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忍者、異世界に行く  作者: 和尚
忍者、出会う
11/44

忍者、脱獄幇助する

「逃げろォォーーーッ!! 火事だあァァーーーッ!!!」

 値段の安さに比例して、劣悪な環境を提供していた王都一安い宿屋から火事が起こっている。

「おーおー。よく燃えてるな」

「よく燃やしたの間違いでしょ」

「残念! 着火したのはお前の兄貴でしたー!」

「アンタが指示したからでしょうが!」

「二人とも静かに。早く移動するんだ」

「そーだそーだ。まったくこれだからベルは」

「あ、アンタねぇ……!」

「し・ず・か・に」

「「はい」」

 流石に緊張感無さすぎか。

「でも、宿の人たち大丈夫かな?」

「一応逃げ道あるように火を着けたし、あらかじめ宿の内外周辺にベルの魔術で水を撒いておいたし、そこまで大事にならないだろ」

「すでに十分な大事だと思うがな」

「俺の故郷にこんな言葉がある。『火事とステゴロは首都に咲く満開の花』という言葉が」

「語呂わるっ」

「血の気が多すぎるだろう。大丈夫か君の故郷は」

「そうだなぁ。一言で言えば火の車だな」

「「駄目じゃん」」

 大丈夫大丈夫。台所(けいざい)だけだから。いずれ家(くに)全体が駄目になるかもしんないけど。

「取りあえずこの騒ぎに乗じて、さっさとその将軍とやらが捕まってる刑務所に行こうぜ」



 王都に来たことがあるリュークを先頭にして、俺たちは一行はソート将軍とやらが収容されている監獄へと向かっている。何もせずそのまま向かっていたら王都内にいる刺客たちが黙っていなかっただろうから、目くらましとして使わせてもらったのがこの火事だ

 火事のおかげで宿屋周辺は、火事から逃れる人波、火事を見に来た野次馬たちの壁、消火しようとする善意の方々など様々な人の流れがある。

 その人という網に刺客たちが引っかかってる隙に、子供の俺たちはその人々の隙間を縫って目的地へと一路向かっていく。

 目的地は軍部や政治的に地位がある人間が収容される監獄、『ウーディア特殊収容所』だ。



 殺人などを犯した凶悪犯は、王都から遠く離れた収容所という名の鉱山地帯などで働かされ、スリなどの軽犯罪者などは街を警邏している衛士の元で懲罰(イジメ)を受けてのち解放される。

 しかし立場ある人間はそのような簡単にはいかず、また粗雑には扱えないため王都内にあるこの特殊収容所に投獄されることとなる。貴人専用の監獄だ。

 監獄であるため壁に囲まれてはいるが、カレスの街を囲っている壁よりは低く、また監獄といっても貴人専用で、それ以上の風評被害などを恐れて滅多なことはしないと考えられているため、兵の職務としての優先度は低く、火事などがある際にはそちらの対処のほうが優先されることとなっている。

「つまりは現在この監獄に居る兵の数は最低限となっているわけだな」

「お、降ろして」

「既に道半ばを超えてんだから、降りるより登っていくほうが早いぞ~?」

 さりとて流石に門には番兵が立っているため、そこからの侵入は難しい。

 そのため、壁を登っている侵入しているわけだ。

「……ロープを準備していたから、それを使って登るものだとばかり思っていたのだが」

「ロープなら使ってんじゃん」

 ロープは隙間を作らない様に、俺と兄妹の身体とに巻きついて固定している。

「あ、アンタが先に登って垂らしてくるものだと思ってたの、っひぃ!」

「い、今爪が外れなかったか?」

「うん、怖がらせようと思って」

「やめなさいよぉおおー!」

「怖いから止めてくれ! 本気で」

「俺の爪はそんな脆くないからだいじょぶだいじょぶ」

 何故この兄妹がそこまで怯えているのか。それは壁の登り方にある。

 そう、今俺は己の両手足にある爪を、壁に突き刺して登っているのだ。

 前世で読んだ『ダレダレ・シャン』という作品で、主人公の師匠が確かこのような方法で壁を登っていたのを思い出して、それを今回実践した形だ。

 頑丈な獣人の爪を操作して伸ばし、壁に突き刺し、身体を引き上げる。これを繰り返して、壁の頂上まで向かっていく。

 貴人専用であるため、暗殺者といった外部からの侵入者の方に気を回しているのだろう。壁はネズミ返しの要領で僅かに反り返っており、容易に侵入できないようにしているが、爪で壁を掴むように登っている俺にはさほど問題なく、むしろ壁の上に居る兵士から俺たちを隠してくれている。

 ちなみに兄妹は俺と背中合わせのようにして縛っているため、万が一街の人間に見つからないように、黒い布を垂らしてくれている。まぁそのせいで前ではなく下ばかり見るようになっちまったんだがな。



 音を頼りに兵士の不在を確認して、一気によじ登る。

「よっこいしょっと」

「し、死ぬかと思ったわ」

「右に同じ。今度からは先に言っててくれ。次はいらないがな」

「お前ら大袈裟すぎだって。そんなじゃこの先やっていけないぞー?」

 特段見つかることもなく、登頂に成功した。少しばかり俺の体力と兄妹のメンタルを消耗してしまったが、この後の行動に支障は来たさないだろう。

 しかし問題はここからだ。監獄内の見取り図はなく、将軍がどこに囚われているのかも分からないのだから。本来ならもっと時間を掛けて調査をするべきだったのだろうが、命を狙われている状況で悠長に調べものをしている訳にもいかない。向こうがこちらへの対応を考えている、つまり後手に回っている今が最もな狙い目なのだ。

「さて、どうやって探そうかねぇ? 虱潰しに行くってのも時間が掛かって兵が集まってくるしな」

「大丈夫。手は考えてある」

 え? そうなの?

「将軍は将軍なだけあって実力は勿論高く、魔力や魔術に関しても一流と言っていい使い手だ」

 流石に弱かったら将軍にはなれなさそうだしな。

 ……魔術はまだまだ遠いからなぁ。いいなぁ魔術。

「この場合、この監獄の地下深い所に収容されているだろう」

「何でそうなるの?」

「壁が丈夫でないと魔術で破壊されるからだ」

 ……え? そんな理由?

「なんか、魔術を封じる枷とか、そういう結界とか、ないの?」

「ないな」

「え、えぇ~?」

「そんな便利な物あったら、戦争で魔術使いが役に立たなくなるじゃない。そんなのもわかんないのアンタ?」

「いや、逮捕とか、戦争での捕虜とかどうすんの?」

「気絶させればいいのでは?」

 スマートじゃねえなぁ……。

「尋問はどうすんだよ?」

「そこまでは知らんよ。さてとりあえず降りていくか」

「そうね。いきましょう」

 な、なんだかなぁ。異世界って言っても夢がないな。



 リュークの助言に従って、最下層目指して監獄の中を進んでいく。

 道が分からないのにどうやってとお思いだろうが、心配ご無用。

「ホント、どうして道が分かるのよ?」

「確かにな。小さな音を鳴らしているだけだろう?」

 残念。ただ音を鳴らしているわけではない。その音の反響音で構造を把握しているのだ。イルカやコウモリが使っている、いわゆるエコーロケーションというやつだ。これも前世での訓練の賜物である。

 しかも獣人となったおかげか、可聴域が広くなっているらしく、人間の可聴域外の音を使えば、他人に悟られる可能性は少なくなっている。

 当初は囚人の方々に道を教わりながら進もうと思っていたが、生憎とここは貴人専用の監獄。そもそもぶち込まれている貴人が少ないので、あえなくこの手法を取った。俺が居て良かったねお前ら。


「あ、見回りの人間が居るな。こっちに来るぞ」

「え? ど、どうするのよ?」

「隠れる場所はないし、強引に排除するか」

「お前らマジで血の気多いな。ちょっと待ってろ」

 懐から金属製の針を取りだし、牢屋の鍵穴に突っ込む。瞬時に内部構造を把握し、二、三秒も経たないうちに解錠を完了させる。全員でその牢屋の中に入り込み、鍵を掛ける。

 お貴族様が文句を言わないためか、中は机とベッドは勿論、クローゼットと個室のトイレがついていた。正直囚人に与えるものではない内装だろう。

 まあそのおかげで、そのトイレやクローゼットに身を隠すことが出来たわけだが。

「ふう。やり過ごしたか」

「助かったけど、アンタって泥棒だったの?」

「なんでそうなる」

「見事な鍵開けだったと思うのだが」

「なぁに。嗜みの一つよ」

「どこの世界にそんな嗜みがあるってのよ」

 どこって言われたら、元の世界としか言えんわなぁ。


 このように時々見回りの兵士が居たが、どうにかこうにかやり過ごし、とんとん拍子で進んでいき、ついには最下層にまで到達していった。

 下に行くにつれて壁は厚く、房の数は減っていき、最下層にはついに房がただ一つのみとなっていた。降りるにつれて強くなっていた人間の臭いは、その房から漂ってきている。

「将軍、いる?」

「暗くて分からんな」

「ああ、いるぞ。誰かは知らんが」

 暗くとも、獣人の目には人のシルエットが映っている。明かりこそ点いておらず詳細は不明であるが、しかし発せられる気配はまさしく人を従えるものである。その気配が何より雄弁に、その人物を物語っていた。

「誰だ? そこに居るのは」

 声が聞こえたのか。気配を察したのか。とにかく俺たちの存在に気付いたようだ。

 ベルは体を竦ませた。声は低く小さく、されど威圧するような力強さを含んでおり、その声に押さえつけられた形である。確かに殺気やらを含んではいるが、お前も知り合いじゃないの?

 一応小声で聞いてみよう。

「なんとかって将軍と違うのか?」

「い、いや、そう、だけど。いつもと感じが違って、ね」

「そりゃ捕まって気が立ってるだけだろ。気にするな」

「う、うん」

 とまあ俺たちがそんなやり取りをしている間に、声に動じなかったリュークが近寄って将軍と話をしている。

「無事だったのですな。リューク様!」

「迷惑かけましたソート将軍。どうにかしぶとく生き残っております」

 リュークだと気付いた将軍は、声から険を取り、明かりをつけた。


「わっ! 目、光ってるわよ!?」

「……ああ、気にすんな。自然現象? 生理現象? とにかくそういうもんだ」

「なんか、猫みたいね」

 つか、まんま猫なんだろな。俺の目。


 明かりが点いたことによって、将軍の姿がはっきりと映しだされた。

 ぱっと見の年齢は四十代半ば。短く刈り上げられた髪と牢獄生活で伸びた無精髭は、それぞれ清潔感と不潔感という相反する印象を与える。その節が立っている体は軍人そのもので、獄中生活でも些かの衰えも感じさせないものであった。されど声の張りや立ち振る舞いは堂々としており、これぞ将軍と言えるものである。

 将軍にふさわしき格を持ち、その地位を守るだけの武も保有しているのだろう。

 が、しかし、武人として感じる力は正直。

「ジンさんより下だな」

「ジンさん? そういえば奴は、ジントレールはどうしました?」

 俺の呟きに耳聡く反応した将軍。あれ? ジンさん知っている?

「誰ですか? そのジントレールとは?」

「何を言っておるのですか。カレスの街に行ったのではないのですか?」

「はい。将軍に何かあればカレスの街まで逃げこめという、貴方の言いつけどおりに」

「その時に門番にソートールと名乗って街に入ったのでは?」

「いえ、色々ありまして、街には不法侵入という形で」

「おお、なんということだ……。よくぞ、よくぞご無事でしたリューク様」

 なんか話の雲行きが怪しいぞ。鍵が複雑でそれが複数あるので、取りあえず解錠しながら話を聞いてみよう。

「ジンさんとは知り合いだったのですか?」

「ああ、奴とは同期でな。よく戦場を共にしておったよ。奴の武勇はそれは凄まじく、槍の使い手としては今世並ぶものなしと言われておったほど。儂でも勝ちを拾うのが難しい、間違いなく我が国最強の兵(つわもの)だ。上に立つのは好かん、とか言ってカレスの街で新兵を指導している変人でもあるが」

「ほうほう」

 わおっ。やっぱあのジイさん只者じゃなかったのか。良かった。あれがこの世界の平均とかじゃなくて。

「先ほどのソートールは何かの暗号ですか?」

「そうだ。どちらかで困ったことがあって、救援が欲しいときに使うと決めておった言葉だ。まさか本当に使う機会があるとは思わなかったがの」

 ……しまったっぁぁぁ!! 巻き込まない様にジンさん達に何も言わなかったのに、巻き込むこと前提だったとは! つかそういうのは言っとけよリュークさんよぉぉ!

 


「ところで……お主誰だ?」

 俺が一人、心中で悶え叫んでいると、将軍が胡乱気にこちらを訪ねてきた。小声で「盗賊か何かか?」と零しているが、なんとも失礼な言いぐさである。あるが、俺がしてたのが鍵開けである以上仕方がないのかもしれない。

「将軍。彼の名はエイナ。暗殺者の魔手から我々を助け、王都まで連れてきてくれた者です」

「ほう。こやつが……」

 将軍が目を見開き、今度はこちらへの警戒を乗せて見据えてくる。身悶えが収まり、自然と気が引き締まる。背筋がぞくぞくするね。

「ご紹介に預かりました。エイナと申します。以後よろしく」

「……リューク様を助けていただき感謝する。ジントレールとは知り合いなのかな?」

 これは疑われているな。外見は子供だが、間諜ならやれるだろうし。ただここまで来た理由が分からないのだろうな。リュークを殺すのが優先順位第一位なのだから、ここまで生かす理由がない。それだけで敵さんとは繋がってないと考えていいはずなんだが。

 とりあえず質問には答えよう。

「ええ、バイト、じゃなくて仕事先の上司です」

「そうか、では何故助けを求めなかった? 奴は頼りにならんかったか?」

「んー、頼りにならないわけじゃなかったんですよ。ただ……」

「ただ?」

「怖かったんですよね」

 将軍、だけでなく皆が視線で問いかけてくる。どういうことだ、と。

 解錠を終えた扉を開け、答える。

「味方なら自分の知る限り、これ以上ないほどの援軍だと思います。ただもし敵に回られたら最悪の存在になります。自分が死ぬかもしれないほど強い、恐ろしい相手、という意味です。正直、倒すのに苦労するでしょう。ならば端から味方にも敵にもしないようにするのが--」

「--ふ、ふふ、はっははははは!」

 俺が話している最中、急に笑い出した将軍。今度は将軍を皆が怪訝な顔で見ている。てか声でかい。兵士に気づかれるわ。つか何で笑ってんのさ?

「っく、くく。いや済まぬ。ツボに入ってしまったわ」

「そりゃいいすんけど、なにが原因か聞いてもいいすか」

「言葉が雑になっとるぞ小童(こわっぱ)。なにが面白いのか、か。先ほど言っただろう。奴はこの国最強の兵だと」

 それはさっき聞いたっちゅうねん。

「ええ。聞きましたが、それが何か?」

 リュークにも分かってないようだな。

「さっき小童が言ったことを思い出してください、リューク様。こやつはジントレールをどう評しましたか?」

「どうと言っても、恐い相手としか……」

 そうだ。それしか--。

「--あとは、余裕で勝てる相手ってことぐらいかしら? 兄さん」

「「え?」」

「え?」

 ベル、お前何言ってんだ? 耳と頭が悪すぎるだろう?

「些か誇張ではありますが、その通りでございます。ベルベット様」

 房から出てきた将軍が、まさにニヤリという表現が正しいような笑みを持って答えた。

 え? 俺一言も言ってないよ? この世界独特の表現があったのか?

「ベル、どういう意味だ? お前と将軍にしか聞こえてないゴーストウィスパー的なものがあったんじゃないのか?」

「それこそどういう意味よ。アンタが言ったんじゃない。倒すのに苦労する相手って」

「言ったけどそれがどうした?」

「どうしたって。それってつまり、『最強の兵士が相手でも、苦労すれば勝てる』ってことなんじゃないの?」

「「……あ!」」

 まだ分かってないような俺とリュークのために、ベルが懇切丁寧に説明してくれた。確かに字面だけ取ればそうなる、な。

 ただ別に意図して言ったわけではない、思ったことをそのまま口に出しただけ、と伝えたが。

「つまり小童は素で奴に勝てると思っておるというのか。尚更余裕があるではないか」

 と反論されてしまった。


「まあ、笑いのツボでもあったが、その一言でお主を信用してみようと思ったわけだ。この国のことを少しでも知っている奴なら、ジントレールの強さは知っている。お主も奴のことは知っておったのだろう。それでも尚そのような大言壮語を、気負いも衒(てら)いもなく吐けるのだ。向こうの刺客なら、間違ってもそんな馬鹿なことは言わんし、送り込まんだろう。つまりお主は向こうとは無関係な馬鹿か大物のどちらかだと思ったというわけだ」

 なるほどな。バカは送り込まないし、それを有言実行できる実力者なら、将軍の暴走を抑える役目が与えられるだろう。国最強とか言われている人間に勝てる奴は少ないだろうが。俺? そりゃ勿論後者だよ。

「まあ理由はどうあれ信頼してもらったところで、ここからの計画を話し合おう」

「そうだな、外の火災もそろそろ鎮火しているころだろう。時間はあまりないぞ」

「ここからが正念場、よね」

「その通りですベルベット様。されど何か考えはお持ちなのでしょうか?」

 将軍には宿であらかじめ話し合ってたことを伝えた。それを聞くとあまり良い表情をしなかった。賛同しかねるようだが、これが現状最も勝算がある策である。

 それを分かっているのか、将軍も最終的には賛同の意を示してくれた。

 あとは実行するのみ。



「おい、貴様ら何をしている!」

 計画が完全に煮詰まったところで、看守を務める兵士たちに見つかってしまった。

 だが、ここからはもう、コソコソする必要はない。

「そこをどけい木端ども! 道を開けよ!!」

 将軍の一喝によって、兵士が直立不動の姿勢を取る。

 その傍を通り過ぎて、振り返ることはない。ここにはもう用はないからだ


 あとはただひたすらに、王宮を目指すのみ。



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