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雨の中のうさぎ  作者: れんじょう
『雨の中のうさぎ』
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第三話

 ぴょん


 うさぎが柚里の座るソファの横に飛び乗りました。そして少しでも柚里に近づこうと、ぐぐっと背筋を伸ばしました。

 するとふわふわとしているソファの上でのことですから、ふんばった拍子にうさぎはぐらっと揺らぎました。


 話が分かるうさぎに驚いていて気持ち引き気味の柚里でしたが、ソファから落ちかけたウサギに思わず手を差し伸べてしまいました。

 そしてそのまま両手でつかみ、膝の上に座らせました。


 すると


 ちりーん♪


 何回目かの金属音が聞こえてきました。


 どうもその音はうさぎから聞こえてくるように思いました。

 けれどうさぎの体には首輪も何もついていません。どこから金属音が聞こえるのか皆目わかりませんでした。


 「不思議なうさぎさんね。言葉もわかるようだし、お返事もするし」


 そういえば雨の中でも後をついてきたのだし、そういううさぎなんだと思うと柚里はなんだか楽しくなってきました。

 だって、そんなうさぎなんて見たことも聞いたこともないからです。

 柚里だけの不思議なうさぎさんです。


 「じゃあ、アキくん。これからよろしくね」


 そう言って、耳と耳の間を指でゆっくり撫でてあげました。

 するとアキくんはうれしそうにつぶらな黒い瞳をゆっくりと細めました。



          **********



 さて。


 柚里は動物を飼ったことがありません。

 ですので、どうやって飼っていいのかもわかりません。

 こういうときは便利なものが世の中にはありますので、その文明の利器に頼ろうとパソコンの前に座って検索を始めました。

 『うさぎの飼い方』という項目で検索をすると沢山のヒットがありましたのでどれを開けようか悩んでいた時のことです。


 膝の上でこくりこくりと安心して寝ていたアキくんが、がばっと起き上がって前足でパソコンのキーボードをがしゃがしゃとむやみやたらに触り始めました。

 もちろんそんなことをされて、パソコンが無事でいるわけがありません。

 さっきまで画面上にあった検索結果がみごとにどこかにいってしまいました。


 「……アキく~ん?」


 ちょっと黒くなった柚里を垣間見てしまったアキくんは一目散に部屋の隅に逃げ込みましたが、もちろん黒くなった柚里にあっさりと捕獲されて隣の部屋に連れ込まれました。そして無情にもドアが閉められてしまいました。

 柚里は一息をついて、もう一度検索を始めて『うさぎの飼い方』を勉強し始めました。

 驚いたことに、うさぎは躾ければ一か所におトイレができるのだそうです。

 これには柚里はほっとしてしまいました。

 だってゲージの中に閉じ込めておくなんてかわいそうなことはしたくはなかったからです。

 寝るときも暗くして上げないといけないのでカバーが必要だとか、水は器よりも専用の容器を使ったほうがいいだとかたくさんたくさん勉強をして、満足した柚里がアキくんを隣の部屋から連れてこようと思ったとき


 だんっ!だんっ!!


 なにやら怪しげな音が隣の部屋から聞こえてきました。

 それは柚里が一人暮らしをしてから一度も聞いたことのない音でした。


 だんっ!だんっ!!


 リズムをとりながら何かを叩きつけるような音が聞こえます。


 柚里はそーっと隣の部屋のドアを開けました。

 するとそこには、ドアの前で後ろを向いたアキくんが、薄ろ足を使って床をだんだんと力いっぱい踏んでいる姿がありました。

 まるで小さな子供がお菓子売り場やおもちゃ売り場でダダをこねている姿でした。


 おっかしーっ!


 アキくんはダダをこねているのかもしれませんが、そのまあるい後姿はとてもかわいらしいものでした。

 

 一人暮らしが淋しかった柚里は、アキくんを拾って本当によかったなあと思いました。


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