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『Luna Sana』で会いましょう~私、最悪なコンサルタントと恋をしました~  作者: 亜久美 圭


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一筋の光

「ごめんなさい。みんなに心配かけて……」


水川は深く頭を下げた。


その姿に、穂花と西野は目を見開き、思わず顔を見合わせた。


驚き、不安、とまどい――。

様々な感情が胸をよぎる。


何を言えばいいのか分からない。

二人はただ黙ったまま、水川を見つめることしかできなかった。


(でも……)


店長に、このまま頭を下げさせるわけにはいかない。


「店長……頭を上げてください」


穂花は静かに水川へ歩み寄り、その隣へそっと立った。


「店長……」


西野もその様子を、不安そうな目で見つめていた。


穂花に促され、ゆっくりと体を起こした水川。

その瞳はわずかに潤んでいた。

そして水川は、一度視線落とすと、重い口を開いた。


「ちゃんと話すわ……」


押しつぶされそうな重苦しい空気が、店内を包む。

穂花と西野は息を呑み、水川の次の言葉を待った。


やがて水川は、一つ一つ言葉を選ぶように、静かに語り始めた。


「実は、『Luna Sana』は……今とても経営が苦しいの……」


「え……」


思わず声が漏れる。

西野もまた、驚いたように目を見開いた。


「ごめんなさい、ずっと隠していて……。実は少しずつ経営が厳しくなってね、いよいよ資金が底をつきそうになったから、お金を借りたの」


(知らなかった。そんなことになっていたなんて……)

 

「……いくら借りたんですか?」


(こんなことを聞くべきじゃないのかもしれない。でも私は、『Luna Sana』の今をちゃんと知っていたい)


水川は少し躊躇うように目を伏せた。

そしてゆっくりと口を開く。


「――だいたい、一千二百万くらい……」


水川の声は、弱々しく震えていた。


「一千二百万っ!?」


西野が思わず声を上げる。


(彼女が驚くのも無理はない。大金だもの。だけど……)


穂花には、一つだけ引っかかることがあった。


(借金をした理由は分かる。でもどうしてそれが、無言電話や悪評に繋がるんだろう……)


その瞬間、最悪の可能性が脳裏をよぎった。


(まさか――!)


「どこでそのお金を借りたんですか?!」


思わず声を荒げた。


(嫌な予感がする……)


水川は視線を落とし、指先をぎゅっと握りしめた。

そして小さく口を開いた。


「その……郵便受けにチラシが入っていたの。即日借りられるって書いてあったから……」


「店長――!」


穂花は思わず叫んだ。


(まさか……)


嫌な予感が、現実味を帯びる。


水川は、正規ではない業者からお金を借りてしまったのかもしれない。


「いっぺんに借りたわけじゃないのよ。困った時に少しずつ借りて……。向こうも『いいよ、いいよ』と言ってくれたから……」


穂花は大きくため息をついた。


(それはそうだ。たくさん貸せば貸すほど、相手は利息で儲かるんだから……)


「最初はきちんと返していたんだけど、少しずつ返せなくなって……」


穂花は思わず頭を抱えた。


ああいう業者は利息が高い。返しても返しても元本は減らず、借金だけが膨らんでいく――。そんな話は、何度も耳にしたことがあった。

 

「……店長、なんで私たちに言ってくれなかったんですか……?」


「二人に心配かけたくなくて……」


穂花は唇を噛み締めた。


(わかってる。水川沙苗はそういう人なんだ)


(いつも自分よりも、周りを大切にする。それが店長の優しさでもあるんだけど……)


こんな状況になるまで気づかなかった自分を、穂花は悔やんだ。


(いつだって水川店長の力になりたいと思っていたのに……。私は何もできていなかったんだ)


「店長……話してくださって、ありがとうございます」


穂花は静かに言った。


(何も知らないまま、当たり前のようにお給料をいただいて……。私は甘えていたんだ)


穂花は、ゆっくりと顔を上げた。

 

「とにかく、このままではダメです!これからどうしていくか、私たちで一緒に考えましょう!」


西野は、力強く頷いた。

その姿を見て、水川も小さく頷いた。


「ごめんね……。ありがとう」


 

それから――。

入口には『臨時休業』の張り紙を貼り、店を閉めた。

 

この状況では、店を開けていても客は来ないだろう。


今は悪評をどう払拭するか。そして、この借金をどう返していくか。それを考えることが先決だった。


『Luna Sana』の存続のために、三人はそれぞれ意見を交わした。


その間も電話は鳴り続ける。

昨日と同じ、無言電話。


話し合いは何度も中断された。

それでも三人は、昼過ぎまで議論を続けた。




┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈


気づけば昼食をとらないまま、時間だけが過ぎていた。

 

ようやく話が一段落した頃には、三人ともぐったりと疲れ切っていた。

誰も目を合わせようとせず、重い沈黙だけが店内を包み込んでいた。


長時間の話し合いだけが疲れの原因ではない。

一千二百万という大きな借金が重しとなり、三人の心身を疲弊させていた。


(まずはこの借金をどう返していくか……。今の『Luna Sana』では、これだけの大金を返すのは無理だ。いや、それ以前に――)


問題は、借入先だ。


水川に話を聞くうちに、それが法外な利息を取る闇金融業者だと分かった。

 

想像していた以上に、状況は深刻だった。

 

これでは、利息分を返すだけで精一杯だ。

そのうえ、執拗な嫌がらせまで受けている。


(どうしたらいいの……?)


話し合えば話し合うほど、解決策は見えなくなっていく。

まるで迷宮に入り込んだように出口が見えない――そんな感覚だった。


穂花は、小さく息を吐く。

そしてぽつりと呟いた。

 

「誰か……経営や法律に詳しい専門家がいたら……」


そのときだった。


「そうよ!」


水川は、何かを思い出したように勢いよく立ち上がった。

その声に、穂花と西野は肩を跳ねさせ、水川を見つめた。


「店長……?」


不安そうな眼差しの西野。


「……どうしたんですか?」


穂花も心配そうに水川に尋ねた。


二人の心配とは裏腹に、水川は目を大きく輝かせて言った。


「いたの……一人、心当たりがある人が」


「本当ですか!?」


穂花も椅子から立ち上がり、興奮したような目で水川を真っ直ぐ見つめた。


「私の後輩なんだけどね……、二歳年下で、今美容コンサルタントをしているの」


「その人なら助けてくれるかもしれませんね」


西野も希望を見いだしたように立ち上がる。


「今は疎遠になっちゃってるけど、私の大学時代の友人とは今もつながっているはず……」


希望が見えてきた。


水川の話では、その後輩は大学時代に法律を学び、現在は美容コンサルタントとして活躍しているという。


話を聞き終わると、穂花は両手を力強くテーブルにつき言った。


「ぜひその人にお願しましょう!『Luna Sana』を助けてもらえるように」


ようやく、出口へ続く光が見えてきた。


穂花は、まだ会ったことがないその人に希望を託した。

それは、水川も西野も同じだった。




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