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『Luna Sana』で会いましょう~私、最悪なコンサルタントと恋をしました~  作者: 亜久美 圭


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4/23

その笑顔の裏で

翌朝――


水川と穂花、二人は店内の掃除をしながら、開店の準備を進めていた。


テーブルを力なく拭く水川。

その顔色は、やはり昨日と同じく青ざめていた。


(やっぱり店長の様子がおかしいわ……)


穂花は手をとめ、水川のもとへ歩み寄った。

そして正面から、その顔を見つめた。


穂花に気づき、水川ははっとしたように顔を上げた。


「穂花ちゃん……どうしたの?」


正面から見た水川の頬は少しこけ、目の下にはうっすらとクマが浮かんでいた。


(店長……少し痩せた?)


(いつから……?)


穂花は、最近の出来事を思い返した。


(昨日……いやもっと前からだ。私は店長が元気がないことに気づいていた)


(それなのに私は、気づかないふりをしていた)


胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。


「店長……ごめんなさい」


気づけば、その言葉が口をついていた。


「あら……どうしたの?なんで謝るの?なんでそんな顔をしてるの?」


水川は驚き、目を瞬かせた。

そしてゆっくりと微笑み、穂花の頬を両手で優しく包んだ。


「あなたがそんな顔をしていたら、私も悲しくなるわ」


そう言うとそのまま水川は、そっと額を穂花の額に重ねた。

 

まるで子供をあやすかのように。

その瞳も、手も、言葉も――全てが優しく慈愛に満ちていた。


その優しいぬくもりは、じんわりと穂花の胸に溶け込んでいく。


(店長……何があったかわからないけど、きっとつらい思いをしてるはずなのに……)


自分よりも、いつだって誰かを優先する。

それが水川沙苗という人だった。


込み上げるものを抑えるように、穂花は小さく息を吐いた。

そしてもう一度だけ、呼吸を整える。

 

穂花はゆっくりと口を開いた。


「……すみません、大丈夫です」


潤んだ瞳に力が宿る。

 

言わなければ――。

水川店長に何があったのか、今聞かなければ――。


「あの……店長。昨日のことですが……」


言いかけた、その瞬間。


バン!


お店の扉が勢いよく開かれた。


(え……?)


その勢いに、穂花も水川も目を見開いた。

二人の視線が、一斉に入口に向かう。


朝日に照らされた栗色の髪が、キラキラと輝いていた。


「店長ー!佐倉先輩――!」


弾むような大きな声が、店内に響く。

 

『Luna Sana』の若きスタッフ、西野未来だった。


「え?どうしたの?未来ちゃん……」


あまりの突然のことに、二人は呆気にとられ言葉を失った。


(なんで彼女がここにいるの?だって……)


「未来ちゃん、どうしたの?」


先に口を開いたのは水川だった。


「今日はお昼からでしょ?何か忘れ物でもあったの?」


西野は大きく首を振る。


よく見ると、様子がおかしい。

肩で息をし、額にはうっすらと汗が滲んでいた。


「お店が……『Luna Sana』が……」


震える声で言葉を絞り出す西野。


そして――。


西野は叫ぶように言った。


「大変なことになってるんですよ――!」


それは、普段の西野からは想像もつかないほど張り上げられた、切羽詰まった声だった。

その表情からも、必死さが伝わってくる。

 

肩は大きく上下していた。

おそらく慌てて駆けつけたのだろう。


「未来ちゃん……何があったの?」


ただならぬ様子に、穂花は尋ねるほかなかった。


「見てください、これ――」


西野は二人のもとに駆け寄り、スマートフォンを差し出した。


画面に表示されていたのは、『Luna Sana』の口コミ投稿サイトだった。


(え……)


穂花は息を呑んだ。


画面には、低評価のレビューがずらりと並んでいる。


穂花と水川は、無言のまま画面をスクロールしていった。


・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・

 

(レビュー)


★☆☆☆☆

店長らしき人に対応してもらいましたが、正直期待はずれでした。あまりにも下手で驚きました。

 

★☆☆☆☆

皆性格悪すぎ!スタッフの態度が上から目線でめちゃくちゃ悪かった。


★☆☆☆☆

30分のケアなのに、倍の金額とられた。ぼったくり!二度と行きたくない。


★☆☆☆☆

施術も接客も最悪。もう二度と行かない。

 

・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・━━・・

 

「……なに?これ……」


穂花は思わず呟いた。

 

画面を埋め尽くす低評価。

悪意に満ちた口コミが、五十件以上も並んでいる。

そしてその内容の多くは、明らかな嘘だった。


「ぼったくりって……。うちは他のどのサロンよりも安く設定してるのに。それに……」


穂花は手にしていた掃除用のハタキをぎゅっと握りしめた。

 

怒りで手が震えた。

 

そして――。

ハタキを高々と掲げる。


「うちの水川店長の施術はトップクラスですからー!色んなところを回って受けてきた私が言うんだから、間違いないです!」


隣では、西野も力強く何度も頷いていた。


本当に悪かったのなら仕方ない。

だが、そのほとんどがデタラメな内容ばかりだった。


水川の技術が高いことを、穂花は誰よりも知っている。

 

価格だってそうだ。どこよりも安く設定されている。

それは水川が、お客様の負担にならないよう、無理をしてでも続けてきた価格設定だった。


穂花は込み上げる苛立ちを抑えきれなかった。


「それだけじゃないんです!」

 

西野は語気を強めた。


そして再びスマートフォンを操作した。


「見てください!これも、これも……!」


指を滑らせるたび、新たな投稿が次々と表示される。


「うちに来たっていう人たちが、悪い評価ばかり投稿しているんです!それがむちゃくちゃ拡散されてて……」


西野は悔しそうに唇を噛んだ。

 

本当に悪かったのなら仕方ない。

だが、そのほとんどがデタラメな内容ばかりだった。


間違いなく、水川の技術は最高だ。

価格もどこよりも安い。それは水川が、お客様の負担にならないようにと、無理をして設けた価格だった。


穂花は、込み上げてくる苛立ちを抑えることができなかった。


さらに西野の言葉が続く。


「それだけじゃないんです!」


西野は、さらにSNSを開いた。


「見てください!これも、これも……」


指をスクロールさせながら画面を表示させていく。


「うちに来たって人が、悪い評価ばかり投稿しているんです。それがむちゃくちゃ拡散されてて……」


西野は悔しそうに唇を噛んだ。


「『Luna Sana』がSNSですごく荒れてるんです!叩かれているんですよ!」

 

声を震わせながら訴える西野。

 

いつもは飄々としている彼女が、ここまで感情を露わにする姿を、穂花は初めて見た。


西野は、拳を強く握りしめた。


「絶対に許せないです!!」


息を乱しながら叫ぶ西野に、穂花も驚きつつも深く頷いた。


そして――。

 

昨日の無言電話が、脳裏をよぎる。

 

あの執拗な着信。

そして、あまりにも悪意に満ちた口コミや投稿。


点と点が、ゆっくりと繋がっていく。


穂花は確信した。


店長は――きっとこうなった理由を知っている。


そうでなければ、あんな顔をするはずがない。


穂花は目を閉じ、静かに息を吐いた。


(未来ちゃんも、こんなにもお店のこと気にかけてくれてる。私がちゃんと聞かないと……)


一呼吸置いた後、穂花はゆっくりと口を開いた。


「――水川店長。教えてください。一体何があったんですか?」


西野ははっとした表情で、穂花を見た。

 

穂花は続ける。


「――もしかして、何か知っているんじゃないですか?」


穂花の真っ直ぐな視線に、水川の表情が強ばり、言葉を失った。


「店長……?」


西野が水川の顔を不安そうに覗きこむ。


そして――。


水川は意を決したように二人を見つめ、にこりと微笑んだ。


「ありがとう、二人とも……。こんなにお店のことを思ってくれて……」


(やっぱり……)


水川は笑っていた。

けれど、その瞳はどこか悲しげだった。


その表情を見た瞬間、穂花は確信した。


(店長は――全てを知っているんだ)

 

そして水川は、西野を静かに見つめた。


「未来ちゃん……休みなのに来てくれてありがとうね」


ゆっくりと穂花へ視線を移す。


「穂花ちゃん、私のこと、そんなふうに言ってくれてありがとう。」


水川は目を伏せ、小さく息を吐いた。

そして意を決したように顔を上げ、二人を真っ直ぐに見据えた。

 

「黙っていてごめんなさい。ちゃんと話すわ。今の『Luna Sana』の状況を……。どうしてこんなことになっているのかを」


店内に緊張が走る。

 

穂花は思わず息を呑んだ。

西野もまた、不安そうな表情で水川を見つめていた。


(――大丈夫。私はいつだって店長の味方だ)

 

(何があっても、私は店長と『Luna Sana』についていく)



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