第三話 反撃開始①
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「……ピレア」
ピレアの予想外の行動に、俺は驚く。だが、その動揺を表に出す訳にはいかない。俺はそっとピレアの名前を呼んだ。
「アーノルド様。私、怖いです……」
目に涙を浮かべた、ピレアが俺を見上げる。俺と周囲へのアピールだ。弱弱しい態度を示し、クラリスをより悪役として際立たせるつもりである。卑劣な手段だ。
「大丈夫だ。私がついている」
俺は偽りの笑顔で、本心と真逆の言葉をピレアにかける。アーノルドとして過ごして日々を自覚すると、不可解な記憶があった。それはピレアにある日、会った後から行動の自由が利かなくなったことだ。
つまり俺は前世を思い出すまで、ピレアに魔法で操られていた。
ゲーム内のアーノルドが、同じように操られていたかは分からない。だが、自身の婚約者を断罪し、弟のロビンまで排除するのだ。異常な行動の理由には、十分な可能性がある。
だが、今はピレアに魔法の効果が切れていることを悟られるは避けたい。自分の思い通りになっていると、浮かれていてもらわないとならないのだ。
「私が贈ったイヤリングは如何した?」
俺はピレアの耳に揺れるイヤリングに触れた。そこには、俺が贈ったイヤリングとは違い、毒々しい赤い宝石が揺れている。
正確に言えば『ピレアに操られていた状態で無理矢理贈ったイヤリング』だ。贈らされたと言った方が正しいだろう。
クラリスを断罪するならば、俺からの贈り物をこれ見よがしに身に付ける筈だ。だがそれをしない。その理由は一つである。
「……あ、それは……クラリス様に奪われてしまいました……」
ピレアは俺の予想外の行動に、少し目を見開く。そして妙案だと、クラリスを更に追い詰めることを口にした。クラリスがその様なことをする訳がない。そう強く主張したいが、此処でそれをするのは得策ではない。
「クラリス、ピレアの言っていることは全て本当か?」
俺はクラリスへと視線を向ける。そして、ピレアの戯言の確認を問う。クラリスが無実であることは知っている。その為、本来ならばこの様なことをしなくてもいい。だが、今は時間を稼ぐ必要がある。
「アーノルド王太子殿下……。私は、私の全てに誓って、その様なことはしておりません」
婚約者である俺からの追及は辛いだろう。だが、クラリスは一切、泣き言も言わずに凛と罪を否定した。碧眼が俺を真っ直ぐに見詰める。
今直ぐにでも、本当のことを明かして安心さえたいが、それは出来ない。
「噓です! その悪女はピレア様に、散々酷いことをしました!!」
「そうです! アーノルド王太子殿下! 我々の証言をお忘れなのですか?!」
先程、クラリスを批判していた男たちが再度叫ぶ。彼らもピレアに操られ、上手く駒として扱われているようだ。
「アーノルド様……。私はクラリス様が怖いのです……ですから……」
仕上げとばかりに、ピレアはクラリスの断罪と追放を求める。
「嗚呼、そうだな。断罪し、追放しなければならない……」
俺はピレアの求めに応じて、ゲームの同じくセリフを吐く。
「っ!? 兄上……」
「……っ……」
ロビンとクラリスが、息を吞む。
「……アーノルド様、そこまで私のことを……」
ピレアは笑顔を向ける。その本心はクラリスを排除することが確定し、黒い笑みを浮かべていることだろう。
「嬉しいか、ピレア?」
「はい、とても嬉しいです。これから安心して暮らすことが出来ます」
俺はピレアに確認をする。弾む様な声でピレアが答えた。勝利を確信しているから、警戒心の欠片もない。これから、何が始まるのか夢にも思っていないだろう。
「それは何よりだ。……これより、貴様の罪を明らかにする」
俺は鋭い視線をピレアに向けた。反撃開始である。
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