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別れの蝶1

爽やかな風がカーテンを揺らす。夕方になるといい風が入る季節になった。花瓶の水を変えて私は机の上に飾った。

姉が眠ってから半年が過ぎた。


事故にあった姉はすぐに救急車で病院に運ばれた。

何とか命は繋ぎ止めたと医師は言っていた。姉が生きている。それがわかった時は母は泣き崩れていた。一度は、覚悟をするようにと言われていたから、なおさらだった。


しかし命の危機は脱したはずなのに姉は起きなかった。

医師がいうには何故姉が起きないのか分からないという。

医師にわからないのに、私にもわからない。

ただただ姉は十七歳の姿のまま眠り続けている。

いつ目覚めるか分からない。だから私はいつ姉が目覚めてもいいように毎日姉にあいにくる。


「お姉ちゃん、今日はお父さんもくるって言ってたよ。」


だから早く起きてよ。

あの娘に興味の無かったお父さんがだよ。

お父さん、病院代のために毎日遅くまで働いている。

だが三日と開けず姉にあいにくる父。

だから、早く起きてよ。

春奈は姉の頬を触った。

自然と涙が浮かんでくる。


早く、早く起きて。


みんな待ってるんだから。








  



十四歳の師走。

城中が慌ただしい雰囲気につつまれていた。 

私の心も同様に慌ただしかった。

結婚が決まった。

私の、結婚が決まったのだ。


四年間、この城では好きな事ばかりやってきた。

『帰蝶』の父と母を自分の父と母だと思うようになってから、できるだけ甘えた。わがままも、聞いてもらった。

護身術だって身につけた。乗馬もそこそこな腕前になったと思う。


私は毎日を何不自由なく過ごしていたが、そんな中父は争いの中に身を置いていた。

父上が尾張の織田家と争っているのは知っていた。

母上はもちろん争いが嫌いだからいい顔はしなかった。

だけど父に争いを「やめろ」とは言わないし、むしろのほほんと傍観していた。

父が勝つと信じているのだ。

そして私達を、自分の身を守るために父が争うのだと知っている。

領土を攻められれば守るしかない。

守らなければやられてしまう。

そして自分のために、子孫のために少しでも領土を広げたい。

だから攻める。

私が今身を置いている世界はそのような欲や人のためを思う気持ちが先頭に立っている。

だから人は一生懸命生きている。

戦国時代はそういう時代なのだ。その事は、十四年も生きていればもう分かっている。


私は十四歳にして嫁がなければいけないらしい。私の感覚では、義務教育中だ。こんなに早く嫁ぐ事にも驚いたが、相手を聞いてさらにびっくりした。

だって、誰でも知ってるような歴史上の有名人――。


織田 信長

私は歴史上の有名人の信長に嫁がなければならないらしい。


自分で今自分がおかれている状態がよくわからない。

だけど分かっていることは一つだけ。

私は人質としと織田に嫁がなければならない。政略結婚というやつだ。



帰蝶としての私の運命は決まっていた。

どこかの家へ人質として嫁がなければならない可能性はずっとあった。これまでにも、織田信長以外に嫁ぐ話だってあった。


正式に嫁ぐ事が決まってからは重りを背負っているような感覚に襲われている。

武家に産まれた私の責任。

今までの裕福な暮らしの代価。

今はその責任を果たすときなのだと思う。


それに例え私が嫌がっても父はこの決定を覆さない。

和睦が決定した以上その証が必要だし、これ以上争わないためにもその証が必要だった。

父は私に甘いが、こういう決断ができる人だ。

そうでなくては、この時代で名を立て一国を守ることはできない。



私は光秀様とは遠乗りに出たり、刀の稽古を一緒に行ったりしていた。

しかし光秀様は結婚が決まってから、刀の稽古には付き合ってくれなくなった。

この四年間、本当の兄弟みたいに育って来た。

そして、妻木煕子との出会いは私たちを変えたようにも思う。

偶然の再会を果たし、三人で過ごす時間もあった。

その時間で私は煕子の事も好きになった。

ひろこという女性、思いやりができる少女だった。


知らない人に嫁ぐなら、光秀様に嫁いだほうがいい。

そう思うことが今でもないこともない。

だけど三人で過ごす間、煕子は光秀様を好きな様子だ。

そんな姿を見ていると、二人には幸せになって欲しいという気持ちが芽生えてきた。

結局、私は兄のような光秀様にい甘えてただけなのかもしれない。

光秀様に向ける気持ちは、兄弟に対する愛着のようなものだったのだと思う。


それにこの城に今『姫』は私しかいない。

その『姫』の使い方によって美濃の未来は変わってくる。

父はもう選んだのだ。

『姫』の最良の使い方を。

その意見は翻る事はない。



武家の家に産まれた責任。

今までの暮らしの代価。

そんなものに、私の人生は決められてしまう。

未来の、私のいた時代ができるまでにはこんな時代もあったのだ。


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