第二話
部屋に新聞紙を引いて、その上でずぶ濡れになっているうさぎをちょこんと座らせました。
警戒心が強いのでしょう。
うさぎは新聞紙の上から降りようとはしませんでした。
そこで彼女は自分が濡れているのも構わずに、清潔な石鹸の香りがするバスタオルを持ってきて、濡れたうさぎをわしゃわしゃと拭き始めました。
うさぎはその間もじっとして、全く動こうとはしませんでした。
随分と軽やかな毛並みが戻ったころ。
やっと彼女は自分の濡れた服が身体にまとわりついて気持ち悪いことに気がついたようで、うさぎに「じっとしていてね」と言い残し、シャワーを浴びに行きました。
急いでシャワーからでてくると、うさぎはまるで言葉がわかるようにじっと新聞紙の上で彼女を待っていました。
「おりこうさんな、うさぎさんね」
彼女はうさぎを目線の高さまで抱き上げると、まじまじとうさぎを見て言いました。
「君は男の子?それとも女の子?うさぎの性別なんて調べたことがないからわからないなあ」
すると今までおりこうさんだったうさぎが急にじたばたと暴れ始めたので、新聞紙の上にゆっくりと下ろしました。
なんとなくほっと息をついたように見えたのは錯覚だったかもしれません。
「私の名前は柚里というの。君の名前は何にしようかな。男の子か女の子かわからないから、中性的な名前がいいかもね」
自己紹介なんてと思いましたが、やはりここは一緒に暮らすのだからとうさぎに名前を伝えようとしましたが、いかんせん、うさぎに名前はありません。
そこで乾いたうさぎの背中をゆっくりと指の背で撫で上げながら、うさぎに問いかけました。
もちろん、答えなんていうはずはありませんが。
ところが。
『アキ』
どこからか声が聞こえたのです。
そして雨の中に聞こえた『ちりーん♪』という金属の音も聞こえてきました。
柚里は驚いて周りを見またしましたが、やはり声の主も綺麗な金属音を出す者もありません。
まさかとは思いましたが、撫で上げているうさぎを見てみたら
こくり
首を縦に振るではありませんか!
まるでそれは、『アキ』と言ったのがうさぎであるかのようでした。
けれどももちろんそんなことはありません。
だって、相手はうさぎです。
しゃべることなんてできませんし、何かを鳴らすこともできはいはずです。
それでもまさかと思いつつもうさぎに聞いてみたくなりました。
「君は……アキなの?」
するとどうでしょう。
うさぎは柚里のほうに顔を向けて、ゆっくりとうなづいたではありませんか。
「君は女の子?」
そうすると今度はふるふると首を振ります。
「じゃあ君は男の子?」
今度は縦に首を振りました。
その時の柚里の驚きようと言ったらありませんでした。
だってうさぎが人の言葉を理解しているのですから!
どこからか聞こえてきた『アキ』という声も、もしかしたらうさぎがしゃべったのかもしれません。
柚里は驚きのあまり後ずさってソファにどっさりと腰を下ろしたのでした。




