カスタ村での生活・1
一晩を寝ずに過ごしたラルフは、本日の見張り当番である二人組がやって来たところで、伝達事項を伝えて交代した。
昨晩は特に避難民がやってくることもなく静かな夜だった。戦地は西の合戦場に移っているというし、やってくる避難民も一気に減ったところを見ると、カルゼン公国の一般の村への侵攻はひとまず終局したのかもしれない。
安易な見方ばかりは出来ないが、経験不足の身で村の警護を任されたラルフにとってはそのほうが有り難い。
ラルフは伸びをして、避難所の方へと歩いた。まだ朝食の時間ではないが、余っているパンでもあればもらってすぐ寝たいところだ。
歩き出した途端に響いたのは口笛の音。方角的には村の北はずれの方からするようだ。まだ明け切らない朝を一気に切り裂くような鋭さを持ったその音は前にも聞いたことがある。セシルが鳥寄せをする音だ。
ラルフは口笛の音のなる方へ一瞬足を向けたが、躊躇した後向きを変えた。鳥寄せをする時のセシルは、普段誰にも見せない素の姿に戻っているような印象がある。それを覗き見するのは、まるで裸を覗いているような気恥ずかしさがあった。
口笛の鳴る辺りを覗いて、見まわりがてら軽く村を一周していると同じく見張りの交代を終えたコルトと鉢合わせた。
「ラルフも終わったか?」
「ああ。軽く飯食って仮眠を取らないとな。午後からは訓練だ」
「うっわぁ、ハードスケジュール」
「軍よりキツイかもな」
笑い事では無いのだが、人員不足である以上は仕方がない。敵が来ないと楽天的に構えて警備を怠ればいつかしっぺ返しが来る。落ち着いている今のうちにある程度、防備を整えなければ。
避難所まで戻ると、起き出してきた女性陣が調理場に集まってきているところだった。
「おはよう、ラルフ。ねぇ、中を見てよ。快適になったよ」
シーナは再び元気な様子に戻っている。けれど、昨晩の事を考えたら空元気だと思うのが妥当だろう。
言われるがまま避難所を覗くと、天井に紐を張り、布で区画が仕切られていた。布一枚一枚に番号が書かれている。
「プライベートも維持できないと、精神的に参るからって村長の奥さんが」
「これはいいな。思えば男女も混ざっているんだから、最初から考えなきゃいけなかったんだよな」
「ね、思いつかなかったよね。私達のトコは七番だからね」
シーナはそう言い置くと、調理場の方へ戻っていった。ラルフはコルトと一緒に避難所の中を巡回した。家族単位、もしくはご近所単位でのまとまりで仕切りが入れられている。
今現在、シーナの家族はラルフのみだ。ラルフは七番と書かれた白い布の前でゴクリと生唾を飲み込む。
この場合俺とシーナと同じ仕切りにふたりきりなのか?
「エロいこと考えてるだろー」
耳元にボソリと告げるのはコルトだ。ラルフは真っ赤になって反論しようとするが、ニヤニヤ笑いで見つめられると言葉が出てこない。
「そんなんじゃねぇよ」
「またまた、つか、考えるのフツーだし。相変わらずお固いなぁ、ラルフ」
「うるさい」
「とにかく寝ようぜぇ。俺もう無理」
コルトは七番の布を開けると、あっさりとそこに横になった。
「おい、お前はここなのか?」
「いーじゃん。どうせシーナは昼間は起きてるんだろ。俺だって疲れたし。ほらラルフ一緒に寝るぞ」
「一緒にって……」
スペース的には大人が三人程度は横になれるスペースがある。だがしかし、ここでコルトと並んで寝なきゃいけないのか?
直前の妄想が甘いモノだっただけに、現実の厳しさが身に沁みる。ラルフは泣く泣く横になり、シーナの残り香がコルトの汗と土の匂いに上書きされているのを悲しく見守った。
*
三時間の仮眠の後、目覚めたラルフはシーナの「食べなさい」攻撃にさらされ、腹が重くなるほどの朝食を食べた。
「村の人達にちゃんと回ってるのか、食料」
「大丈夫よ、それにラルフやコルトに倒れられると一番困るじゃないの。あなた達は優先的に多めに食べていいのよ。ねぇ」
「そうそう」
悪びれもせず頷くコルトは、既に茶碗を空にしている。
「起きたら二階に来てくださいって、グレオさんが言ってたわよ」
「わかった」
ラルフも最後の一口を飲み込み、口元を拭って立ち上がった。
「セシルとタクミは?」
「セシルは見てないけど、タクミくんは朝食後に弓使いの人たちを集めて村の外に出て行ったわ」
「外に」
「すぐ近くだって。村の中では危なくて練習できないからって」
「そうか」
タクミも自分なりに考えて動き出したわけだ。報告が一言欲しいところではあるが、タクミの成長は単純に嬉しい。
「俺達も午後は訓練だろ? 剣使うの久しぶりだしな」
「ああ。とにかく、グレオのところに行こう。シーナ、ごちそうさん」
「うん」
茶碗をシーナに渡し、ラルフとコルトは連れ立って調理場の二階へと向かった。




