伝令・3
悩み無言になったラルフに、一石を投じたのはタイトだった。
「……どうしても行かなきゃいけないんだよね」
マルクとカルタス、そしてラルフは彼の方を向いた。王子は小さく震えながらも気丈に唇を引き締める。
「だったら僕は行くよ。ラルフさん、お願いします。僕達の国を守るために力を貸してください」
「王子……」
以前、一緒に戦いますよと励ましただけに、王子に頭を下げられては断る文句が思いつかなかった。
「……分かりました。全力でお守りします。で、出発はいつですか?」
うなだれるような気持ちで問いかけると、マルクとカルタスは顔を見合わせた。
「別働隊は軍本部のブラックウェル第二部隊長が少数精鋭を率いてやって来ます。私が出るときに人員を集めていたので、そろそろ出発できる頃でしょう。王子ご一行は明日には北上していただき、途中の村で合流していただくことになります。私も途中まで一緒に行き、合流のお手伝いをさせていただきます」
「明日か」
急な話だが仕方ない。
何より、王子を警護する役目となれば、村の護衛より重要であることは間違いない。
「わかりました。タクミにも話してみます。王子のご身分を明かすことになりますがよろしいですね?」
「もちろん。警護を頼むとなっては隠していても仕方ない」
「では、出発は明日。本日は旅の準備を始めます」
ラルフは頭を下げ、宿屋から出た。
その後は慌ただしかった。
マルクはカルタスと王子の馬の手配に走り、カルタスはなまった体を立て直すべく訓練を始めては医者に叱られていた。驚くべきは、足の動き以外は少しも衰えていないことだ。騎乗して戦っている分にはラルフよりもずっと戦力になるだろう。
ラルフは、コルトとタクミ、セシルを集め今後の相談をしていた。
「……という訳なんだ」
コルトはヒュウと口笛をふき、タクミはセシルは顔を見合わせた後アワアワと口をおさえる。
「タイトが王子……って、やばいっす。俺、スゲー失礼なことばかりしてるっす」
「そういうのは王子も気にしていないから大丈夫だよ。元々お忍びで出てきているんだし、気付かれたほうがマズイんだから」
「でも、でもっ……」
タクミとしては、王族に馴れ馴れしい態度をとった自分が信じられないようだ。一人で頭を抱えて地面に突っ伏している。
「で、警護に俺ともう一人必要なんだ。タクミにお願いしようと思うんだが」
「俺ですかぁ?」
明らかに腰が引けている。そんなにビビることないだろう。
「セシルはコルト不在の間の、弓隊の指揮を頼みたい」
セシルに無理難題は言っていないはずなのに、彼女は珍しく不満を表にした。
「……残るのは自分でなければダメなんですか? 自分がラルフ先輩と行く選択肢は?」
「ないことないけど。でも今回は確実に戦闘になる。危険が伴うからな」
「自分は戦えますが。自分が女だからですか? ラルフ先輩がそういう差別をするとは思っていませんでした」
「いや待て。そういう意味じゃなく」
責めるような口調にラルフはたじろぐ。確かに、軍にまで所属していた人間を相手に危ないという言い方は失礼だった。
「もちろん、セシルの腕も信用してる。どちらがついてくるかはじゃあ二人で決めてくれ」
選択権を与えられ、セシルはタクミを引っ張り何事か耳打ちする。そうして二人が出した結論は、タクミが村に残りセシルがラルフとともに王子の警護をする、というものだった。
「じゃあ、準備を頼む。出発は急な話だが明日だ」
「はい」
セシルは元気に返事をすると「ではさっそく」と立ち上がり市場の方へと向かっていった。
残ったタクミに「どういう相談したんだ?」と尋ねると、タクミはちらりとコルトを見やり、申し訳無さそうに呟いた。
「コルト先輩と残るのはうるさそうだから嫌だって……」
「……あんにゃろう。じゃあ行く前にうるさくしてやる」
コルトは顔をしかめてセシルの後を追い、ラルフは「そんな理由かよ」と溜息をついた。




