起床
耳障りの悪い電子音で目を少し覚ます。眼前は少しぼやけており、まだ体を起したくは無い。
気怠く感じながら二度寝に就こうとするが、次第に連続した耳障りな電子音が癪に障る。
音を感じない様に意識しながら無理やりなんとか二度寝に就こうと顔を横に向ける。
瞼を閉じていても異常に明るく感じる…。光は意志を無視して直接眩い刺激を体に送ってくる。
「チッ…。」舌打ちと同刻体を嫌々起こす。微睡みも心地良いが電子音を最優先に止め様と気が向いてしまう。
左上腕部に挿入されていた半透明の管を抜き取られる。左壁面に表示されている緑色の電子画面の時刻と時刻表示下部の文字を確認する。「全診断終了。」
欠伸なのか溜息なのか言葉にするのが難しい気分転換を終え、意識を普段の覚醒時へと向かわせる。月に2度程こういった身体検査が実施されている。
長年繰り返し経験しており、慣れてはいると感じるのだが気に食わない事がある。
診察台が固い。肘、背面、臀部に向けて起床時に体の痛みが伴う事が一つ。
診察室の壁が白い。色が嫌いという事では無い。清潔感を視覚で与える事や体液等の確認が容易にできる為に白が適しているのには納得できる。白すぎるのだ、白光しているのだ。目覚めの際に眩い閃光の様に感じる。
この二つは年を重ねて最近増えた。最後のもう一つ。
物心が着いた頃から一番長年共にした苦痛。
天井の『アレ』だ。建築や材質に就いては無知に等しい。予想ではあるが凡そ耐圧加工されて分厚い透明なガラスみたいな物だ。そんなことはどうでも良い。その向こう側だ。
この嫌なほど異様に白光りした診察室内の上だ。見上げると急に黒色の景色が訴えてくる。
黒色のみでは無い。数多の光る点、塵と岩。
そして極めつけの『アレ』だ。あの蒼い球体だ。所々白い靄と緑茶色のした無作為に千切って貼ったかの様な地形。
『地球』である。
この景色を見る度に起床時に不本意に得た気怠さも相まって気持ちは憂鬱に一直線だ。
吸い込まれる様な黒、それを抵抗するかの様に余裕を持ってゆっくりと回転する蒼。その黒と蒼を嘲笑するかの様な瞬き時に眩く光る点。あの景色をみて安堵する者もいれば不安に駆られる者もいる。
俺も地球へは3~4回程は訪れた事がある。とはいっても物心ついてからだ。幼少期の事だから地球の事は全く知識が無い。だが、俺の出身は今住んでいるここでは無い。あの地球だ。育ちはこちらの方があちらに比較するほども無く長い。というかこちらの出身だと誤認してしまう程だ。出自を考えると地球へ行ったのも4~5回なのかも知れないな。
訪れた感想としては俺からみて住めたものではないし、現在では住めなくなっている。色んな意味で…。
地球の気温が何千年前からか上昇傾高だったらしく俺も詳しくは知らないし、知ろうとしていない。あっちに興味が無いってだけの話。
母曰くあっちで親父と知り合い恋に落ちた。俺を出産後こちらに移り住んだ…。のだとか…。両親の馴れ初めや恋の話は聞きたくもない…。今俺がこっちにすんでいるのは俺が希望した訳でもないし、事の成り行きだ。なんならこっちで良かったさえ思える。両親共にあっちの出身ってだけは知っている。
医療も設備も母親があっちにいた当時より目まぐるしい進歩があり、こちらで出産した方が安全とまで言われていたのだが母があっちでの出産を強く希望したのだとか…。親父は母に対して特に甘い。俺をあっちで産んだのも納得できる。両親の愛は深い。というか異常だ……。
他者から見れば仲睦まじい夫婦に見えるだろう。他者目線からみれば微笑ましく思える程だろう。
実の息子からすると…。相当きつい…。見るに堪えられない…。恥ずかしい…。
そんな両親なので俺は甘やかされている。と思う。同年代の奴らで一度もあっちへ行ったことも無い人のほうが多いだろう。自分が甘やかされているんだろうなと思える事は世間とのズレを感じる事が幼少期から多々有る。世間知らずだったんだろうと年を重ねてから理解ができる。
とりあえずこの癇癪を起したくなる様な場所から去ろう。この診察室より幾分かは増しだ…。
床面に足をつけ倦怠感と嫌悪感を抱きながら自分は真っ直ぐこの場所を後にした。




