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奴隷宰相 リュカと東国のジャングル探検編  作者: 近衛翡翠


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原野の賢者

こうして、リュカは、東国から譲り受けたカナイマの地を巡回することにした。随行してくるのは、リル、マリー、ヘレナ、リゼ、クシイナダである。特に、リゼはテレサ女帝にわがままを通して、なんとかして随行を認めてもらったらしい。

「泣く子と地頭には勝てないのです!」とリゼ。自分の意思を通すために、何でもしちゃいそうなその姿勢に、アンファンテリブルだな…と思うリュカであった。

「今回は、巡幸という形式は取らないのですね?」とリルが念を押す。

「そうよ。」とリゼ。「鬱蒼としたジャングルでは、少数精鋭の方がいいでしょう?」

「しかし、そうすると、事前の準備が必要だね。前回は失敗したから、用意は周到にしないと…」とリュカ。

「とりあえず、火を起こせるものを。あと、水と食料をたくさん持っていきましょう」とリル。

「本は、持っていける?」とマリー。「ダメ!」とヘレナ。「それよりも、火打石とか、ナイフとかが重要じゃない?」そう言って、クシイナダが持ってきたのは、アーミーナイフ(十徳ナイフ)であった。

「これがあれば、いろんなことができるはずよ。」


「あと、長袖長ズボンは必須ですね。」とリゼ。「コンパスも持っていきましょう。」


こうして、僕らのジャングル探検が始まろうとしていた。


***************************


カナイマの地に僕らが辿り着いたのは、首都のリンベルを出て、10日後のことであった。カナイマは、東国の中でも天然のジャングルに鬱蒼と覆われた地域である。ヤシやソテツの巨大な葉が頭上を覆い、空はほとんど見えない。どこからともなく猿のような動物の鳴き声が響き、木の上では見たことのないほど鮮やかな鳥たちが飛び交っている。


そして、何よりウ厄介なのは蚊だった。耳元で「ブーン」という不快な羽音が絶えず聞こえ、気を抜くとすぐに肌に止まる。

「…これは大変なところだね。」思わずリュカはそう呟く。


「まずは、この地に住む人々に挨拶に向かおう」というリュカの考えに基づき、パンチが案内をする。

パンチは、カナイマの地に住む原住民の全容を知っていたとは言えないものの、東国の管轄下にあった時から、いくつかの部族とつながりがある。そのうちの、アミ族という部族と接触することに成功した。


「こちらです。」とアミ族の若者が案内してくれたのは、首長さんのところだ。首長さんは、ティヤマカン さんという女性の方で、神憑りのシャーマニズムによって部族をまとめ上げている。

「はじめまして、帝国宰相のリュカ・チェザーレと申します。この度は、会ってくださり感謝いたします。」

「して、此度は何用か?」

「はい。我々は東国から受け取った、このカナイマの地をよく見て回りたいのです。つきましては、案内役を付けてもらえないかかと思いまして。」


そういうと、ティヤマカンさんが僕たちを睨んできたような気がした。

「帝国の者は、我々の暮らしぶりを見て、野蛮や後進を語るのが常であるが…」

「いいえ。私は、この土地で生きる知恵を教えていただきたいと思っています」

ティヤマカンさんは、ふうーっと、息を吐いた。


「わかった。では、ホンテ を案内役につけよう。」

「ありがとうございます。」


ホンテさんと呼ばれる方は、女性だった。

「それじゃあ、よろしくね!」「ホンテさん、よろしくお願いします。ですが…」

「?」ホンテさんは怪訝な顔をする。

「先に、この服を着てはいただけないでしょうか?」何とホンテさんは、上半身が裸だったのだ。

「大丈夫よ。いらないわ」いや、僕が目のやり場に困るんですけど…

「お願いですから、着てください。」

「えー。仕方ないなぁ。」と僕の予備の服に着替えながら、ホンテさんはこんなことを言ってくる。

「アミ族の中では、『欲心を抱くのは、姿かっこが問題なのではなく、心が汚れているからだ』ということわざがあるよ。」と豆知識らしく言っていたが、どう考えても僕へのあてつけだよな…

そんなこんなで、ホンテさんの着替えも終わり、リュカ達はカナイマの探検を行うことになった。


「で、具体的に何を見たいんだ?」

「この地を統治するのに必要な知識を身に着けたい。具体的には、君たちがどう暮らしているのか。この地の産品は何があるのか。この地の地形はどうなっているのか、かな。」

「わかった。任せて。」とホンテさん。

「まずは、あそこに行こう。」


***************************


「ぜえぜえ、しんどい。」と僕達は崖を登っていた。ロライマ山というその山は、垂直に切り立った断崖絶壁であり、1000mもあるとされる。

「また、空気の薄いところに行くとは思わなかったよ…」とリュカ。「酸素缶をたくさん持ってきて正解でしたね。」とリル。本当にその通り。

「まあ、あの時は草原地帯だけど、今は断崖絶壁に立ち向かってるわね」とマリー。

「リゼ様、休んでもいいんですよ?」とヘレナ。「ふもとで待っていては?」とクシイナダ。

「いえ、リュカと一緒に私も行きます!」とリゼである。


ホンテさんが何かを発見したようだ。

「あ、そこにプリティコム・プランティエイ がある。」

「なんて?」

「プリティコム・プランティエイ。あれで作るパンは、絶品なんだ。」

「これは、珍しい花なのですか?」とリル。

「この辺りまでくればたくさん獲れるけど、ふもとにはないから、ここまで取りに来る必要がある。その意味では貴重かな。」


「そうなのか。」と思った瞬間、リュカは手に握力が入らなくなった。どうやら、タイアル首長国で怪我をした手の傷が深刻化したようだった。リュカは、次の瞬間、宙に浮いている感覚を感じた。リュカは手を滑らせて放してしまい、崖から落ちていくのであった。


「「「「「リュカ君!」」」」」とリル、マリー、ヘレナ、リゼ、クシイナダの5人が叫ぶ声がする。

リュカは思った。ああ、これで自分は死ぬんだ。と。リュカは走馬灯を巡らせる。ふと、死んだ母の顔が浮かんだ途端のことだった。突然、リュカの体がふわっと浮いた。



「え」とリュカは驚く。見るとリュカは、大鷲の背中に乗っていた。

「うわー大きい!」とリル。

「じゃあ、予定を変更して、このアードラーに乗って向かうとするか。」

この大鷲は名前をアードラーという、ホンテさんの集落で飼っている鷲とのことだ。


そう言って、ホンテさんが案内してくれたのは、大樹の前だった。

「これは、僕らの神の樹とされているご神木だよ。」

「ご神木…」そんなに大事な存在なのか。

「大事なことは、このご神木にお伺いを立てる。また、祭の類はこの樹の前で行う。」

「この樹は特別な存在なのですか?」

「この樹は、グラン・チェレビジェ といい、アルコールを含んだ実をつけるんだ。よく、ここから抽出したアルコールを、お酒にして飲む。」

「これは、いい産品になりそうだね。」とリュカ。

「おっと、でも数に限りがあるから、大量生産には向かねえのが欠点だな。」とホンテさん。

「お酒は、祭に使うのですか?」

「祭にも使うが、日常で飲むことも多いな。」とのこと。


***************************


次に訪れたのは、大きな泉だった。

「ここは、ディオルム の泉。聖なる泉として、ここも我々アミ族の間に祀られている。」

「ここは、水の神を祀るのですか?」

「そういうことだ。私達の生活用水を賄う大切な泉だからな。そのため、ここを清浄に保つことがアミ族の掟の一つだ。」


ディオルムの泉は、ジャングルの中にぽっかりと口を開けたような青い水面である。周囲の木々が水面に映り込み、風が吹くたびに揺れる。泉の周りだけは不思議と涼しく、湿った土と匂いと草の香りが混ざっていた。

水は驚くほど澄んでおり、そこの岩肌まで見える。

「ねえ、ここで泳いでいい?」とヘレナ。

「アミ族の皆さんが、大切になさっているから、やめときましょう。」とリル。

「いや、夏場には私達も泳ぐぞ。」

「じゃあ、泳ごう!」

「え!?」と驚くリュカだったが、女子陣は水着の用意がばっちりだったらしい。よかった…「リュカ君の分もあるよ。」とのことで、僕達はセノーテでの遊泳を楽しんだ。


リュカは最初は手の痛みを感じたが、不思議とこのセノーテに浸かるごとに痛みが和らぐのを感じた。「どうだ。痛みが引いていくだろう。」と見透かすように、ホンテさんが言う。その通りだった。

ぼーっとしていると、リュカはあることに気付いた。

「セノーテの周りには、植物が多いね。」

「そうだな。」とホンテ。

「私達の恵みの食糧は、セノーテを基調に成り立っている。セノーテの周りで育つ植物の多くは、我々の食料になる。」

「じゃあさ、それを栽培して、大量生産することはできる?」とリュカ。

キョトンとするホンテ。

「大量生産…か…考えたこともなかった。」

「やるとしたら、あのあたりかなあ。」

「私達は、焼畑農業は行う。だが、これは一度その土地を焼いてしまうと土の栄養分を使い果たしてしまう。非常に効率が悪い。」

「じゃあ、セノーテの周りで農業をしてはどうだろう。」リュカが目をキラキラさせて言う。「西国では、一般的なやり方だよ!」西国では天水農業の他に、オアシスの周りでナツメヤシなどの植物を栽培する手法が発達しているのだ。


ホンテさんは、なんだか上の空だ。

「ホンテさん?」

「あ、ああ、リュカ。一旦集落へ戻ろう。」

こうして、リュカ達は一度アミ族の村へ戻ることにした。

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