出勤
自動で開く扉を後にする。白光りした通路は続いてはいるのだが天井が透明では無いだけで先ほどの空間よりかは幾分かは気分が楽だ。
「くわぁ~」大きい欠伸をする。嫌な空間から抜けた安心感と気分転換の為の深呼吸だ。
「ペチペチペチ」
わざと大きく音が出るように裸足で床を叩きながら歩き、肩と首を少々揉んで右へと曲がる。トイレ前の通路を抜けて白光が終わる受付へと向かっていく。
受付には人がおらず、周りには利用者も居ない。この光景に先ほどの嫌気は解消され気分は上向きになる。
自分一人が貸し切った気持ちになり、人の目を気にしないと感じると悪くは無い。
受付もパネルの操作で受診も支払いも行える。なんとも素晴らしい。母や親父はここに来るたびに不安に感じるとの事で人が受付に何人かが待機しているらしく必ず会話を行わなければならないらしい。
人の少ない時間と曜日。自分の勘が当たった事に喜びを得る。
受付端末のパネルが少し反応が悪くイライラはするがそんなものは大したことは無い。今は気分が少々良い。
<終了手続き>と表記された部分を爪で弾く様に押し、<手続き完了までお待ち下さい。待機番号は①です。>を横目で見ながらロビーチェアに腰掛ける。
「ドン」音が鳴るように座る。
機械的で誰にも気を遣わないで良いと感じられる雰囲気。
裸足で感じる少し冷たい床。検診衣越しから感じる弾力性は無く冷たく固いロビーチェア。白光の通路を抜けた後の誰が選択したかの分からない褐返の壁面。
心地良い。
後は手続きが終了し、更衣室で着替えを済ませば全行程終了である。
自分独りしか待機していないので順番を待つ時間も無いだろうが手続きに掛かる時間があるだろう。
《♪~》
受付上部のモニターから音が流れ、左へと画面が動く。
<①の方は手続きが終わりましたので更衣室へ向かって下さい。お疲れ様でした。>
再び裸足で床を叩きながら更衣室へと向かっていく。
更衣室に向かうと凡そ2m程ある100ほどのロッカーがコの字で並んでいる。
自分のロッカーへ向かう。誰も利用していない時間と曜日を狙ったのだから更衣室に誰もいない。
誰もいないのだから出入り口に近いロッカーや分かりやすい1番を使えば良いと自分でも思うが気に食わない。左端の1番ロッカーから数えて右の8番目へと向かう。
握り部分の下部が赤いライトで点灯している。
「ピピピ、ガチャッ」赤が緑に変わり、施錠が解ける。ロッカーを開け着替えを始める。
ロッカーへと検査衣をいれる。このロッカー見た目は古めかしいのだが検査衣に小さなチップが縫いつけられている様子でロッカーに入れると施錠された後自動で消毒消臭洗浄まで行えるのだ。
自宅にも一台欲しいとさえ感じる。
着慣れた服装に身を通し、更衣室を後にする。受付を横目に正面入り口へと向かって行く。
外壁隅に配置された赤く小さく点灯している防犯カメラが目に入る。少し気に障る。
悪さを働いた訳でもないし、検診をしにこのクリニックにやって来ただけだ。防犯の為ではあろうが
犯罪を犯したような気分にしてくれる。
だが、治安の維持の為であるなら仕方ない。少し小走りでクリニックを後にする。
このクリニックは住宅街エリアにある為街外れにあるのがやや難点。
だが、この地域一帯は古くから住んでいる人が多く、周囲も高齢者が多い。特に周辺住民に人気な整形外科はもう少し離れた場所にあるらしい。
こっちは土地柄あっちよりも重力の関係上骨粗鬆症になりやすい為整形外科が多い。
注射やオペで直ぐに。よりもいつも変わりない薬を処方し、話を遮らず聞いてくれる心優しいドクターの下へ集まっているのだ。
徒歩7分程歩くとバス停がある。事故等が無ければ時間通りに必ずやってくるので安心できる。とはいってもここ数年大きい事故等聞いたことも無い。無人による自動運転。自動車技術も素晴らしい。
事故を未然に防ぐ技術は数百数千年前も考えられていたのだが現在は自身で運転をすることも一般的に少なくなっている。
各車両にドライバーの生体情報が読み込むように設定されており、ドライバー自身が運転する際に身体的問題が発生した際にはハザードが点灯し速度がゆっくりと落ち道路脇に運んでくれる様に進化している。
運転免許はあっちのとは違う点は略無いが現在は自動運転が主になっている為必需性は減少傾向に拍車がかかっている。
バスが到着した。自身の職場があるまで30~40分ぐらいはあるので座席に座ろう。
バスには疎らに空いており、窓際の席が有ったのでそこに座る。
バスの雰囲気は嫌いだ。朝や夕方に会社に向かう憂鬱な表情を浮かべる人々を眺めると自身も気分が優れない。住宅の風景を抜け段々と高いビルや電子掲示板が揺らめく街並みへと変化していく
現在の時刻は13時に差し掛かる頃なので人も少ない。窓に写る自分の表情の向こう側を見るように景色へと目をやる。
俺の職場に着くまではこの視界に入ってくる情報を取り入れてはいくが何も残りはしないだろう。




