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夏の終わりのブタ酒場



 「いらっしゃいまし」


 ……ぎぃ


 ドアを開けて入ってきたのは、三輪さんという邪鬼の方です。

 ニンゲン社会に紛れて生きている方ですが、ある日『この無能なブタが!』と職場で罵られ、この店に来ることが出来るようになったそうです。


 ……しかし、ニンゲンは本当にわかっていません。無能なのは、ニンゲンです。奴らには、ブタの有能さを理解する能力がないのでしょう。可哀想な生き物です。



 「マスター、リンゴの皮を干したのと、ワイルドピッグをロックでお願いします」


 「かしこまりました」



 三輪さんは、だいたいいつもこれらを注文なさいます。



 「どうぞ」


 「ありがとう。……ああ、うまいなあ」



 三輪さんは、いつも酒をうまそうに飲みます。



 「マスター、夜に秋の虫が鳴くようになりましたね」


 「そうですね。私は夏の夜が好きなので、少し寂しく感じます」


 「確かに、そうですね。夜が長くなるのは、有り難いんですが、寂しいですね。あ、もう一杯ワイルドピッグお願いします」


 「……どうぞ。ただ、寂しいからこそ、この季節を美しくも感じます。蜻蛉が飛んでいるのを見るのも、いいものです」


 「ああ、蜻蛉。飛んでいますね」


 「季節の終わりを惜しんでいるうちに、新しかった季節が終わり、それを惜しんでいるうちに、次の季節が終わってしまいます」


 「そうですね。だからといって、新しい季節を喜ぶだけでは、どうしてもいられず。過ぎた季節を思ってしまいますね」



 三輪さんは、静かにグラスを傾けています。



 「今夜は、ゴッドさんは来てないんですね」


 「すぐにいらっしゃると思いますよ」



 キュドッ!パアァァァァァン!



 「いらっしゃいまし」


 「おう、マスター。今夜も、来てやったぜ。……んん?邪鬼だか汚鬼だかの三輪じゃねえか!ぶふぃ、久しぶりだな」


 「ああ、ゴッドさん。久しぶりですね」



 ゴッド様は、三輪さんの隣に座りました。



 「どうぞ」


 「ぶふぃ、ありがとよ」


 ゴッド様は、酒を受け取ると、一息で飲み干しました。



 「ぶふぃ、三輪よ。知ってるか?」


 「何をですか?」


 「『 ブタ イ裏』って、ブタ族関係ねえらしいぜ、ぶふぃ」


 「ええっ!ブタ胃裏で、ブタの胃を切り刻んで胃の裏をさらす、残忍な事件じゃなかったんですか?」


 「ぶふぃ?!何だ、その猟奇殺豚事件は?!」



 ……初めて聞いた事件です。



 「いや、勝手にそう思ってただけです」


 「ぶふぃ、おどかしやがって……。チャシューに調べさせるところだったぜ」


 舞台裏が、猟奇殺豚事件の現場になるところでした。



 「ぶふぃ、ところで三輪、お前、なんかしけた面してるが、どうした?」


 「いやあ、季節が変わるなあと思いまして」


 「ん?……そうか!秋になりゃあ、秋刀魚で一杯飲みてえよな。で、ナイアルヨゼニッコに這い寄られてて、飲み代が無くて悩んでやがったか」


 「いや、そうじゃなくてですね」


 「ぶふぃ?違うのか。……そうか!新酒だな?お前それはちょっと気が早いぜ」


 「……ゴクリ。……ああ、新酒は確かに飲みたいですが、違うんです。単に季節が変わるのを惜しんでいただけです」


 「ぶふぃ、三輪がかぁ?本当かよ、マスター?」


 「本当です」


 「んーじゃあ、過ぎ行く季節を惜しんで、飲もうぜ。ぶふぃ」



 結局いつもの様に、お客様達が酒を飲み、語り合う、いつも通りのブタ酒場でした。

 ……いや、途中で私も飲みたくなって、早めに店を閉めて、皆さんと飲みましたね。

 『這い寄る貧困ナイアルヨゼニッコ』は、この世界の貧乏神です。似た名前の派生神もいます。

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