↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元腐女子令嬢、愛のない契約結婚のはずが狼旦那様に沼落ち中です!?  作者: よつ葉あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
29/30

29.元腐女子令嬢、愛を語る


 あの夜、互いの想いを伝え合い、やっと「本当の夫婦」になれた私たち。

 けれど胸の奥には、まだひとつだけ隠していることがあった。

 ずっと言えずにいた、私自身の過去──前世の話を。


 ──勇気を出すなら、今しかない。


 そう思い立った私は、翌朝の朝食後、旦那様と彩芽さんの前で深く息を吸い込んだ。


「実は……私には、前世の記憶があります」


「……は?」


 旦那様の瞳が大きく揺れる。言葉を失うその姿に、胸がぎゅっと痛んだ。

 でも、逃げてはいけない。旦那様にも、私の口からきちんと伝えなくては。


 俯いた私の手に、そっと温もりが重ねられる。

 顔を上げると、彩芽さんが優しい眼差しで微笑んでいた。


 ──そうだ。私はひとりじゃない。


 その思いが背中を押してくれて、不思議と先ほどまでの不安が消えていった。

 私は真っ直ぐに旦那様の顔を見つめる。


「私が生きていたのは……ここと同じ“日本”という名の国です。

 けれど同じ名前でも、どこか違う。

 こことは別の世界で──“令和”と呼ばれる時代の日本でした」


 私は言葉を選びながら、精一杯、自分の過去と気持ちを旦那様に語り始めた。


 旦那様は、しばし呆然と私を見つめていた。


「……前世、の記憶……?」


 低くつぶやかれた声に、胸が締めつけられる。


 けれど、その瞳に拒絶はなかった。困惑と戸惑い、そして理解しようとする光がある。

 隣で彩芽さんが、そっと私の手を握ってくれた。

 胸の奥がじんわりと温かくなる。


 ──だから私は、もう一歩踏み出した。


「……そして、旦那様が誤解していた“銀次様”のことなのですが……」


 旦那様の眉がぴくりと動く。

 彩芽さんも思わず身を乗り出した。


 ごくりと唾を呑み込み、私は勇気を振り絞って言った。


「銀次様は、前世の私にとって……そして環として生まれ変わってからも心の支えでした。彼は──」


 顔を上げ、はっきりと告げる。


「学生時代に出会ったBL漫画『愛しのオオカミくん』の登場人物なんです!」


「…………」


 旦那様が固まった。彩芽さんも目を瞬かせ、口を開けたまま止まっている。


 でも私はもう、止まらなかった。


「『愛しのオオカミくん』は当時BL界で伝説的なヒット作でして! 銀次様は普段はクールでぶっきらぼうなのに、主人公のヒカルにだけ見せる優しさが……もう尊くて! ヒカルは普段は子犬なのに夜はSっ気があって! 二人の関係性に、私はどれだけ救われたか……っ!」


 胸の奥に溜め込んでいた熱が一気にあふれ出す。

 旦那様の困惑が深まっていくのもわかっていたけれど、止まることなんてできなかった。


「しかも本編だけじゃないんですよ!? スピンオフ漫画に小説版、さらにはドラマCDまで! 極めつけはアニメ化です! BL漫画がアニメ化なんて……当時は本当に快挙だったんです!!」


 両手を握りしめ、力説する私。

 しんと静まり返った部屋。


 やっと彩芽さんが口を開いた。


「えっと……つまり?」


 旦那様も難しい顔で腕を組む。


「……銀次というのは、環の前世においても実在するわけではなく、“漫画”とかいう本の中の人物……なのか?」


「はい!!」

 私は勢いよく頷いた。


 旦那様がさらに考え込む。

「……では、その“ヒカル”という者が……銀次の妻なのか?」


「違います」


 私は真剣に首を横に振った。


「ヒカルくんは男性です」


「……え? では……銀次は実は女なのか?」


「いいえ。銀次様もヒカルくんも、れっきとした男同士です」

 私はきっぱりと言い切った。


「…………」


 旦那様はピシリと固まった。

 彩芽さんは口元を押さえ、震える肩をなんとか押さえ込んでいる。


 私はさらに言葉を重ねた。


「だから誤解しないでください。私は銀次様を男性として愛していたわけではありません。

 銀次様は“推し”であり、その相手は唯一無二のヒカルくんだけなんです。私は二人の関係性の尊さに、何度も救われただけなんです!」


 旦那様はしばし沈黙したあと、おそるおそる口を開いた。

「……その、“BL”というのは……?」


 私は背筋を伸ばし、はっきりと答えた。

「はい。BLとは“Boys Love”──つまり、男同士の恋愛を描いた作品のことです」


「……っ」

 旦那様はこめかみを押さえ、深いため息をついた。

「……俺は……いったい何を聞かされているんだ……」


 彩芽さんは呆れたように、それでいてどこか楽しげに笑みをこぼしていた。


 ──私は、言えた。

 やっと、旦那様に私のすべてを打ち明けられた。

 これで本当に、隠し事のない“夫婦”になれたんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+ + +

書籍の詳細はこちらから↓↓↓↓↓↓↓

挿絵(By みてみん)
+ + +
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。