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忍者、異世界に行く  作者: 和尚
忍者、出会う
14/44

少年、立ち向かう

「大丈夫なのかな? エイナ」

 横に並んで走る僕の妹--ベルベットが心配そうな声を上げる。走りっぱなしで息を切らしながらも、不安で仕方がないのだろう。


 出会いは、僕が敵と間違えて襲い掛かるという最悪なもの。それ以降僕たちを助けてくれた獣人の子供。出会ってから十日も経っていないが、乗りかかった船と言い放ち、こんなとこまで付いてきてくれた、変な名前の少年。

 それがエイナだ。

 年齢そのものは僕たちより下で、日常での会話も良くふざけてはいるが、その戦闘力や、ふとした時の言動は、とても見た目通りのものではない。

 その彼は現在、王宮まで続く廊下の下。王宮まであと少しでといった所で、立ちふさがった獣人の男と戦うために、その場に残った。僕たち兄妹の抹殺を目的としたその男を足止めするために、残ってくれたのだ。

 武の心得などほとほとない僕たち兄妹でも、はっきりとわかるほど、凶暴な雰囲気をその身に纏っていた。そんな相手と対峙しているエイナが気にならないほど、浅い付き合いはしていない。ベルベットの口からそんな言葉が漏れるのも良く分かる。

 けど。

「大丈夫。エイナなら心配しなくてもいい」

「で、でも」

「まだ短い付き合いなれど、彼はできないことはそう簡単に口にしない男だというのは、分かっているつもりだ。エイナがやれるといったのなら、やれるのだろう」

 そう、エイナがやると、倒すといったのだ。ならばそれを信じる。それだけだ。


 そも、彼が居なければ、僕たちはここに居なかっただろう。最初の暗殺者は当然のこと、カレスから王都までの道中の安全や、囚われたソート将軍の救出、そして、この王宮までの進軍。全てにおいてエイナが助けてくれたからあったことだ。

 王位継承権がばれてしまい、ソート将軍が囚われて以降、逃げ続けていた僕たちがここまで反撃できたのはエイナの存在あってこそだ。

 誰が思う? 僅か十の少年一人の行動が、ここまでの大事を成すまでに至るなんて。

 出会いこそ最悪だったが、エイナと出会えたことは僕の人生で最もツいていることだろう。

 そんな彼が、言い方は悪いかもしれないが、あの程度の男(・・・・・・)相手につまずくなんて、想像がつかない。

 勿論絶対はないだろう。あっけなく死ぬのが人間だ。僕たちの護衛をしてくれていたソート将軍の部下の方々も、カレスの街に到着するまでに、僕たちを守って死んでしまった。


「相手も強いのだろう。でもエイナは勝つ。信じるんだ」

 だからこそ、信じるのだ。彼が勝つと、生き残ると。

「そんなことを言っていたら、またエイナにからかわれるぞ。そんなことで頭を回すぐらいなら、もっと足を回せ、といった具合にな」

「ほんとに言われそうなんでやめてください兄さん! わかりましたよ。まあアイツがそう簡単にくたばるとか、考えられそうにないですしね。信じますよ、アイツを」

 ベルの顔から不安の色が消えた。

 足止めを引き受けてくれた彼に、今の僕たちが出来ることは、信じることと進むことのみだ。

 彼が危険な場面を受け持った以上、僕たちは必ず目的を達成する。必ずだ。


「リューク様! 見えてきました! ここからが正念場ですぞ!」

 ソート将軍から声が掛かる。明かりの先には王宮を守護する近衛騎士たちと、それに守られている人物が一人。

 僕はナイフに近い小ぶりな剣を抜き放ち、その集団へ切っ先を向ける。

「分かっているな!? 僕たちの狙いはただ一つ! 行くぞ皆っ!!」

「「応っ!」」


 僕の号令に従って、将軍たちが騎士たちに襲い掛かる。混戦となり、すぐさまこちらが不利となる。こちらは十人余りのみ。反対に向こうは三十人弱。多勢に無勢。至極当然だ。

 だが目的は騎士たちに勝つことではない。この向こう側にある。

 覚悟を決めて戦士たちの隙間を縫い、剣戟入り乱れる場を抜け出す。その先には、身なりのいい少年が居て、僅かな手勢が逃がそうとしていた。

 少年を囲んでいるうちの一人、僕の接近に気付いた騎士が、こちらを排除しようと近づいてくる。

 それはつまり、少年を守ろうとする壁が一つ減ったことを意味する。まさに好都合。

「ガーフ王子っ!!」

 逃走を初めた少年--ガーフ王子の名大声でを叫ぶ。自分でも驚くほどの大きな声が出たが、その結果、敵も味方も関係なく、周囲の人間は大声に釣られ、こちらへと視線を向けている。

 それは呼ばれた王子本人も例外ではなく。こちらを振り返り、足を止めた。まさに狙い目。

 棒立ちとなった王子へ手に持ったものを投げつける。


 僕の声に呆気を取られていたのか僕に近寄ってきていた騎士は、それを払い落そうとしたが、それも叶わず。

 その場にいる全てのものが、それを目で追っていた。

 飛翔し、回転しているそれは王子へと迫り、ついに--

「ふんっ!」

 --王子の手によって弾かれた。


 その結果、静寂が場に訪れた。


 安堵の息を吐きだし、そして鬼気を発する近衛騎士たち。あわや危険物が投げつけられたと思ったのだろうが、それが王子によって弾き飛ばされたことに拍子抜けして安心し、守れなかった自分たちと、そんなことをやらかした僕たちへの怒りへと変換したのだろう。

 

 だが、それを掻き消すほどの歓声が、こちらの陣営から上がった。怒っていたはずの騎士たちも、呆気に取られている。何故歓喜の声が上がるのか、理解できていないのだろう。企てが失敗に終わったのではないかと。


 それは大きな間違いである。なぜなら、作戦は成功しているのだから。


「はーっはっはっ!!」

 突如として、王子からも声が上がる。大きな、大きな笑い声であった。その

「なるほどな。そういうことか」

 笑いを収めた王子が、納得したように呟いた。己が弾いたものを拾い上げ、手中のそれを灯りに翳すと、そのシルエットをはっきりと映し出される。

 木で作られた細長いそれは、小ぶりながら厚みがあり、それに差し込めるように、片方側にのみ穴が開いている。


 それは、僕が持つ剣を納めるには、ぴったりな形であった。


「これで決闘が成立、ということだな。少年くん」

「僕の名前はリュークという。覚えていてくれ王子くん」

 投げつけたのは、僕の鞘(・・・)。それを王子は体で受け止めた(・・・・・・・)。

 つまりこれで、決闘は成り立ったのだ。


 ガーフ王子との決闘。そう、これこそが僕たちの目的であった。

 そしてこれは、通常の決闘とは、また異なる。


「俺と君との決闘ということは、やはり神明決闘かな」

「その通りだ」


 神明決闘。神に己が意志を表すための決闘、という意味らしい。

 普通の決闘と同じように、挑む手順も闘うのも変わらないが、この決闘は王位継承権保有者(クラウン・プリンス)と王(キング)のみが行うことが出来るものだ。戦争のときにも、王同士が同様の手順を踏んで行うものもあり、その場合は神明戦争と呼ばれるらしい。


 別名で呼ばれている以上、普通の決闘とは異なる点が多いが、この場で神明決闘を行う理由は、そのうち二つ。

 一つは、同国の王位継承権保有者同士がこの決闘に則って戦った場合、その継承権の順位を覆すことができる点。

 これは向こうにとって重要な点だ。僕を合法的に殺すことが出来る上、次期王位を確実なものとすることが出来る。

 つまり王子をこの決闘に誘い込むエサだ。


 こんなシステムがあるのだから、ベルを誘拐して僕に八百長の決闘でも持ちかければいいのでは、という考えも浮かぶが、そうは問屋を下さないのがこの神明決闘なのだ。


「なりませぬぞ王子! この決闘は受けてはいけませぬ!」

 王子の傍に立っていた老人が一人喚き散らす。その言葉は決闘を拒絶するものだ。

「ヤーラッド国務大臣殿。廊下であっても、これは王位継承権保有者同士の神明決闘に関する話。我々が口を挟める余地などない」

「黙れソートよ! いくら貴様が五剣公であっても、いや五剣公だからこそ、ここまで王位継承権保有者に手を貸していいと思っているのか!?」

 僕の傍に来ていたソート将軍がその老人へ話しかけた。この老人がこそが国務大臣、ヤーラッド・カッツォオリ。あの獣人男性の所有者ということだな。


 国務大臣がここまで焦るのには、理由がある。

 それがもう一つの、この決闘を選んだ理由。この決闘が発動した場合、人質などを取ることはできないし、脅迫することもできないという点だ。

 正確には決闘宣言の時、他者の安全の確保を要求した場合、その個人への手出しが行われることがないというものである。これによって、当事者以外からの横やりは勿論のこと、決闘を妨げる全ての外部要因を排除して行われる。また人質に取られている人間の一時的な安全を確保も可能。戦争の場合は民への暴行や過度な略奪、捕虜の不当な扱い等を防ぐことができる。

 僕にとっては大変有難い仕組みではあるが、大臣からすれば手助けの仕様がなくなってしまう。つまり王子自身の力のみを信じなくてはならないということだ。


 大臣はそのことを王子に力説するが、当の本人はわかったわかった、と宥めるだけだ。

「というか決闘をしなくとも、そのまま彼ら、というか将軍に命じれば俺を殺せたのではないか?」

「それでは民はともかく、貴族は僕を王としては認めてくれんだろう? 即位してすぐに内憂を背負い込むつもりはないのでな」


 貴族たちにも意思がある。一国民にしがない僕が、なにもしないまま王となっても、心の底から僕に従おうなどというものは少ないだろう。五剣公の一人が味方になっているだけでも望外というものだ。

 このまま王になっても、その手の問題を片づけなければならない。されどここで決闘という形で正当に王位を手に入れたのなら、一気に問題を片づけることができる。

 この決闘での利点は極めて大きい。


「ふんっ! もう王気取りか小僧! さあ王子、今ならまだ拒否できまする。そして騎士たちに抹殺を命じるのです」

「いや、受けるしかないだろう大臣。お前にもわかっているだろう?」

「っく! おのれソートめ……! カンタークはなにをやっておるのだ!?」

 そう。もし断った瞬間、僕の傍にいる将軍が王子を斬り伏せるだろう。そうなれば必然的に僕が次期国王へとなり、王不在の状況を作らないためにも僕が狙われることもなくなる。極めて暴力的で強引な手法だが、最も確実な方法でもある。

 エイナがあの獣人を引き受けてくれたおかげで、作ることができた状況なのだ。


「それにもしこの場を生き残って、運よく俺が王となっても、決闘を避けた腰抜け王など、我が国どころか諸外国の笑い種だぞ」

 決闘から逃げた、臆病な王様。その誹りを受けてしまったら、外交において長い間、もしくは永遠に対等に扱われることはなくなってしまう。


 つまり、決闘を申し込まれた以上、王子たちはそれを受ける以外の選択肢がない。

 ガーフ王子に決闘を申し込めた段階で目的の大半はクリアできている。

 あとはこの決闘を制すのみだ。


「俺の力を信頼しなよ大臣。で、どこでやる?」

「見物人は多い方がいい。広い庭の方で戦おう」

「了解した。では最後に一つ」

「何だ?」

 彼が俺を見つめる瞳が細く細く、細められる。

「俺に勝てると思っているのか?」


 睨んでいるのか。笑っているのか分からないほど、細いその瞳からはなにも窺い知ることはできなかった。

 だがそんなことは知ったことではない。その質問の答えは、とっくに決まっている。

『お前なら絶対に王になれる! なぜならこの俺! 俺がお前に味方しているからだ!』

 先ほど言われた言葉を思い出し、苦笑を浮かべる。その態度を見て王子は首を傾げる。

「僕の知り合い、いや、友人が有言実行している奴でね。そいつに言われたのさ。僕は王になれると。だから僕は王にならなきゃいけないんだ。そいつのためにも。皆のためにも、ね」


 勝てるかどうかではない。勝つ。ただそれだけだ。

 皆が開いた道、皆が作った好機、これを逃して王様など、成れるものかよ。


「そうか。いい覚悟だ。これで決まりだな。ソート将軍、大臣。この決闘の立会いを頼む」

 それを受けた将軍は、城全体に響くような大きな声で、宣言した。

「我はウデン五剣公が一つ! ソート・エックレスなり!! これより行われる決闘に立会い、その正当性を証明する者なり!」

「我は盾(じゅん)公が一つ! ヤーラッド・カッツォオリなり!! 同じく此度の決闘に立会い。その正当性を証明するものなり!!」

 やれやれという風体でありながら、大臣も、その老体のどこから出ているのかという大声での決闘宣言。

「「告げる! これは神明決闘なり!」」

 その瞬間、俺と王子からステータスウインドウが現れ、互いの名前が映された。


「これにより、決闘は相成った。互いに頑張ろうぜ、リューク君」

「君は頑張らないほうが助かるのだが」

「そういうわけにはいかないな。あ、鞘は返すわ」

「それはありがたく受け取ろう」

 王子が笑いながら、やけにフレンドリーに話しかけてくる。その態度は余裕から来るものなのか。

「此度の決闘は中庭にて行う! これはこの国の行く末を決める重大な決闘だ!! この城に居るものは全員これを見届けよ!!」

 将軍の叫びが終わった。今闘っている者たちは全員、神明決闘を行う意味を正しく汲み取っているはずだ、彼我の差なく争うことを止め、中庭へと集まることだろう。これでこれ以上の無益な戦いを止めることが出来たはずだ。これだけでも、決闘宣言した意味はあるな。


「ならば行こう。この戦いの最後の舞台へ。この国の次世代を決める、最初の舞台へ」

「なかなか詩人だな。リュークの次の職業は決まったも同然だな」

「抜かせ」

 吐き捨て、足を動かす。

 まるで友人のような気軽な応酬を繰り広げて、中庭へと僕たちは向かった。



 王城の中庭。

 この国で最も尊き者が住むべき場所ゆえ、その中庭もまた荘厳であったと記憶している。

 庭師による丁寧な手入れのおかげか、季節ごとの草花が、色とりどりと華やいでいて、それも無造作に植えているのではなく、その配置すらも計算されつくしていた。

 自然そのものでありながら、人工物のように整えられているその花圃は、僕の乏しい美的感覚ですら、何かを感じずにはいられなかった。


 そんな中庭の一部に、ぽっかりと開いた場所があった。曰く貴族方のお茶会やら花の鑑賞会やら鑑賞会立食パーティやら、とにかく何か催し物があった時、その開催場所で選ばれるのがこの広場、とのこと。


 そして今から開かれるのは、神へと捧げる、とっておきの催し物。

 国の次代の担い手を決めるべく、たった二人による、調べなき神楽。

 見物人は、広場を囲うように集った人々と、姿見せぬ神。


 将軍たちの号令を聞いて、城に居たほぼすべての人々がこの広場に集まっているのだろう。パーティを開くため広く取られている広場の大半が埋まっている。

 さまざまな感情の色が乗ったざわめきが、美しい中庭には不釣り合いに響いている。


 到着した僕たちを見て、ざわめきが一瞬膨れ上がり、そして静まった。僕たちの道を開けるようにして、人の垣根が割かれた。

 

 囲まれた広場の中に入ると、人々がある部分を境にして分かれているのが分かった。

 王宮側には今夜運悪く城で勤めていた、メイドや執事、そして王家を守る近衛騎士たち。王子派の面子である。

 王城側には今夜僕たちと一蓮托生で城まで攻めてくれた、将軍旗下の兵士たち。僕の仲間たちだ。


 その彼らをそれぞれ背負うように、僕たちは対峙した。

 その間に立つのは、立ち会いを務めるソート将軍とヤーラッド大臣。

「先ほども述べたように、これより行われるのは神明決闘である!!」

 再び、将軍が城全体を揺らすほどの大声で、決闘の宣言をした。

「神に告げる! これは王位継承権保有者(クラウン・プリンス)同士の決闘であり、勝者の継承権が上位となることを約束願う!」

 続いて大臣の声が響く。

「両者はステータスの提示を」

 皆に見せるように、ステータスを表示した。

 普通は名前と年齢、出身をステータスに表示する。堅いところでは、そこに職(ジョブ)を追加する。

 ここでは、職(ジョブ)の代わりにある一つの項目を追加する。その項目こそ、固有(ユニーク)職である。

 固有(ユニーク)職の項目に記載されているそれこそ、王位継承権保有者。


※※※※※※※※※※ 

  名:ガーフ・レーベンス・ウーディニア

  歳:13

 出身:ウデン 

固有職(ユニークジョブ):|王位継承権保有者クラウン・プリンス(1)

※※※※※※※※※※


 当然それは僕の隣の王子にも記載されているものだった。


「本当に持ってるんだな。王位継承権保有者の固有職を」

「でないとここに立つ資格がないだろう?」

「それでもやっぱり驚くぜ。周りの反応見てみろよ」

 そう言われて周りを見ると、静まり返っていたはずの人々が再び騒ぎ出した。実際に市井の中から王位継承権保有者が現れると、このような反応もするのだろう。


 将軍の一喝が飛び、広場は再び静寂を取り戻した。

「これより決闘が始まるが、それ以前に我々もしくは神に何か申し立てることはあるか!?」

 僕は後ろを振り向き、手を広げ、伝える。

「今、僕の後ろに立つ彼ら。本日僕と共に城へと攻め上った全ての者たちの、決闘中における一切合切の身の安全の保障をお願い奉ります」

「ならば私も同様に、本日この城に住まいし者全ての身命を御守り頂きたく願い奉ります」

 王子もまた、神へ宣言した。

 それを宣言すると、一瞬、周囲の人々が薄い光のベールに包まれたような気がした。

 これが噂に聞く、神の御髪(ヴェール)と呼ばれる結界か。いかな魔術でも貫通することができない、神秘の結界。

 これでこの場にいる人々は、手出しすることもされることもない。決闘中の身の安全が確保されたということになる。

 ここから先は完全に、僕一人の力のみが頼りだ。


「他に申し立てることはないか?」

 大臣が最後の確認を取ってくる。

 僕も、王子も、頷く。

 それに伴って、俺たちのステータスが消失した。

 代わりに、広場の空中に、ステータスを映すものと同じ透明な板のようなものが浮かび上がった。


 天啓板(トップページ)。

 頭上の板に書かれているものは、決闘当事者の名前と、立会人の名前、賭けの対象、そしてカウントダウン。

 

 このカウントダウンが零になったとき、決闘が始まる。

「ではこれにて決闘の儀の準備は全て完了した。両者距離を取り、神の意思に従い、闘うのだ!」


 距離を取り、互いに睨み付ける僕たち。

 進むカウントダウンの最中、広場は静寂に包まれて、誰かが一声かける、というものは存在しなかった。

 将軍や大臣は中立の立場として立っているし、ことさら仲が良い人間というものもいないので、声が掛かるはずもなかったが、それは向こうも同じだったのか、苦笑を浮かべている。


 進むカウントを見て、今更ながら心臓が早くなり、冷や汗を掻き、手が震えてきた。

 誰の横やりもないということは、誰の手助けもないということ。

 先ほどから、己一人の力が頼りだと分かっていたはずなのに。

 分かっていても自覚が足りなかったのかもしれない。エイナに言われたからと調子に乗っていたのかもしれない。ただ担がれているだけなのかもしれない。

 ここから先を見据えて選んだ行動のはずなのに、それでも怯えてしまっている。

 選んだ行動に疑問を持ち、自信が持てない僕が王になってもいいのか、などと、この段になって考えてしまう自分が居る。

 決闘を前に迫る不安、疑問、恐怖。それらに侵され、地に足がつかなくなっている。


 カウントが進み、緊張が張り詰め、誰も声を出すものなどいないだろう。

「頑張って兄様! 負けないで!」

 全員がそう思っていた時、後ろから声が掛かった。

 重苦しい空気の中。誰であっても声を出すどころか息のするのすら難しいこの場にあって、まだ幼いベルが声を掛けてくれた。

 エイナにはよくいじられているが、賢い子だから、この場を包む空気は当然のように察知していることだろう。

 それでも、思考の坩堝に囚われてた僕を助けるため、自分の不安や恐怖を押し殺して、僕の応援をしてくれたのだ。

 僕より幼い妹だというのに、それらに打ち勝つ強さが、この子にはあるのだ。


「ふふっ」

 やれやれ、僕の周りの子供たちは、僕より凄い奴ばかりだな。

 ただ、このままというのは、癪にさわる。


「大丈夫だベルベット。僕は必ず、王様になる」


 震えも恐怖も収まった。思考もクリアになっていく。

 ならば、まずは玉座とこの国をもらおう。

 大言壮語? それが何だというのだ。

 それぐらいでなければ、エイナやベルに置いてけぼりを食らってしまう。

 それだけは、御免被るからな。



 十--互い、剣を抜き放つ。


 九--集中し、精神を研ぎ澄ます。


 八--思い浮かべるのは皆の顔。


 七--背負っている者たちの姿。


 六--付いてきてくれた兵士の皆。


 五--ソート将軍


 四--ベルベット。


 三--エイナ。


 二--そしてついに。

 

 一--カウントが


 零--止まった。


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