尾張の姫2
きりがいいので、今回は短めです。
「お姉様って優しくお笑いになるのね。」
嬉しそうに市は言う。
「蝮の娘と聞いて実は怖い方が来られたらどうしようって、不安だったの。でもお姉様は怖い方ではないみたい。私と仲良くしましょうね。」
市は強気そうな瞳を細めた。
「もちろん、こちらこそよろしくお願いします。こちらの事で分からない事など聞いてもよろしいかしら。」
私がいうと市は顔を近付けて言った。
「もちろん!なんでも聞いてください!」
あんまり嬉しそうにそう言うから私はまた笑ってしまった。
「そうだ!お姉様、早く行きましょう!」
市はすっと立ち上がり私の打ち掛けを引っ張った。
私はいきなりのことにびっくりしながらも市に従った。
「どこへ行かれるのです?」
私は私を引っ張る小さい体に問い掛けた。
すると市は一度私の打ち掛けから手を離し引っ張るのをやめてこちらを振り返った。
「遊びに行くのです。お姉様は外はお嫌いですか?」
けろっとした顔で市は言った。
私は目線を市に合わせるために中腰になった。
「それなら侍女が帰ってきてからのほうが……」
私の言葉に被せて市は言った。
「それでは侍女を部屋から追い出した意味がありませぬ。侍女はうるさいのです。あれはだめ、これはだめ。それでは楽しい事も楽しく無くなってしまいます。」
「お姉様は私と二人は嫌ですか!?」
そんなことはない。だけど侍女が私達を慌てて捜すかもしれない。
侍女は慌てるだろう。それはかわいそうだ。
だがこの子はただ純粋に遊びたいだけなのだと思う。
幼いときは寝ることと遊ぶことこそ子供の仕事だと思う。
その遊ぶことを駄目だと横から言われ制限されることがいやなのだろう。
なんとなくそのきもちがわかる。
私も、父のやりたいことの許可をもらえないのは嫌だった。
だから私はこくんと頷いた。
「では行きましょう、口うるさい侍女がこぬうちに。」
私がそう言うと市はぱあっと笑顔を咲かせた。
「はい!行きましょう!」
そっと市は私の手を掴んだ。
市を見ると彼女はにっこり笑って静かに人差し指を口にあてた。
その動作が妙に子供っぽくて私は笑った。
そして返事のかわりに私も人差し指を口にゆっくりあてた。
私が立ち上がると合図通り静かに二人で歩き出した。
だけどどこからか込み上げてくる笑いがあった。
二人してその笑いを堪えながら歩いた。
長い廊下はとても短く感じた。
侍女にはきっと怒られるだろう。
だけど好奇心のほうが勝った。
市には不思議な魅力があると私は思った。
その魅力が後にどれほど歴史を動かすのか。
帰蝶はもちろん、誰も知るはずはなかった。
次回は10月2日の16時に予約投稿しています。




