第四十六話
翌日も、そのまた翌日も。
柚里はアキくんがいない寂しさを紛らわすために、たくさん仕事をしてたくさん疲れて、家に帰りつくころにはそのままベッドに倒れこんで爆睡するまでに身も心も痛めつけていました。
そうしないと余計なことを考えてしまって、つらくなるからです。
樹からは仕事が終わっただろう時間に、電話がかかってくるようになりました。
『大丈夫か』
「うん。大丈夫」
そんなたわいない会話を数分するだけで、柚里は随分と楽になりましたが、それとは別に樹はアキくんともつながる世界の人だということを思い出して、少しさびしくもなりました。
アキくんがいなくなって一か月たつ頃。
毎日のように樹から連絡を貰ってはいたものの、とうとう柚里はがまんできなくなってペットショップに慰めを求めに行きました。
以前アキくんと一緒に行ったペットショップです。
あの時の店員さんはいないようでしたので、柚里はゆっくりと目当てのうさぎさんを見ていました。
ロップランドイヤーやネザーランドドワーフ、アメリカンファジーロップといった種類のうさぎさんたちがおのおのゲージに入れられておりました。
かわいい……。
いろんな種類のうさぎさんがゲージのなかでおうちに連れて帰ってくれる優しい人を待っています。
どの子もとてもかわいらしくてそれぞれの魅力にあふれていて、柚里はどの子を連れて帰ろうかと迷ってしまいました。
あ、でもいろんなものも揃えなきゃ。
アキくんはほとんど……なにもいらなかったもんね。
アキくんがいなくなった寂しさを紛らわせるためにペットショップに来たはずなのに、ちょっとしたことでアキくんを思い出してしまって、切なくなってしまいました。
ふと、足元の大きなゲージをみると、そこにいたのはアキくんによく似た耳にちょっと小さなうさぎさんで、アキくんの首元にあったツキノワグマのような白い毛こそないものの、全体の毛の色もそっくりでした。
アキくんだぁ。
似て異なると分かっていても、柚里はそのうさぎさんを一目で好きになってしまいました。
値札を見ると、なんと値札の上に『里親募集中』と書かれた札がべったんと貼られていました。
じゃあ私が里親になっちゃおう。
柚里は勢い込んでレジに向かい、そうして「あのっ、里親募集中ってっ」とどもりながら店員さんにうさぎさんをもらいうけたいことを伝えました。
店員さんは柚里のあまりの勢いにくすりと笑って対応をしてくれました。
必要なものを店員さんと二人で揃えていきながら、最後にレジ横でうさぎさんの飼い方の説明を受けて、そうして最後にアキくんに本当によく似たうさぎさんを家に連れて帰りました。
「うさぎを飼うことにしました」
『……それは……どういう種類のうさぎにしたんだ?』
樹は柚里の言葉を聞いて思うところがあったようですがそれを表にはだそうとしませんでした。
そのかわりどんなうさぎだとか、また河原に連れておいでだとか、そういったことを少し話して電話を切りました。
そうしてまた一か月が過ぎて。
柚里は新しいうさぎさんと一緒に仲良く暮らしていました。
新しいうさぎさんを『フィー』と名付けて、ペットショップの店員さんが教えてくれた通りに飼っていました。
それはアキくんとは天と地との差がありました。
まずゲージが必要ですし、もちろんトイレも水やりのカップも寝るための木のおうちも必要でした。そんなものはアキくんには全く必要はありませんでした。
そしてご飯も全く違います。
アキくんは柚里と同じご飯を少しの量分けていたのですが、フィーはうさぎさん専用の餌や牧草を食べています。
そして決定的なのが、フィーは普通のうさぎさんですが、アキくんはしゃべって笑えるうさぎさんだったのです。
フィーとの新しい暮らしはとっても楽しいものでしたが、アキくんとの暮らしとの違いを思い知らされました。
それでも柚里はアキくんがいなくなった寂しさをフィーが癒してくれることに喜びを感じていました。
樹はそんな柚里を横に並んで見るようになりました。
もちろん毎日の電話はかかすことはありません。
フィーが来たことによりすこし浮上した柚里を暖かく見守っていましたし、時には河原に誘って一緒に散歩をすることもありました。
そこにはあの日の強引さは影も形もありませんでした。
そんな穏やかな日々を当たり前のように感じ始めたころ。
フィーが家にやってきてから、柚里はアキくんがいたころのように残業もほとんどしないようにして家に帰るようになりました。
その日もいつものように会社帰りに買い物をして、両手に買い物袋を持って階段を上っていきました。
たまには新鮮な野菜をフィーのご飯にしようとおもって、うさぎさんが好きそうな野菜を買いました。
その野菜をフィーがどんなふうに喜んで食べてくれるかなと考えながら家にたどり着くと、玄関の前に黒い影がうずくまっていました。
え、なに?
柚里が驚いて足どまったと同時に、その影はびくりと動いて首を上げてゆっくりと柚里に振り向きました。
その影の持主は、長く緩やかなウェーブがかかった金髪の小さな男の子でした。
樹ってプライドが高いのか、それとも実はヘタレなのか……。




