↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元腐女子令嬢、愛のない契約結婚のはずが狼旦那様に沼落ち中です!?  作者: よつ葉あき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
28/30

28.本当の夫婦の夜


 夜の空気はひんやりとして、虫の声だけが規則正しく響いていた。

 私はいつものように離れの縁側に腰を下ろし、庭に広がる暗がりをぼんやりと眺めていた。


 昼間、彩芽さんに思わず涙を見せてしまった。

 胸の奥に秘めていた気持ちを打ち明けて、少しは楽になったはずなのに……心はまだ波立ったままだ。


 ──私は本当に、旦那様の妻でいられるのだろうか。

 もっと、ちゃんと「夫婦」として隣に並んで歩いていけるのだろうか。


 夜風が頬を撫で、ひやりとした感触に思わず肩をすくめる。

 けれど、ここに座ることをやめられなかった。

 縁側で旦那様と並んで、他愛もない話を交わす──その時間が、私にとってかけがえのない宝物だから。


 ……でも、今夜は来てくれるだろうか。

 あの人は真面目だから、帳面と向き合ったまま夜を過ごしてしまうかもしれない。

 そんな想像に小さく笑い、同時に胸の奥が少し寂しくなる。


 そのとき。


「……環」


 低く真っ直ぐな声が、静けさを破った。

 振り返ると、縁側へ続く廊下に旦那様の姿があった。


 灯明に照らされた横顔は、いつもより鋭い。

 迷いを断ち切るような眼差しに、胸がぎゅっと締めつけられる。


 旦那様はためらいもなくこちらへ歩いてくる。

 金色の瞳はただ一人、私を射抜いていて──息が詰まりそうになった。


 私は慌てて両手を膝の上で重ね、背筋を正す。

 鼓動が暴れて落ち着かず、胸の奥で高鳴りが響く。


「……旦那様?」


 掠れた声で名を呼ぶと、彼は縁側に腰を下ろし、私の隣に並んだ。

 夜気が一層張りつめ、灯明の光に浮かぶ横顔が凛として見える。


「環」


 呼ばれただけで肩が震えた。

 俯きそうになるのを堪え、恐る恐る顔を上げると──旦那様の瞳が、強く私を捕らえていた。


「私は……」


 言葉を探すように、旦那様の尻尾が揺れる。

 獣耳も小さく動き、彼もまた緊張しているのだと知る。

 その姿に、胸が少し温かくなった。


「俺は……ずっと伝えられずにいた」


 一拍置かれたあと、静かで確かな声が響く。


「環。おまえを……愛している」


 時間が止まったようだった。

 耳に届いた言葉が胸に落ちるまで、ほんの一瞬のはずなのに永遠のように思えた。

 次の瞬間、胸の奥に熱が広がり、目の前が涙で滲む。


 ──夢に見た言葉。

 けれど現実に聞いたその響きは、想像をはるかに超えるほど重く、優しく、温かかった。


「環は……俺の支えだ。

 おまえが隣にいてくれるだけで、どれほど救われてきたか……。

 本当は、ずっと言えずにいた」


 不器用な言葉が、胸に深く染み渡る。

 頬を伝う涙を止められず、私は必死に首を振った。


「……私の方こそ。

 ずっと、旦那様に伝えたかったんです。

 私は……あなたを、心から愛しています」


 声は震えていたけれど、心からの想いを込めた。

 涙で滲む景色の中、旦那様の表情がふっと緩むのが見えた。


 次の瞬間、温かな手が私の手に重ねられる。

 大きく頼もしいその手を、私はぎゅっと握り返した。


 夜の虫の声も、風の音も、すべて遠のく。

 今この瞬間、世界は旦那様と私だけで満たされていた。


 ──やっと伝え合えた。

 やっと、私たちは「本当の夫婦」になれるんだ。





 ──side 彩芽


 庭の隅の陰から、二人をそっと見守っていた。

 環ちゃんの涙と、蓮の照れた笑顔。

 長いこと歯がゆく見てきた二人が、ようやく想いを通わせた。


「……よかったわね」


 小さく呟いた声は、夜風に紛れて消えていった。

 けれど胸の奥が温かく満ちていく。


 ここまで来るのに、きっと環ちゃんも、蓮も、たくさんの不安と迷いを抱えてきた。

 その全てを越えて、やっと隣り合えたのだ。


 見上げれば、星々が静かに瞬いている。

 まるで二人の未来を祝福するかのように。


 ──大丈夫。

 もうこの子たちは「本当の夫婦」として歩いていける。

 そう信じて、私は静かにその場を離れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+ + +

書籍の詳細はこちらから↓↓↓↓↓↓↓

挿絵(By みてみん)
+ + +
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。