどうだろうと気になったのだ。




「本当、美味い。ベル、料理上手いな」




 フェンリルさんは、笑顔でそう言ってくれて、私は胸を撫で下ろした。


 褒めてもらえたのが、嬉しくてたまらない。


 好きな人に喜んでもらえるという事がこんなに幸せな事なのか、と思う。




「あの、また作ったら、食べてもらえますか?」




 そう尋ねると、フェンリルさんもみなさんも頷いてくれた。




「魔豚、まだあるから、ハムにしますね。私、魔豚をハムにするの、結構上手なんですよ。いくつかコツがあって……」




「ベル?」




「ベルちゃん?」




 フェンリルさんや他のみなさんが、驚いたような表情をした。


 どうしたんだろうと少し考えて、私の今の発言のせいだと気が付く




「私……今、なんて……」




 魔豚をハムにするのが上手い、と、私は言った。


 どうしてそう言ったのだろう?


 だけど私の頭の中には、魔豚をハムにする手順や、美味しく調理する方法が鮮明に浮かんでいたのだ。




「ベルちゃんの料理、すごく美味しいから思ったんだけどさ……ベルちゃんは、魔豚を料理したり、大勢の食事の用意をしていた事があったのかもしれないね」




 チェスターさんがそう言い、私もその通りかもしれないと頷いた。


 だけど、料理の方法を思い出しても、私は自分自身の事は、何も思い出せなかった。



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