↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
忍者、異世界に行く  作者: 和尚
忍者、出会う
13/44

忍者、バトる

 仕切り直し一発目の激突。横薙ぎに放たれた金属棒と、振り下ろした剣が衝突した。


 その結果、俺の体は後ろに大きく吹き飛ばされた。

 武器の質量、振られる速度、込められた膂力、重さが乗った打突部位が合わさった一撃は、とてつもなく重いものであった。衝撃を減らすべく、力に逆らわず自分から吹き飛ぶ方向に飛んだ。距離を詰めてくるカンタール。宙に浮いて身動きが取れない俺を見逃すはずがなく、仕留めるべく両手で棒を振り下ろす。

 迫りくる真上からの一撃。迎撃。ナイフを抜き放ち、顔面を狙う。至近の一投。されど、首を逸らすことで回避される。


 されどその動作で、一閃の軌道が変わる。垂直から、僅かに角度が外れる。速度が緩む。それらの変化は微々たるものであるが、それで十分。空中での回し蹴り。狙いは棒の側面。難易度は高いが、百マイルオーバーの白球や、アーチェリーの矢を掴む訓練を前世で死ぬほど積んできた。ならばこの程度、造作もない。

 見事蹴りは直撃し、それを基点に体を下に押し出す。重い棒の軌道を逸らすことは叶わなかったが、俺の体を軌道から外すことは出来た。重力に逆らわず地面に近づく。棒は俺の頭部すれすれを通ったが、当たってはいない。致死の一撃を間一髪で避け、伏せるような姿勢のまま、足を切り裂くように剣を振り抜く。決めるつもりで一撃を放ったカンタールでは、踏み込んだ足に体重が乗り過ぎて躱すことはできない。蹴りも同様。少なくとも足の一本は頂いた、はずだった。


「ガアアアァァッァ!」

 獣そのもののような声を上げたカンタール。耳に響く狂咆と、風切り音。悪寒。転がるようにその場から離れた。距離を取り、四肢や体幹の筋肉を使い、跳ね上がるようにして立ち上がる。

 そして見たのは、先ほどまで、俺が居たであろう場所に突き立つ、金属の棒。あの勢いで振られた重い金属棒を力づくで制止させ、持ち手を入れ替え、棒を地面に突き刺したのだろう。もしあの場に留まっていれば、絶命は免れることはなかっただろう。

 振り抜かれた棒を無理矢理止め、床を突き抜く。これが、成人した、成熟した獣人が持つ力、か。なんとも、まぁ……。


「ったく。おとなしく死んどけよ。つか蹴るか? 普通?」

「おっさんの腐った常識を俺に押し付けんな。これだから考えが凝り固まったジジイは」

 悪態を付き合うが、その間に入手した情報を吟味する。一回目の交差で相手の力量をそれなりには把握していたが、今回のでも新たなことが分かった。まあそれは向こうも同じだろうが。

「まるで軽業師みてえだなテメエは。まあいいや。どうせ死ぬのは」

「お前だ、なんていう気かよ?」

「そのとお、り!」

 掛け声と共に、床から棒を抜き、攻めてくる。


 轟、と迫る棒。素早い突きが襲い掛かる。回避するが、それと同時に棒を引き寄せ、再び突いてくる。正確とは言えないが、掠っただけでも行動を阻害される手傷を負わせる刺突が連続で繰り出される。その中でも荒い一撃を見繕い、前に出たが、相手も一歩下がり、広範囲の横薙ぎが放ってくる。問題なのはその高さ。地面すれすれを這うように薙がれる棒。その意図を察した俺は飛んで躱さず。後退して躱す。


「いや、実を言うとさっきの攻撃。俺の足を斬り飛ばそうとしたあれな。相当肝を冷やしたよ」

 超低空攻撃を仕掛けるためしゃがんでいたカンタールが立ち上がり、話しかけてくる。

「まさかあんな避け方してくるとか、夢にも思わなかったからよ。お前の戦闘技術の高さはそれまでの殺り合いからわかってたつもりだったが、俺じゃ比較にならないとは、驚きだぜ」

 その声と表情に浮かぶのは、嘲笑。

「まあでも、お前にはどうしても足りねえもんがある。教えてやろうか? それはなぁ--」

「--リーチだろ」

 カンタールが踏み込んでくる。一歩後退。両手で突き出される金属棒。伸びきったそれは、俺の目前で制止していた。


 今の俺と奴との距離、これがカンタールのリーチそのものだ。二メートル近い体躯相応の腕の長さを持ち、棒そのものの長さも相まってそのリーチはとてつもなく長くなる。

 一方、俺の剣は子供には不釣り合いの長さがあるが、奴の得物には敵わず、何より子供である俺では奴の腕の長さとは比べるべくもなく。

 圧倒的に違うリーチの差。こればかりはどうしようもない。

「そのとおり。この破龍の長さも当然だが、何よりお前と俺の腕の長さが違いすぎる。どれだけ鋭かろうが巧みだろうが、当らなければ意味がない、だろ?」

「破龍って、その棒の名前? そのセンスには脱帽と失笑ですわ」

「口が減らねぇガキだなテメェは。まあ最期の戯れ言だ。よくほざいとけ」

 先ほどの意趣返しのような言葉を放ち、攻撃が再開される。

 

 ぎりぎりこちらに届くという、絶妙な間合いで棒が突き出される。連撃が襲い掛かり、そのうち一つをいなし、踏み込み、そして低空の薙ぎ払いを躱す。その間に相手の間合いの外側まで下がり、対峙する。

 まるで、ではなく、まさに先ほどの焼き直し。

「おいおい、さっきの大口はどうした? 借りてきた猫みてぇに大人しいじゃねえか」

「俺の唯一の弱点を見つけたからって喜ぶな。お手が出来た犬じゃないんだから」

「生憎耳が遠いみてぇでな。俺の傍に来てから言ってくれや。近づけるもんならな」

 露骨な挑発。そう簡単には近づけない。

 客観的に観て、良い攻め方ではある。攻めにくさの肝(きも)は、足元を刈る薙ぎ払い。

 しゃがんで躱すことが出来ない高さの一撃を躱すには、当然跳躍する必要があるが、それこそが奴の狙い。空中で身動きが取れない俺に、切り返しの一撃を叩きこもうという腹だろう。容易くはないだろうが、先ほどのカンタールの膂力を見る限り可能であろう。近づこうとしても、その前に叩き落とされてしまう。

 さっきは回避できたが何度も続けられれば、直撃を喰らう可能性もある。

 さりとて下がり続けても、回避一辺倒では、いずれ捕まってしまうだろう。容易に間合いを潰されない様に、限界までリーチという利点を使って攻め続けている。一方的に攻撃できる距離。それを維持している。

 前に進むことも叶わず、後退し続けても目が出ない。戦闘の理想形。敵より遠く我より近くを実践出来ている。攻防の主導権を完全に握られていると言っても過言ではないだろう。

 普通なら、な。


「つか唯一とか言ってたけどよぉ、他にも力やら速さやら、色々とあるぜ」

「聞こえてんのかどうかはっきりしろや。自分の発言も忘れてるみてえだな」

「あん?」

「『すぐ殺してやるからよ。だからいいぞ。死に急がなくても』っだったか。こんな時間掛かる方法でいいんかい?」

「あー、そういや言ったな。しゃあねぇ。こっからはちょいと早くしていくぜ」


 その言葉通り、ギアが上がったように、カンタールの攻撃は一段と早くなった。速度上昇に反比例して、精度そのものは下がったが、その打突の密度から容易に踏み込むことができない。一撃を見繕っても、先ほどと同様に前進を止められる。下がった俺に再度突き出される棒。

 同じような遣り取りを幾度も繰り返しながら、見極めていく。

 意識を戦闘ではなく、観察に傾けていく。奴の力を。速さを。戦術を。カンタールの全てを丸裸にしかねんばかりに、暗闇越しに奴を見続けた。


 故に、だろう。その一撃への反応が僅かに遅れたのは。

 間合いの外まで逃げた俺を追撃する金属棒。変わらず、両手で持った棒の一撃。ただ今回放たれたのは突きではなく、唐竹割の振り下ろし。今まで同様に一歩下がり回避したが、それが失着であった。

 振り下ろされる金属棒。されど間合いが変わるわけではなく、それは俺の目前を通過し、地面に叩きつけられる。

 割れる地面。その直前に感じたのは、棒に通される魔力。

 響く振動。問題はその大きさ。足に伝わったその振動は、まるで棒が直接当たったようで、俺の行動を一瞬阻害した。

 その一瞬で、カンタールは一歩間合いを詰める。地面へとめり込む金属棒。震脚。棒が跳ね上げられた。

 奴の力としなりが加わった、払い上げが迫る。

 恐るべき威力を秘めた払い上げは、後方に倒れこむようにして、かろうじて回避。しかし抉られるようにして飛んできた床の破片を避け切ることはできなかった。破片の一つが頬を掠める。

 舞う鮮血。後退。連続バク転。今までより遠く間合いを取る。滑り落ちた血が床へと垂れてゆく。血の臭いが漂い、獣人たちの鼻を刺激していく。


 予想外だったのは、強すぎた振動。その秘密はあの棒によるものだろう。

 地面に触れる直前で通された魔力から察するに、あの破龍という棒は魔導具だったのだろう。効果はなんだろうな。振動の増幅か、対象物への集中伝播、とかか。

 まさか振動によって足を止められるとは思ってなかった。獣人だから魔法や魔導具が使えないと、どこかで油断していたのかもしれない。あくまで使える割合が少ないだけで、使えるやつは確実に存在するというのに。だがそれ以上に火やら水やら出る派手な魔法より、ああいう地味目な魔法の方が対処しにくい。

 これを知れたのは思わぬ収穫だったな。『忍術』では絶対に水やら火やら出してやるがな。


「っち、なけなしの魔力を使ったとっておきだってのによ。あっさりと避けやがって。……ん?」

 意識を切り替え、カンタールとの間合いを探っていると、しきりに鼻を鳴らしはじめた。まるで何かを確かめるように鼻を効かしていると、おもむろに地面に滴った俺の血液を指で掬って舐めた。正直見ていて良い気分はしてないが、テイスティングのように俺の血を味わっていた。そして納得したように一つ肯き、血を吐きだして、口を開いた。

「なんだガキ。お前混じりもんだったのか。忌み子の癖に俺をここまで手こずらせやがるとは、正直言ってムカつくぜ」

「忌み子?」

「ああそうだ。子を成すこともできん。スキルが二つに分かれてて他の獣人より力が弱い。生物としても獣人としても生きる意味がないってやつだ。そんな奴に手こずってたのかよ。参るぜまったくよ……」

 その態度は今までのものとは大きく変わり、侮蔑、自嘲などが多分に含まれている。それより気になることがあったな。

「スキルが二つに分かれてるって、どういうことよ?」

「まんまだよ。元来身体と五感強化を行うスキルが一つだけあるっていうのが、俺たちのような獅子なんかの種を基とした獣人だ。けどテメェら混じりもんは身体・五感の強化をわざわざ二つに分離してスキルとしてんだよ。親に教わらなかったかガキ」

「聞いたことないねぇ」

「そうかよ。二つに分かれてるせいで、テメェら混じりもんは身体能力と五感、そのどちらをとっても純血の俺たちには敵わねぇんだよ。まさしくクズだな」

 なるほど。普通の獣人は一つだけスキルを持っているのか。それはいいことを聞いた、かもしれん。

「はぁー。なんかやる気がなくなった。さっさと終わらせてやるか」

 まるで俺と互角に戦ったのが恥であるかのような言いぐさではあるが、事実そうなのだろう。基本的に獣人の混血児が、差別の、見下しの対象であるなら、そんな奴を殺したなど何の自慢にもならず、むしろその混血の子供に食い下がられたなんて事実は、まさしく不名誉そのものなのだろう。


 ふむ、そろそろあいつらも辿り着いてるころか。ちょうどいい塩梅だし聞いとくか。

「お前さ、何で人殺してんの?」

「はあ? 命令だからに決まってんだろうが」

 隠そうともしない侮蔑の態度。そこから発せられる言葉には、気負いも何もなかった。それが当然であるように。

 まるで、前世の俺のように、気軽に言い放った。

「そこにお前は何も感じたりしないのか?」

「感じる訳ねぇだろ。俺はあくまで命じられただけだ。そもそも弱い奴が死ぬのは当然だろ」

「戦った果てならいいよ。だが命令で一般人は殺したんじゃねえのか。あの兄妹を狙ったように。それはどう思ってんだ」

「だから言ってんだろ。命令だってよ」

「……あっそ、じゃあいいや」

 見ていてムカつく。昔の俺を見せられているようで。

「テメェから聞いといて、んだその態度は? 混血児が。血ぃ腐ってんのか?」

「お前より百万倍マシだわ。比較対象にすらしないでもらいたいね」

 カンタールの血管が浮き出て、無表情に近いながらも強い怒りを滲ませていた。殺意という意味では、先刻とは比較にならないほど膨れ上がっていた。


『我は五剣公が一つ! ソート・エックレスなり!! これより行われる決闘に立会い、その正当性を--』

 その殺意に従ってこちらに近寄ってきたカンタールを押し留めるように、将軍の大声が響いてきた。これが聞こえたということはつまり、こちらの計画が上手く行き、最終段階まで進んだということを示している。


 そして、この戦闘の終焉。それの合図でもある。


「なんか、向こうの方で盛り上がっている見てえだな。ちょっくら覗いてみようかねぇ。つうわけで、もう終わらせるわ」

「そうだな。俺も行かなきゃいけない所があるし、本気出して、サクっと終わらせてやるよ」

「抜かせ。混血のガキが」


 深く息を吸い、吐き出す。カンタールの姿がぼやける。充満していた血の芳香が薄くなる。遠くなった耳が捉えるのは、カンタールの動作音のみ。

 踏み込みだ音、衣擦れの音から、突きを繰り出さんとする構えをとったのが分かった。

 怒りに満ちているとはいえ、攻め方を変えるつもりはないみたいだ。憎しみに近い感情は持ち合わせてはいれど、それでこちらの戦力を改めるつもりはないようだ。

 先ほどのように、リーチを利用して攻めてくるつもりか。


「死ねよ」

 憤怒、殺意、負の感情が詰まった声が小さく、されどしっかりと響き、それを追い越さんばかりの鋭い突きが放たれる。眼で捉えることが出来なくなったその穂先からは、僅かな風切り音。

 その音の終着点は、体の中心である、鳩尾。

 そして、風切り音が、消えた。


「な……んだと……?」

 その声を漏らしたのは、突きを放った張本人の、カンタール。

 棒は吸い込まれるように鳩尾へと向かい……その直前で停止していた。

 カンタールが止めたのではない。殺意で満ちていた彼が止める理由など存在していない。

 静止したのは、止められたからに他ならない。

 そう。この俺、エイナが。


 当たる直前、スキルを更に強化した(・・・・・・・・・・)左手で棒を掴み、強引に止めたのだ。


 技もへったくれもありゃしない。ただの力技。故にカンタールの思考は停止してしまう。大人の腕力を子供が凌駕しているという、この一種異様な状況に飲み込まれてしまったのだろう。

 されど戦闘中にそれが許されるはずがなく。

 左手を引っ張り、カンタールをこちらに引き寄せる。引っ張られていることに気づいた奴は、すぐさま棒から手を離し、距離を取るため後退した。


 足音がした方へ、一気に間合いを詰める。強化(ブースト)した速度もまた、カンタールの速さを超えている。衝撃に息を飲む声が聞こえる。音の発生源へ迷いなく剣を振り下ろす。手応えあり。苦悶の声を上げて後ずさるカンタール。


「だから言ったろ? リーチのみが、唯一の弱点って」

「くっ……そがぁ……。ふざ……けんな……」

 深呼吸をして、スキル(・・・)『獅子の心(・・・・)』に回していた魔力を(・・・・・・・)『虎の魂(・・・)』に戻すと、五感が再び鋭敏化していく。声がした方を見ると、そこには右肩から左脇腹まで逆袈裟に斬られたカンタールの姿があった。俺の血に混じり、カンタールの血の臭いが香ってきた。これが純血の獣人の血の臭いか。覚えておこう。


 震える足で立ち上がってくるカンタール。

 その顔には驚愕と疑念が張り付いて剥がれない。それはそうだろう。もし今、目の前で起こっているのが事実なら、俺の言葉が事実なら、奴が取った間合いの戦術は、前提から崩壊する。この戦闘が茶番以外の何物でもなくなってしまうのだから。

 リーチなど問題では無い。金属棒を力づくで止める。トップスピードで一気に間合いを潰す。このような力技で、強引に斃せたはずなのに、それをしなかった。いつでも斃せたのに、実行に移さなかった。奴からすれば遊ばれているようにしか見えないはずだ。


 何故時間を掛けて戦っていたのか。何故遊んでいたのか。という疑惑に関してだが、別に遊んでいたわけではない。成長しきった獣人はどのような戦い方をするのか。その身体能力は如何ほどのものなのか。感覚はどれだけ鋭いのか。今回はそれを知るいい機会だと思ったのだ。

 将軍の号令がかかるまでの間、こいつを観察していたというわけだ。

 最初は技術で勝つつもりだったが、観察の結果、力技でも十分事が足りるというのが分かったから、力技で倒しただけだである。



「な、なぜだ……? テメェ、の、その力は……? 俺は……破砕者……だぞ……」

「戦士の特化職(ジョブ)だっけそれ。俺はまだ狩人だけどな」

 抜け忍っつう固有(ユニーク)職(ジョブ)も持っているけどな

 幾つもの疑問が湧き出て、奴の疑念も尽きないだろうが、なにより一番の疑問は、やはり俺の力の秘密だろう。

 普通に考えても、やっと二桁の年齢に至った子供が、身体能力で成人男性を上回るはずがない。獣人と人間であったなら可能性もあるが、共に獣人である以上、種族差が生まれるはずもない。

 ではどこで一体その差を作ったのか。


 差を生んだものこそが、俺命名、『スキルブースト』だ。


 初めて迷宮に忍び込み、魔力操作の方法が重要だと思った俺は、図書館に籠って只管魔力について勉強した。

 図書館の蔵書量はそれほどでもなかったが、魔術や魔力、そしてスキルについて書かれた書物を読んだ。

 詳しいことは載っておらず、せいぜいが、スキルは魂に刻まれている物。獣人は自分の種族に沿ったスキルを持っていること。代表的なスキルに『王』のみが持てる固有なスキルとその詳細。スキルには常時発動しているものと、任意発動するものに分かれている。その程度のものだった。


 しかし俺の気を引いたのが、『王』のスキル。

 そのスキルの効果は、特定の種類の魔術における、魔術式の記述破棄や威力増幅というもの。魔術師垂涎のスキルだが、一番気になったのは記述破棄、つまり空中に魔術式を書かなくても、魔術が使用できるという点。

 式がなくとも、魔術を使えるようにするスキルと言えばそれまでだが、俺にはどうも引っかかった。

 そこで考えたのは、魔術式が必要なくなるのではなく、必要な魔術式が既に書かれているのでは、ということ。

 つまり、スキルそのものに魔術式が載っているのでは、ということだ。

 スキルに載っている魔術式に魔力を通し、すぐさま発動しているのではないか、と。


 この考えがあっているのならば、威力増幅の効果も説明が付く。

 魔導具は通常の魔術式より、魔力の通りが悪いせいで、より多くの魔力を必要とする。スキルはその逆。魔力の通りが良いおかげで、発動に必要な魔力が少なく、その余剰分がそのまま威力の上昇に繋がるのだろう。


 そしてそこから更に発展して、スキルとは形を持たない魔導具(・・・・・・・・・)なのではないかと考えた。魔力を常時消費して発動しているのが、俺の二つのスキルなのではないかと。

 

 そう考えた俺は魔力操作の方法と並行して、スキルの操作方法の訓練を積んだ。幸いジンさんの指導が丁寧かつ適切だったおかげもあり、魔力操作についてはすぐさま行えるようになった。


 前世での瞑想経験から、魔力の流れを悟ることができ、注意深くその流れを見続けていると、己が魔力が常に流れ落ちている先を見つけることができた。魔力の流れは二つに枝分かれしており、大本の魔力供給を止めたら、身体能力や感覚がガタ落ちしてちょっとビビったのは秘密だ。


 これにより、スキルが魔力を使って起動しているものだということが分かった。

 さて、それでは二つのスキルに流れていた魔力量を増やすと、さらには片方のスキルへの供給を止め、もう一方にのみ集中して魔力を流すとどうなるのだろうか?


 結果はご覧のとおり。成人の獣人の力すら凌駕する膂力を手にすることが出来るというわけだ。

 魔力で魔臓に繋がる臓器やらを強化する技術をブースト、それを魔臓ではなくスキルを対象にしたものがスキルブースト。それが俺の力の正体ってわけだ。

 まあその間、五感の強化を失ってしまうのだがな。

 カンタールの力を知った時は思ってしまったな。なんとも、まぁ、この程度の力なのか、って。


 ちなみに混血の獣人の強化が弱いのは、二つに分かれている分、魔力の供給が阻害されて、総合的な魔力量が少なくなっているのではないか、と考えている。まあその分それぞれのスキルを特化して強化できるのだから、要は使いようだという話だ。


 だがそんなことを知る由のないカンタールの動揺は止まらない。ついでに出血も。

「答……えろ。ならその……力は……何だ……?」

 血を垂れ流し、形相を歪めながらも問い詰めてくる。

 いくら強いと言ってもまだ子供。さらさら負ける気はなかったのだろう。見下している混血児が相手ならなおさらだ。そんな相手に追い詰められたという事実が受け入れられていない。

 そんなこと、俺には関係ないけどな。

「教える訳ないだろ。ほんじゃ、バイバイ」

 それを最後に、その首を刎ね飛ばすように剣を振るう。


 斬られ、飛んでいく、カンタールの、右腕。


 右腕を犠牲にし間合いを潰してくる。残った武器である左手の爪を俺の首に突き立てんと走らせる。己が身を省みない、捨て身の一撃。

 

 カンタールの踏み込みに合わせて、こちらも一歩前進。剣を手放し、相手の懐に入り、一撃を躱す。スキル『獅子の心(ライオンハート)』に魔力を集中。ぼやける視界。されど目標は目と鼻の先。逃すことはない。

 右手を開き、指を揃え、爪を伸ばし、目前に突き出す。

 その一撃はカンタールの胴体を貫通する。腕を抜くと、カンタールの体は崩れ落ちていく。その眼光は憎しみを放っている。通常状態に戻った俺は剣を拾い、振りかぶる。


「ただ一つ言えるのは、お前じゃジンさんの足元に及ばないってことだけだ。あの人の槍は速く、そして力強い。今の俺じゃ掴むことなんぞ出来はしない。俺から言えるのはそれだけ。そして今度こそ、サヨナラだ」

 怨嗟の声を上げようとしていたが、言わせないし、聞く耳も持たない。

 死ぬ前の妄想は、たっぷり聞いてやったのだから。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。