忍者、予定を決められる
更新遅くなりました。
そして明けましておめでとうございます。
その後はカレスの街での出来事などをとりとめなく話し、真っ直ぐ城へと進んだ。
以前と異なり城門前に群がる商人たちの姿も見えず、何事もなく入城を果たし、そしてそのまま会議に参加する段となった。
「話の進みっぷりが早すぎてちょっと引くんだけど」
俺の予定が勝手に決められていく。権力の乱用である。
「そうだな。時間もないことだから急いでくれ」
「つべこべ言わず、早く準備をお願いします」
リュークがさらりと文句を受け流し、そのお付きメイド二人にすぐに着替えるよう煽られた。
現在は客室の一つに連れられて入浴を済ませ、会議に出るための服に着替えさせられている。別段今までの服がみすぼらしいという訳ではなかったが、流石に正式な場で貴族の前に出ても恥ずかしくないといえる代物ではなかった。ついさっき排泄物の臭いが付いちゃったし。
客室には湯が張られており、久々の入浴ということもあってじっくり堪能しようとしたのだが、このあとすぐに会議が控えているせいで断念させられた。身体を一頻り洗い、肩まで浸かった時間など一分もなかっただろう。お風呂では百数えるまで出ては駄目、という俺の主張は当然ながら通らなかった。
浴室から放り出された以上、濡れっぱなしというのも決まりが悪いので体を拭き、用意されていた会議用の服に着替えていく。
お貴族様用の正装ということもあって着付けが分からない可能性があったが、日本でサラリーマンをやっていれば簡単に着れるような服だった。
着替えの最中に聞いてみると、なんでも何代か前の王様が現行の服を正装と決めたそうだ。それ以前はやはり着付けが七面倒くさかったらしく、それを嫌った当時の王様が強権を使って変更したらしい。
少し丈が余ったりしたが、何事もなく着替えることは出来た。その間にリュークが現れ、リューク付き侍女の一人が風の魔導具を使って髪を乾かしてくれたりもした。
これで準備万端、というわけでもない。
お偉いさんに媚を売る二つの方法、そのうちの一つである、礼儀についての授業が開催された。ちなみにもう一つの方法とは賄賂である。
王様、王族、貴族。それぞれに対する挨拶の仕方、立ち位置、姿勢、言葉使いなどなどを叩きこまれる。
「これぐらいであれば非礼には当たらないと存じます、陛下」
「そうか。時間の方もいい頃合いとなったことだし、それでは向かおうか」
最低限のそれらを学んだと判断され、リューク先導のもと五剣公会談に向かう。
部屋から出ると護衛の騎士か兵士が、すぐさまリュークを取り囲み、人の壁を作った。その内側に居るのはリュークと侍女のみで、俺は蚊帳の外だ。隠す気がそもそもないのだろうが、警戒されてるのがモロに分かった。
「おい、エイナは僕の友人だ。そのような壁を作るな」
「別に俺は構わんよ。気にするな。むしろ兵士の方々に労いの言葉を掛けてやれ。『無駄に警戒対象を増やして済まない』ってな」
最重要護衛対象であるリュークが何やら不満の声を上げるが、こちらとしては一切の不満はない。俺の傍にいる兵士の意識はこっちにあるが、その反対側に居る兵士の意識はいざというときの逃走経路などの方に向いている。
内心リュークのことをどう思っているかは知らないが、ちゃんと守ってくれるのなら文句を言う必要などないだろう。
「……はあ、確かにエイナの言うとおりだな。済まないな皆、要らない苦労を掛けてしまって」
「それが我らの職務であります、陛下」
言葉少なく、そう返しただけで再び周囲の警戒に戻る彼らに頼もしさを感じる。
問題なのは、皆俺より弱そうってことだけだな。
「ごめん兄さん。待たせちゃった?」
「いや大丈夫だ。ベルも着替えたようだな」
「ん~。着たのはいいけど、全然しっくりこないのよね」
「確かにな。服に着られているって感じ」
「あ、エイナ居たんだ」
リュークと同じく部屋の前で待機していたっちゅうねん。出てきたベルの辛辣な言葉にそう思う。
そのベルの姿は先ほどとは打って変わったものであった。
ベルが纏っていたのは、青いワンピースタイプのドレス。元の世界のイブニングドレスのように袖はなく丈は足首まで届いている。スカートは膨らんでいないが、フリルが胸元や腰元を可愛らしく飾り立てていた。靴はヒールではなく動きやすいフラットなサンダルのようなものを履いている。
髪は真っ直ぐ梳かれており、赤い髪留めが金の髪を彩る。その顔にはうっすらと化粧が乗っており、その整った容貌を映えさせている。
妖艶さと言ったものとは無縁であるが、ベルが持つ八歳の少女らしい可憐さを際立たせているような服のチョイスだった。
「そう? ありがとう」
そんな俺の素晴らしい美辞麗句を軽く受け流しやがって。
「さて、エイナがベルに十分見惚れたところで、そろそろ会談の部屋に行こうか」
「へぇ。見惚れてたんだ。ふーん、そうかそうか」
「そうそう見つめすぎてて意識がモーロ―としてきたから帰っていいか」
「場所はこちらだ。ついてこい」
調子に乗ったベルの発言に逆に乗って、この場から去ろうとしたが、それは叶わないようだ。
五剣公。
この国の貴族たちの頂点に立つ五つの名家。王ではなく国に仕え、その要となるべく一族。
彼らと王が一堂に会する場をこう呼ぶ。五剣公会談と。
「この扉の向こうにいるに彼らが居る。皆、気を引き締める様に」
城を進み、通路の奥まった場所にある部屋の前に立つリュークが、そう注意を促す。言った本人から俄かに緊張の色が感じ取れる。注意深く観察しなければ気付くことはないほど些細なものだが、そこはやはり兄妹なのか、ベルはそれを察知して釣られるように体を強張らせていた。
「あー、ちょい待ちリューク」
「どうしたエイナ?」
今すぐにでも扉を開けんとしていたリュークを静止する。疑問の声と視線を向けてくるそいつに向けて、右手を差し出す。
突然の俺の行動に驚くリュークだが、俺はその手をひっこめず差し出したままだ。
「何だこれは?」
「分かるだろ。握手だよ握手」
突然の行動にリュークのみならずベルも戸惑っているみたいだが、それを無視してほれほれと手を振っるなどして煽ると、いぶかしりながらリュークが俺の手を握って来た。
掛かる指に力が込められる、その直前、思いっきり腕を横に引っ張る。思わぬ行動にリュークは踏ん張りを聞かせるが、その抵抗に合わせるよう力を移動させた。
瞬間、リュークの足は地を離れ、体は宙を回った。
自らの力によって投げられた感覚に陥っていることだろう。リュークは顔を呆然とさせたまま、足は空を掻き、頭を逆さまにし、再び体を水平にさせ、そのまま二回転目に入った。も一つ加えて三回転。
リュークはたっぷり千とんで八十度回った末、膝のクッションを上手く使い、傷付くことなく無事着地を果たしたのだった。
この事態に固まるリュークとベル、周りのメイドたちを尻目に、俺はリュークの着地と自らの技巧に対して拍手を贈るのだった。
この中で最も早く再起動を果たしたベルから、鋭いステップインからのショートアッパーを放たれる。『呆然とする暇があったら動け考えろ』という教育が役に立っているようで良かった。
バックステップして躱しながら、自らの指導の賜物を見て、また自己満足するのだった。
「アンタ、何してるのよ?!」
「いやー、ガラにもなく緊張しているようだったから、ほぐしてやろうと思って」
「余計なお世話よ!」
喋りながらも続けられるコンビネーションを避け続ける。いつもと違う長いスカートでありながら、その足運びに淀みは見られない。あの森の逃走劇を成し遂げたのは、この健脚あってのことか。
捉えきれないことに業を煮やしたのか、開いた距離を詰めることなく、こちらをじっと睨みつけている。落ち着いて周囲を見てみると、ベルのみならずメイドたちも剣呑な目をしており、いつの間にやら俺を取り囲んでいた。
「リュークへのちょっとしたイタズラだというのに、皆さん少し物騒すぎやしませんかねぇ?」
「私たちメイドも子供のイタズラには寛容にありたいと思う。ゆえに死ね」
接続詞違くない? いや寛容されてなお殺されるのか。
「静まるんだ、皆」
包囲を縮め、俺を害しようとするその行動は、上長からの一言で制された。
リュークが頭を振りながら立ち上がる。俺に近寄ろうと足を運ぶが、それを遮るように侍女たちが立ち位置を変える。
「エイナ、一体どうやって僕を投げたんだ? 自分で自分を投げたような、変な感じだったんだが」
「合気、っていっても通じないかもしれんが、お前の抵抗力の方向を変え、そこにちょいと俺の力を加えて投げたの。流石に二回目三回目は俺の力が大きいけど」
「そんなことができるのか。まったく恐ろしいな」
感心したような呟くリューク。手をさすって異常がないか確認している。極めてはいないから大丈夫だとは思うが。
「いくら陛下のご友人であっても、余りある暴挙だと思われます。早急なる処断が必要かと」
「その通りよ兄さん」
相も変わらず俺に対しての殺意を解かないベル&侍女ーズ。さりげなく俺包囲網を縮めているのは何故なんですかねぇ?
「だから落ち着くんだ皆。エイナのおかげで緊張が取れたのは事実なんだから。ベルだってそうだろう?」
「そ、それは、そうだけど……」
「やり方に問題があると存じ上げます、陛下」
ベルはどうにか丸め込まれたが、リューク付きの侍女たちの意見は変えられない。
「その通りだが、僕も五剣公と相対するということで緊張していたんだ。王が貴族に緊張しているのも、問題があるだろう? そんな状態で部屋に入れば上手くいくものも上手くいかないさ。それを助けてくれたんだから、ここは矛を収めてくれ」
リュークの言葉に渋々と下がるメイドたち。流石は王様。あっさりとこの場を収拾させた。緊張さえしてなければこれぐらいやる男だと分かっていたよ俺には。流石我が国の王。
「まあ君たちの言う通りやり方には問題があると思うからね。この会談が終わった後に半殺しぐらいであるよ」
「かしこまりました陛下」
我が国の王に慈悲というものがないことぐらい分かっていたよ俺には。
権力乱用、ダメ絶対。




