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蝮の娘5

29日も16時に予定掲載しています。

尾張に来てから、怖かったのだと思う。

初めて部屋から無理やり連れ出された時、私は恐怖を感じていた。

廊下で転んだ時の信長の冷たい声。

私は信長が怖かった。


強気に振る舞いながら、怖かった。

私は人質なのだ。

いつ殺されるのか。殺されないにしても、どのように扱われるのか。

こんな恐怖心を持ちながら生活を続けられるのか。


斎藤家が織田家を裏切ったら私は必ず殺されるか幽閉される。

私が斎藤から織田家に人質として嫁いだ以上、殺される可能性は無にはならない。


私は父が、織田を攻めないと信じている。

私を大切に育ててきたあの時の愛が本物なのだと。

政治的に父が私を見放す事があるかも知れない。その可能性には目を反らした。

父を信じなければ私は私を支えきる自信がなかった。


今の私を支えているのは今までの、『帰蝶』として愛された過去だ。

尾張にきてからは足のつかない場所を歩いているような気持ちだった。


そんな気持ちが少し変わったのは信長に桜あの河原に連れて行かれてからだと思う。





「あなたはどうしてそうなの!?」

「そうとはどんなことだ。」

「部屋に入る前に侍女に来訪を伝えさせる。常識です!」

私は目の前に座った信長に訴えた。


「常識とは誰が決めるのだ。」

私は言葉に詰まった。

聞かれると適切な言葉が浮かんでこない。


「……世の中の暗黙の決まり事?かしら。」

「ではそなたは間違っておる。そなたが今いる場所は『俺の城』だ。」

信長は偉そうにふんっと鼻を鳴らした。

「この城の中では俺が決めた事は絶対だ。」


ちょっとよくわからない。

信長の自己中心的な考えに私は頷けないし、呆れた。


「私は今、世の中の人が決めるのだと言ったはずです。」

私は諭すように言った。


信長は当たり前のように言った。

「そなたは俺の妻だ。俺の言うことは絶対だ。」


そう言われたら、私は妥協するしかない。

何より、彼は人の言うことを聞かない。

私は静かに目を閉じて言った。


「……では部屋をいきなり開けるのはおやめ下さい。あらかじめ侍女に伝える事はせずとも部屋に入る時は一言言葉をおかけくださいませ。」


現代でいう、ノック。

この時代は障子なのでさすがに障子を叩けとは言えない。

だけど声くらいかけてくれないとこの前のようにびっくりする。

毎回あのように登場されては心臓によくない。

信長はしばらく考えて頷いた。


信長とこのように言い合うのは初めてではない。

今まで些細な事で言い合ってきた。

季節が流れるのは早いもので春は終わり季節は夏に入ろうとしている。


梅雨のじめじめした空気に嫌気がさしていたころ、私はずっと嫌だったことを打ち明けて、尚且つ改善策を提示できて気分がすっとした。

これで部屋でもゆっくりできる。

信長が素直に提案を飲んだ事は少し意外だったが。


彼はいきなり私の部屋へ入ってくる。

私がなにをしていようとお構いなしなのだ。

だから着替え中に出くわしたことも一度や二度ではない。



この数ヶ月一緒に過ごしこの男のことを少しずつ認めはじめている。

回りがいうほどうつけ者ではない。

逆だ。

策士なのだ。

頭がいい。


彼は回りを油断させるためにうつけ者を演じている。

椿に話すと縦に頷き同意を示してくれた。

椿はほとんど毎日一緒にいる。信長の言動を一緒に見てきている。

彼は私の前ではうつけ者のふりをしない。

それは彼に少しは信頼されている証なのかと思う。


彼に何故その様な事をしているのか聞いたことはない。

きっと、彼には彼の考えがあってのことだと思えるから。

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