お盆です
残酷な描写あり……になるのでしょうか。
お盆です。死者の霊が、帰ってくる時期ですね。
「ブヒヒ、マスター、トンカツをくださいよぉ?」
「当店にトンカツは、ございません」
怨霊のタロウが、ドアを通り抜けて現れました。
「ブヒヒ……、それなら、俺が作ってあげますよ。……マスターの肉でねぇ!」
「お断り致します。さっさと成仏して下さい!」
私は、ゴッド様から頂いたお札を取り出し、タロウに投げつけました。
「ブヒ、ブヒヒ!効かぬ、効かぬわぁ!」
「なっ?!」
手元に残っていたお札は、なぜかお札にすりかわっていました。
「ブヒヒ、ニックとかいう奴に、マスターのためだと言ってやらせたのさぁ!ブヒ、ブヒヒ。経営がヤバいらしいから助けになるって言ったら、協力してくれましたよぉ」
「くっ!この店は、ちゃんと黒字です」
タロウの怨霊は、ブヒブヒ笑いながら近づいてきます。
「ブヒヒ。マスター、いただきまーす!」
ネチャムラギキシャー!
「ぶふぃ!そこまでだ、タロウ!」
ドアが変な音をたてて開き、ゴッド様が入ってきました。
「ブヒヒ、ゴッドさんじゃあないですか〜。神のトンカツも、いいですねぇ」
「タロウ……てめえ、俺様に勝てると思ってやがるのか?」
ゴッド様は、今までに数回、タロウを撃退しています。タロウに勝ち目はない筈ですが、奴は妙に自信が有りそうにしています。
「ブヒヒ、美味いトンカツが作りたいという未練から悪霊になった、洋食屋のゴンタ左衛門さん!こいつらを、トンカツにしちゃって下さい!」
タロウは、どこからか取り出した筆ペンで、魔方陣を書き始めました。……多分、魔方陣でしょう。文字の代わりに豚足スタンプを押してる箇所がありますが……。
「ブヒヒ、もうすぐ……もうすぐだ。オレは、トンカツを喰うんだー!」
ブゴン!
「ブヒャ?!」
ブギャ!ブゴン!ブタン!
「ブヒャ?ゴッドさん!魔方陣書いてる途中で攻撃なんて、ブヒー!……ひっ卑怯〜!」
「ぶふぃ、わざわざ待っバカが、どこにいやがる」
その時、魔方陣が光り輝きました。
「ぶふぃ!しまった」
「ブヒヒ、さあゴンタ左衛門さん!こいつらをトンカツにしちゃって下さい!」
光の中から、料理人の幽霊が現れました。
「うう……トンカツ……トンカツを作らなければ」
ゴンタ左衛門さんの霊は、一番近くにいたタロウの幽霊を捕まえ、さばきました。
「ブヒャー!」
そして、私たちが恐怖に固まっている間に、こんがりとしたトンカツを揚げました。
「おお!幽霊になってから、食材に触れなかったのに、このブタは触れた。……そして、最高のトンカツが出来た!」
そう言い遺して、ゴンタ左衛門氏は消えていきました。
「ぶふぃ、成仏したようだ。……あとは、タロウだな」
タロウの幽霊は、頭部が無傷で、恨めしそうにこちらを見ています。
「ブヒ……ヒ……トンカツ……喰い……たい」
ゴッド様が、タロウの霊体で作られたトンカツをフォークに刺しました。
「ぶふぃ。……ほらよ。お前が喰いたがってた、トンカツだ」
頭部だけになったタロウの霊は、そのトンカツにかじりつきました。
「……う……ま……い……」
そして、タロウの霊もまた、満足そうな表情で消えていきました。
翌日の夕方、常連さん達と店の前で送り火を焚きました。
「ぶふぃ、夏も終わりだな」
「ニンゲンの小中学生も、22日あたりから2学期らしいですね」
「マスター、信濃ではそうだけど、他所は9月スタートが多いらしいわよ」
「へへっ、そろそろ中に戻って飲みませんか?」
「そうでやす。マスター、デリシャス残飯とワイルドピッグをお願いしやす」
「ぶふぃ、俺様もだ」
「へへっ、一番安いヤツを頼むぜ、マスター」
「今夜は高粱のお酒が飲みたいわ」
「かしこまりました」
皆さん、店に戻っていきました。かすかに「トンカツ……」と言うタロウの声が聞こえた気もしますが、きっと間違いでしょう。
さあ、私も店に戻って酒を出しましょう。




