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別れの蝶2

「光秀様。」

私は稽古をしている光秀様に声をかける。

近付くと光秀は気まずそうに私を見ている。


「どうして急に私の稽古に付き合ってくれなくなったの?」

私の問いに光秀様はうつむきながら言う。

「姫様は織田家に嫁がなければなりません。」

そんなこと知ってるわと言いたくなるような事を言ってくる。

光秀は続けて

「人質の役目を担って、嫁がれる。」

「……そうね。」 

そんなこと知ってる。



分かってる。

知らない人に嫁ぐなんて、結婚するなんて怖いし嫌だ。生まれ育った故郷や両親と離れる事だって不安だ。

だからもう、お願いだからこれ以上私に追い撃ちをかけないで。

そう思うと、光秀様に怒りさえ覚える。

「お辛いでしょう。姫様のお気持ちを考えると、どのような顔をしてお会いしたらよいのか……。」


「何よ、それ。」


私は呟いていた。


光秀様は私を戸惑いの目でみていた。

私は……。


「確かに辛いわ!知らない人に、嫁ぐなんて!だけどあなたに避けられるのも辛いわ!」


泣きそうになった。

知らない人に嫁ぐ自分への哀れみと、光秀様に対する怒りと。

涙が込み上げてくる。私は後ろを向いてその場から逃れた。


「美濃をよろしくね。私は尾張から美濃を守るわ。」


そう言い残して。


後から考えたらこの時の私はまだ子供だったのかもしれない。

どうしようのない怒りを光秀にぶつけてから、私は自己嫌悪に陥った。

光秀は私の事を心配してくれただけ。

なのに私は光秀様に八つ当たりした。

最低だ。ちゃんと謝らなければ。



光秀様に謝る機会がないまま、年は明けた。

私は謝りきれずにいる。



織田家に嫁ぐ日が近付く中、最近父がよく私の部屋へ来る。

その前までも一週間に一度は来ていたが最近ではそれが三日に一度になった。

父は寂しいのだと思う。

そういう仕草をよく見せる。

私を尾張に出す事は父が決めたくせにと思わないではない。

でも私だって寂しい。


母も父も大好きだ。

だからかもしれない。

逃げようと思えば出来ないことはないのにそんな気にならない。この家を、両親を捨てる気にはならない。

武家に産まれた責任なんて目に見えないものだし、そんな事のために知らない人に嫁ぐなんて馬鹿げてる。

でも私が逃げたら二人は困る。

だから私は逃げない。

私は両親が好きだし、この世に染まってきているのだと思う。


尾張への嫁入りを数日後に控えた時だった。

「帰蝶、これを持って行け。」

父はそういって私に短剣を渡した。

父を見つめる。

父も私を見つめる。

「そなたが嫁ぐ織田信長は世に名高いうつけ者と聞く。誠にただのうつけ者であったならこれで喉を切ってこい。」

父は面白おかしそうにそういって、私に挑戦的な目を向けた。


確かに私は護身術は使える。

だけど織田の情勢などを父に知らせるのも私の役割。

人質として、この美濃のためにできること。

織田信長を殺してしまったらそれができなくなる。

それどころかまた戦になってしまう可能性だってある。


父は、私に何をしてほしいのか。


『はい。殺して来ます。』という返事を父は待っていない。



「私は織田に嫁ぎます。嫁いだ後は私も織田家の人間となります。……この刀は父上を刺す刀になるかもしれませぬ。」

私はしっかりと言い切った。

父は優しく私の頭を撫でてくれる。


父は私に織田家に染まってもよいと言っているのだと思う。

私が、人質として嫁ぐ私が心揺れた時に苦しまないように。

そして本当に織田信長がうつけで嫌だったなら帰ってこいと。

帰ってくる場所はあるのだと、言ってくれているのだ。


もし織田家で幸せになれるなら幸せになれ。織田家でやっていけないのなら、戦となっても私を守ってくれる。

それがどんなに大変なことなのか、十四年この時代で生まれ育った私は分かっている。だから、父のこの言葉だけで私は嬉しかったし父に愛されている事を実感できた。



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