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15話 「彼のいない学園」

なかなかに長い内容。

そして、エンがいないから書き方が難しいかも。

「聞いた、急に町の中心に黒い球体状の何かが現れたんだって。しかもその球体の中に入ると死んじゃうんだって。怖いね~、気を付けないと。」

「エンのやつ、何を仕出かしたのかしら。こんな規格外な事ができるのはあいつしかいないわ。そう思わない、ちび猫。」

「そうニャンね、ポンコツレイア。師匠だと思うニャン、噂通りなら前に説明してくれた「闇」か、それ以外の能力だと思うニャン。」


私は神凪レイア、エレント41位で完璧で冷徹な氷姫。

でもエンやチビ猫、ましては最近知り合ったラヴァーにもポンコツと言われている。

別に私はポンコツじゃないし、少しドジなだけだし。

で、こいつが黒猫ミャオだっけ?

苗字は忘れたけど、多分そんな感じだったはず。

こいつはエンに弟子入りして、すごく構ってもらえてる。

でも、すごく生意気で小さくて貧弱な猫の獣人なのよね。

だからこいつをちび猫と呼んでいる。

エンは私とこのちび猫を比べる時、いつもちび猫を優遇するわ。

羨ましい子だこと。

あぁ、もう、羨ましいぃ〜。

だから私はこいつを超えて、エンと対等に渡り合えるほどになりたいと思っているわ。


僕は猫黒ミャオ、エレントは31位で猫の獣人ニャ。

僕は一回、師匠に救われたから師匠の弟子になったニャ。

好きなものは、昼寝と師匠だニャ。

嫌いなものは、柑橘類と寒くなるものとレイアだニャン。

で、レイアっていうのはこの無駄にスタイルのいい阿保面の女性のことニャン。

こいつはすごくポンコツで自分の能力で自爆するし、理解力が低い可哀想なやつだニャン。

でもなんだかんだ強いし、師匠とは仲がいいニャ。

すごく羨ましいニャ。

でもポンコツなのに時々見せる勘の鋭さとコミュニケーション能力は異常ニャ。

僕はこいつを超えて、師匠を独り占め、じゃなくて鍛えてもらうニャン。


「どうする、ちび猫。エンが学校来てないけど。」

「どうするもこうするもニャイニャン。師匠だって休みたい時もあるニャンよ。それくらいもわかんニャイのかニャ?」

「はぁ、ちび猫の癖に生意気ねぇ。前みたいに凍死させるわよ?」

「やれるものならやってみるニャン。」

「落ち着け。ミャオ、レイア。そんなに怒るべきじゃない、エンは今日から数日間は休みだそうだ。理事長が言っていたから、確かな情報だ。」

「あぁ、ラヴァーじゃない。丁度良かった、あなたの剣を貸してくれない?こいつを凍らせる。」

こいつはラヴァー。

2年6組の先輩で、エンの170kgの攻撃を軽々と受け止めた化け物よ。

ついでにこいつはエンからすごく強い剣をもらっている。

あのフィジカルにあの剣、多分こいつに勝つのはまだまだ先ね。


「あぁ、ラヴァーさん。おはようニャン、ちょっとレイアをボコボコにするの手伝って欲しいニャ。」

この人はアヴェント・アブ・ラヴァーさんだニャ。

この人は師匠のあのすごく重たい斧の攻撃を軽々と受け止めた凄い人ニャン。

僕はそうなりたいニャンが、スピードが落ちそうだから筋肉は付けたくないニャン。

この人は能力こそニャイが、師匠から狂いまくった性能の剣をもらってるニャン。

性能はよくわかんニャイけど、「吸収」の性能が異次元ニャ。

一回切られるだけで、1km走ったくらい疲れるニャン。

戦闘中に疲れさせるのは厄介極まりないニャ、それ以外にも何個か能力がついていたはずニャン。

やっぱり、こんな剣を作れる師匠はすごいニャン。


「そんなに戦いたいなら私が相手しよう。丁度暇だしな。あと、剣の制御の練習もしたいしな。」

私はアヴェント・アブ・ラヴァーだ、好きに呼んでくれ。

エレントは16位で、第4混血だ。

趣味は筋トレと鍛錬、嫌いな事は戦闘学以外の座学だ。

たまに口調や体型、性格から男だと思われるが私は女だ。

確かに男みたいだとは自分で思うがな。

で、剣を腰に携えている凛とした女性がレイアだ。

少し抜けているところもあるが、鍛錬と実戦を頑張っているすごい奴だ。

欠点はすぐに切れるところだ、それ以外は容赦・学力・戦闘共に優れた天才だ。

で、黒い猫みたいな耳と尻尾が生えた小さくて可愛い奴がミャオだ。

こいつはすばしっこい、とにかく早い。

そして頭も切れるすごい奴だ。

欠点は、特にないような気がするな。

強いて言えば、レイア同様にキレやすい事だが、そんなにキレてる印象はないな。

まぁ、そんなもんだ。


「そう。じゃ、そうするわ。今は協力するわよ、よ、ちび猫。」

「仕方ないニャンね、共闘してやるニャン。その代わり、足は引っ張らないで欲しいニャンね〜。」

「そっちこそ、私はエンには負けるけど結構強いのよ。」

「よし行こう。場所は闘技場でいいか?」

「えぇ、構わないわ。」


私達はサクッと闘技場に行き、決闘の準備をしていた。

「よし、行くわよ。ちび猫。くれぐれも死なないようにするのよ。エンのおかげで生き返る事が出来たけど、今回はエンがいないから負けそうになったら降参するのよ。いいわね?」

「ポンコツレイアこそ気をつけるニャンよ、レイアこそが真っ先に死ぬと僕は思うニャン。死ぬニャよ。」

そうして、私達は2人で足並みを揃えて闘技場に入った。

「よし、やるか。一応軽くだ、軽く戦おう。今回はエンがいないからいつものように生き返れない、だから死なない程度に殺し合おう。いいな?」

「そんなの知ってるし、言われる前からやるわよ。ねぇ、ちび猫?」

「心配御無用ニャン、ポンコツレイアでもできるんだから僕だってやってやるニャン。」

「そうか。では、こい。」

そうラヴァーが告げて、エンと言う回復役のいない死んだら死ぬ決闘が始まった。

「ちび猫、いくわよ?」

「わかったニャン。」

私達はラヴァーの目の前で二手に別れ、左右から同時攻撃をする戦法を取った。

「なるほど、面白い。そう来たなら、こうだな。」

そう言って、ラヴァーはミャオを肘打ちで吹き飛ばし、私の攻撃を受け止めた。

「ミャオ。くぅぅ、剣が動かない。」

よく見るとラヴァーは、私の剣を受け止めた後に下に流して上からラヴァーの剣で圧力をかけていた。

私の剣からは赤い火花と「ピシッ、ギギュゴ、パキバキ」と鳴ってはいけない音が出ていた。

「ちなみに言うぞ。本来なら私はお前を壁に蹴飛ばして、剣で切る予定だったからな。が、エンがいなくて生き返れない状況だからやってないだけだぞ。」

私は内心では焦っていたが、外面では結構余裕そうに振る舞った。

「万事休すね、どうしましょうか。」


「どうする、レイア。剣を折られるか、降参するか。結構焦っているよう見えるのだが、どうなんだ?」

「えぇ、どうして。」

私は驚いた。

私が焦っている事がバレたからでは決してない。

私が驚いたのはさっき壁に吹き飛んだミャオが血だらけで、しかも白目の状態でラヴァーの後ろで爪を構えていたからである。

「行きなさい、ちび猫。そのまま攻撃よぉ。」

私は少し興奮気味でミャオを応援した、ミャオの様子がおかしいことにも気づいていたはずなのに。

ラヴァーは驚いた表情で後ろを振り向いた。

が、遅かった。

「フシャァァァァァ」

ミャオは振り向いたラヴァーの顔や胴体を一心不乱に引っ掻いて、切り裂き始めた。

「ミャオ、ストップ、ストッープ。攻撃を止めなさい。このまま、ラヴァーが可哀想じゃない。」

しかし、返答と状況に変化はない。

そしてラヴァーが剣でかけていた圧力が無くなり、ラヴァーの剣が「カラァンッ」となって地面に落ちるのと一緒にラヴァーも地面に倒れ伏した。


嫌な予感が脳裏に過ぎった

が、私は「違うわよ、それは違うはずよ。」と必死に否定した。

でも、現状を見るとわかる。

地面に倒れたラヴァーと、それを一心不乱に切り裂くミャオ。

「だから、やめなさいって。」

私は不安と焦りで少しキレながらミャオに近づいた。

「フッ、フシャャァ。」

「痛っ。ちょっと、何するのよ。私達は仲間だわよね、何で攻撃するのよ。それになんであんなにラヴァーを切り裂くのよ。ちび猫、今の貴方はおかしいわよ。どうしたのよ、壁に激突して頭でも狂っちゃったのかしらね。どうなのよ、ねぇ。ねぇ、答えなさいよ。ミャオ。」

ミャオは何も言わずに一歩一歩だが、着実に私の方に向かってきた。

まるで飢えた獣のような目と形相で、私の方へ向かってきた。

「ねぇ、ミャオ。どうしたのよ、本当に。ねえってば、何か言いなさいよ。」

私は後ろに下がりながら、ミャオに問いかけた。

だが、やはり答えが返ってこない。

「何なのよ、それ。まさか、暴走?」


私は膝から崩れ落ちた。

能力は感情に深く関係し、それで出力が大きく変わる場合も多々ある。

で、能力の暴走とは、一部の感情が大きくなると能力の出力が大幅に上がって制御ができない状況の事をいう。

実際に私も、エンに初めて負けた時に怒りで暴走しかけた。

まぁ、エンは暴走しようが涼しい顔で攻撃してきたけど。

だけど、今の状況は違う気がする。

私よりもずっと強くて早いミャオが暴走で更に速く、より強くなっている。

「私に勝てるかしら。いいや、違うわ、神凪レイア。ここは勝たなくてはいけない。私の為にも、エンやミャオの為にも。」

私はミャオに向かって剣を構えた。

「シャャャァァ」

殺気を感じたのか、ミャオはさっきとは打って変わって突撃してきた。

やはり速い、見る事しか出来ないような気がする。

「くぅぅ、っち。痛いわね、だけど軽いわね。」

ほんの少し、脇腹を抉られた。

すごく痛い、かなり腕力や脚力なども上がっていて攻撃が重たい。

でも、勝率はある。


私は攻撃を避けながら、地面に落ちていたラヴァーの剣を拾い上げて構えた。

「この剣なら勝てる。だって、エンの前の説明でこの剣が学校の秩序を壊しかねないとわかったもの。何がどうしてそんな結論に至ったのかは覚えてないのが気がかりね。」

私は軽く腕を上げるように、ラヴァーの剣を振り上げてミャオを切った。

最初の攻撃は軽く浅い傷しかつけられなかったが、徐々にその傷は内部から抉られて、少し経った今では傷口から血が滴っている。

しかも、少し前にミャオに抉られた脇腹の傷がふさがっている。

「すごいわね、この剣。そりゃあ、こんな剣を持っていたら無能力でも対抗できるのも納得だわ。切り傷がえぐれて、自分が回復する。やっぱり学園の秩序を壊しかねないだわ、やっと思い出したわ。」

この傷にはミャオも怯んだ、痛いだろうから当然よね。

私はミャオが怯んだ瞬間を待っていた。

私は容赦なくラヴァーの剣を投げ捨てた後に地面を踏みこみ、ミャオの間合いに詰めた。

「ごめんね、ミャオ。」

私は罪悪感はあったものの、ミャオの首に剣を振るった。

ミャオは「ギャッ」と言い、地面に崩れ落ちた。

「これ、首の骨折れていないわよね?」

なんで私がそんな心配してるのかというと、ミャオを切る前に剣に鞘を付けて切れないようにしたからよ。

でも必死で、手加減をするのを忘れてから、こうやって心配しているのである。

「あぁ、そうだ。ラヴァーはどうなったかしら、生きてるか確かめないといけないわ。」

私は疲労で鉛のような体を引きずりながら、ラヴァーの傍に駆け寄った。

「よかった、息がある。でも、少し弱いかも。私も疲れたわ。」

私はそう言って地面に倒れこんだ。

すると視界が暗転した。

暗転して視界には、記憶が短編動画のように流れていた。

そして、意識を失ったのかはわからないが、思考ができるということに気づいた。


新安エンという特異で異様だがどこか憎めない生徒が転校して来て、その転校生に決闘を挑んだ日から私たちは少しずつだが変わったのかもしれない。

私の場合は、人と関わることを知った。

冷徹無慈悲で完璧超人な神凪レイアを今までは演じていた、周りと家族の期待に応えるために。

でも、その期待が私にまとわりついて辛かった。

まるで有刺鉄線のように、動けば動くほどひどい痛みを感じながら心の奥底に突き刺さり続けた。

だけどエンとの決闘で、私は敗北した。

完敗した、手も足も出なかった。

今考えると、あれでも相当手加減していたとわかる。

でも、その敗北こそが私への期待でできた有刺鉄線を壊した。

あの時から私は決闘に負けて、完璧じゃなくなったのだから。

今でも周りや家族の前では自分を演じているが、エンやエンの周りの人には情けなくて頼れないありのままの自分を見せられる。

エン達はそんな姿の私を見ても失望や軽蔑もしなかった。

そして過度な期待もせずに、背中を押してくれた。

だから安心できた。

心の安らぎがあった。


そして、ライバルができた。

ミャオだ。

こいつはエンの弟子になって、小っちゃくて、愛嬌があって、強い。

私には無いもの、私が欲しいものを持っていた。

悔しかった、エンがとられた気がしたから。

でもエンもミャオも口では馬鹿にしてくるけど、内心と行動は私の味方だった。

模擬戦でラヴァーに殺されかけた時、エンは「僕達のムードメーカーを殺されるのは御免なのでここは僕がお相手してあげますよ」と言って助けてくれた。

この言葉は、私の乏しい記憶力でも覚えている。

なぜかはわからない、でもうれしかった。

ミャオともよく口喧嘩した。

時には、口論の後に闘技場で決闘もした。

これを繰り返してくると、お互いをポンコツやちび猫と呼び合えるほどに仲が良くなった。

これもエンが運んできた運命的なエンだ。

だからこそ、エンがいなくて生き返れない今日の決闘でミャオのことを心配した。

自分のことのように、いや自分のこと以上に心配した。

そして、最後のミャオを攻撃する瞬間。

私の体は強張っていた。

疲れもあるが、1番の理由は恐怖だ。

せっかく仲良くなったミャオを自らの手で殺してしまうのではないかと。

でも、もしこのまま暴れ続けられたら私たちも他の生徒たちも死ぬことになるかもしれない。

そしたら、意識が戻ったミャオはきっと悲しむだろう。

そう思って私は自分の恐怖に抗い、ミャオに攻撃した。

結果的に生きていてよかった。


ラヴァーという、複雑な気持ちを抱く先輩もできた。

私を模擬戦の時に殺しかけたくせに、次に会うと剣の性能を試すために戦って死ぬことになった。

まあ、エンがいたからいいけど。

でも、少しだけ安心できる先輩だなとも思い始めた。

最近知り合ったけどどこか自分と似ているけど、違う先輩。


「はは、面白いわね。エン、ありがとう。」

徐々に意識は朦朧としてきて、考えることができなくなってきた。

体全体の力が抜けていくのを体感した。

「あぁ、もう限界。寝る。」

私は眠るように意識を失った。


今頃、闘技場には三人の女性が倒れ伏した異様な光景が広がっているだろう。

こうして、エンがいない日々の初日が終わった。

いつ帰って来るのかわからないが、しばらくは平和で少し寂しい学校生活が続きそうだ。


これにて1章終わり。

ご視聴ありがとうございました。

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