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伝令・2

 外にでると、先ほどの伝令が佇んでいた。


「どうも」

「村で休んでいかれるんですか?」

「ええまあ」


 伝令は微笑んで再び壁により掛かる。


「じゃあ俺は訓練の方見てくるな」

「ああ。俺は一度医者に寄ってくる」


 腕の怪我の治療のため現在訓練はコルトに任せきりにしている。ラルフは治療後、雑務をこなす予定だった。コルトがあっという間に走って行き、ラルフも歩き出そうとすると、先ほどの伝令が近づいてきた。


「あなたがラルフ殿ですね?」


 と念を押すように尋ねる。


「はあ」

「王よりカルタス殿への伝言を預かっているのです。ご案内頂けますか」

「……はあ」


 なぜ自分の名前を知っているのか、という疑問にとらわれて間抜けな声が出た。

 伝令はラルフの疑念に気づいたのか小さく笑う。


「失礼しました。先日カルタス殿から急ぎの文が届きまして、身動きが取れないのでラルフ殿を仲介しろと言われていたのです。ラルフ殿ならば、村長への報告の席にも同席するだろうから、と」

「そうでしたか。では」


 確かに、伝令が来たことは身分を隠し、身動きも取れないカルタスには伝わらないだろう。それで俺か、と腑に落ちる。よく気がつくことだ、と若干閉口さえした。


「今回の作戦もカルタス殿の手紙を受けてのものなのです」

「へぇ?」

「長引く戦乱を逆手に取る、という発想は素晴らしいと思いませんか」

「ああ。……そうですね」


 どうやらこの伝令は相当カルタスに心酔しているようだ。彼の話となると途端に饒舌になる。


 あまりに興奮されると何故か居心地が悪い。ラルフはマルクという名の伝令を宿に案内し、「じゃあ俺はこれで」と早々に退散しようとした。


「まあ待てよ、ラルフにもいて欲しいんだ」

「俺に?」


 カルタスに引き止められ、ラルフは所在なげに壁に寄りかかった。


 マルクはといえば、足に包帯を巻いたカルタスを見て途端に落ち着きを失う。


「か、カルタス殿。その姿はどうっ……」

「手紙に書かなかったかな。この村が襲われた時にうっかり怪我をしてしまって」

「聞いておりませんよ! どうするんですか。護衛がこの調子では今回の作戦は成り立たない」

「作戦?」


 マルクは不思議そうに呟いたタイトを一瞥し、バツが悪そうに俯いた。


「……カルタス殿が提案した、補給路を断つ作戦。王はいたくそれをお気に召しまして、軍上層部と相談し、少数の精鋭部隊を送ることにしました。そして、途中でタクト王子殿下と合流してから攻め込めと」

「なんだって?」


 カルタスが眉を寄せ、タイトは不安気にカルタスを見つめた。


「どういうこと? 僕は何も聞いてないよ」

「失礼しました。最初からご説明致します」


 訝しむタイトに、マルクは一礼して話しだす。


「軍の主力は西支部からバナーに本拠地を移し、現在もバナー周辺で徹底抗戦を行っております。ここでカルゼン公国軍を足止めしている間に、西の森からくるの補給隊を殲滅させようという計画なのです。そして王は、その遊軍隊の指揮を王子とカルタスに任せるおつもりで、私はそれを伝えに来たのです。もし成功すれば、王子殿下は一気に英雄の名で呼ばれるでしょう」

「なっ……」


 言葉を失くしたタイトを横目に、ラルフは内心で頷く。

 内向的で評判の良くなかった王子を、戦争終結の英雄へと祭り上げるというのは、確かに国の今後を考えれば賢い手段だ。まして、王子本人も国のために働こうという意識が生まれたばかりである。


「カルタスの警護の腕を見込んでのことです。しかしあなたがこの状態では、王子をそんな危険な立ち位置に置くわけに行かなくなる」


 舌打ちでもでそうな勢いでマルクがまくし立てる。タイトは急に自分に与えられた役目の重さに顔を青くし、カルタスはそんな彼を見て歯噛みする。


「別にここで王子を祭り上げる必要は無いんじゃないか? ようやく前向きになったばかりだ。これから先、幾らでも……」

「王子は本来ならば政治に参加しても良い御年です。王は……この好機を逃す手はないとおっしゃられております」

「それはそうだが」


 沈痛な面持ちで話しだす三人を前に、ラルフは逃げるわけにも行かずただ無言を通す。


 カルタスは自らの腿を叱咤するように叩き、痛みに顔を歪める。動けないわけでは無いだろうが、以前のような鋭さは求めるべくもない。カルタスは口元を抑えしばらく考えたかと思うと、ラルフに向き直った。


「ラルフ、君とタクミ君にタイトの護衛を頼めないか?」

「え?」


 突然自分の方にふられて、ラルフは心臓が裏返ったような気分だ。


「いや、俺は軍を脱走した身だし、そんなこと無理だよ」

「しかし、俺見ていた中ではこの村では君が一番腕が立つし、戦闘に対して尻込みもしない。まだ怪我が完治はしてないようだが、もう一人いるなら大丈夫だろう。もちろん俺も一緒に行くし、軍へのとりなしなら俺がちゃんとしてやる。この村の警護ならコルトが居ればなんとかなるだろう」

「なんとかって……」


 確かにあの後不穏な動きは収まりつつある。避難民の流入もある程度落ち着いてきているし、志願兵たちもやる気を出してくれているから村の警護に関して二人抜けた程度では支障は無いだろう。



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