蝶の膝1
私の部屋の障子が勢いよくいきなり開く。
プライベートが侵害されると言ったら大袈裟かもしれないが、こんな事は二度と起きるはずのないこと。
「お濃、入るぞ。」
障子を開けた本人はそう言ってから部屋に入ってきた。
彼が私の主張を尊重してくれて、努力してくれていることはわかる。
だが障子をあけてから「入る」と言ってもその言葉は意味がないのではないだろうか。
つい、口がため息をついた。
この前の私の主張を半分理解してくれていない。理解しようとしてくれていることは伝わる。進歩はしている。
どすどすと近づいてくる男を見ながら私は思った。
信長はどしんっと私の前に座って私をじっと見つめてきた。
一生懸命に見つめてくる。
私は居心地の悪さを感じだした。
何か話しがあってきたのではないのだろうか?
なのに私をみるだけ。
居心地が、悪い。
私は左に目をそらした。
そうすると一つ考えが浮かんだ。
あちらが何か話さないのならこちらが話せばいい。
先手必勝と私は動転したように言葉を発した。
「殿、部屋に入ってからでは『入る』という言葉は何の意味もありませぬ。」
なるべく動揺を見せないように私は努めた。
ちらっと信長を見た。
彼はまだ私を見ていて私は綺麗に目があってしまった。
もう一度私は目をそらした。
気のせいかじりじりと信長が近づいてきている気がする。
私は気のせいかじりじりと後ろへさがっている気がする。
「何故後ろへ下がる。」
信長は私に聞いた。
「殿が近付くからです。」
私は心を落ち着かせながら言った。
「お濃は人が近付くと逃げるのか。」
「そういう訳ではありませぬ。」
「実際、今逃げておる。」
「……えっと……。」
私は目をそらしたまま膝で一歩分前にでた。
「殿、今日はなにゆえのお越しにございますか?」
あのままでは私のほうがぶが悪いと思い。私は話を変えた。
「そうであった。膝を貸せ。」
予想外な言葉に一瞬私は自分の言われた事が分からなかった。
信長に視線を戻す。
「はい?」
目が合う前にに信長は私の視界の中で移動を始めた。
「殿、膝とは……!殿!」
混乱した私は彼にどういう意味なのか聞き返した。
しかし時すでに遅し、信長は私の膝に頭を乗せた。
私は突然のことに焦った。
否定の言葉より早く膝に重みがかかった。
私は両手を信長の頭の上で迷わせた。
膝にのせていた手は置場を失ったのだ。
膝を信長に『貸している』から。
「と、殿!」
彼は返事をしない。
右手で戸惑いながらも肩を揺らしてみた。
反応はない。
「のっ、信長様!」
やはり反応はない。
逆に目をつぶって寝ているようにも見える。
私は困り果てて椿を見た。
椿は私と視線が合うと綺麗にお辞儀をして部屋から出ていく。
「ちょっ、ちょっと!」
つい膝を立てようとしたら膝に乗った重みを思いだす。
私は立つに立てない状態になってしまった。




