2章②
俺はスマホでリリルに今から会えないか?という連絡を入れる。
すると3分くらいで今ショッピングモールのカフェにいるからそこに来てくれる?という返信が帰ってきたため、それに応じることにした。
30分後に指定されたカフェへと赴くとリルルはそこにいた。
ただ彼女一人というわけではなく彼女と同じテーブルの向かい側には男性がいた。
「あ、キュー君、こっちこっち」
「生で見るとマジデカパイですわね」
「うわ~、キレーな子、彼女?」
「ちが……」
「そうですわ!」
俺が否定しようとするとそれより先にユーハが堂々と宣言した。
まあいいか、どちらでも差はないし。
「そっちの男の人は彼氏?」
「えへへ、実はそう……」
「ちげーよ、幼馴染の腐れ縁だ」
彼女もまた言葉をさえぎられこちらとは真逆に否定された。
座っていても分かるほど細身マッチョで長身、精悍でシュッと引き締まった顔つきで逆立った短髪。怖くてカッコいいお兄さんといった第一印象だ。
「春坂俊之助 、こいつの二つ上で理系大学3年生だ」
先に自己紹介されたのならばこちらも応じるしかない。
「明星救世、高1です」
「あ・た・く・し、は妖風遊葉、高3で生徒会長ですわよ! あ、モデルもやってますわ」
「お、おう」
ユーハのそのお嬢様キャラのノリに彼は少し引いた
「あ、リルルはね、寧々宮理瑠琉っていうんだよ。よろしくねユーハちゃん」
自己紹介が終わった後に注文してから話を切り出そうと思ったが、その前に春坂が先に口を開く。
「キューセイだっけか、前にリルルが世話になったみたいだな。ありがとよ」
「いえ、そのあとお礼で料理を振舞ってもらいましたし貸し借りはないです」
「なんだ、坊主の見た目のわりに受け答えがしっかりしてんな」
「でしょでしょ、キュー君頭いいんだよ」
「お前が悪すぎんだよ。いいかげん自分の名前呼びくらいやめろ。馬鹿に見えるだろ」
「え~、リルルはリルルだよ。わたし~やあたし~ってなんかやだ」
「わかりますわ。無個性になりますものね」
「わー、同士がいた。ねー、自分の好きな名乗りでいいよね~」
シンパシーを感じた二人がキャッキャしているのを見て俺と春坂は呆れた顔でため息をついた。
そしてそれをお互いに気付いて目を合わせる。
「お互いに同じ苦労しているみたいだな」
「そうみたいですね。春坂さん、理系大学でどんなことを専攻されているんですか?」
「お、興味あるのか?」
「はい、母が研究者なんで」
「なるほど血筋か。そだな、まだ完全に絞っちゃいないんだが生物学だな。生命の神秘を解明するってっやっぱロマンあるからよ。お前はどんな分野に興味ある?」
「そうですね、栽培や培養、あと地質とか」
「自然への探求か。いいんじゃねーの。つか、春坂さんって敬語使わなくていいぜ。気軽に俊之助でいい」
「いえ、流石に6つも年が離れていますし」
「いいって。お前には許す」
「そうですか。ではシュンノスケ」
「おう、キューセイ」
それを見ていたユーハとリルルは驚いて俺を見てくる。
「なんかかわいいですわね」
「うんうん、見た目よりしっかりしているから私たちの時はそんなに年の差感じないけどシュンちゃんのときは弟感あるよね~」
「お前らがしっかりお姉さんしねーからだろ。ったく。んで、リルルに話があったみたいだがなんだったんだ?」
「ああ、そうだった。実は最近、この街で関わりない群集がまるで操作されているみたいに無意識な犯罪を幇助するような光景があったりするんです。俺たちはそれを調査しているんですけれど行き詰ってしまって、リルルに何か関連するものが聞けたらなって思って連絡を入れたんです」
「へぇ、関わりない群集が犯罪幇助ね。興味深い話だな」
「リルルはそれわかんないなぁ」
「ま、お前の頭じゃそういう現場に出くわしても気付かねぇよな」
「あ~シュンちゃんまた私を馬鹿にした~」
「……犯罪幇助かは不明だがうちの大学で似たような現象は何度か起こっていたな。3年にもなれば広義やら実験やらで一緒になる顔ぶれも固まってきて覚えてくるんだが、いつの間にかそこにいたって奴らが最近生えてきたんだ。けど誰も……つーか、こんな奴いなかったよなって話にもならねぇ。俺もその場面に出くわして友人たちにあいついなかったよなって尋ねたんだ。けどあいつらそうだっけ?って返してきてよ。ビビったわ、自分が別の並行世界に迷い込んだみてーな感覚つーの」
可能性は高い。恐らくその大学で認識操作が行われている。
そしてそれに気付けているシュンノスケもまたリルル同様に意識がかなり正常だ。
「確かに無意識な集団操作がなされているかもしれないし関係がなくもなさそうですね。シュンノスケの大学って外部の人間が入っても大丈夫だったりします?」
「ああ、抗議はともかく許可取れば学内の出入りは自由だ。興味あるんだもんな。いいぜ、休日にでも案内してやるよ」
「助かります」
「あ、リルルも久しぶりに行っていい?」
「来んな、前にお前を連れてったら友人たちに彼女と勘違いされかけたしよ」
「大丈夫、今度はキュー君の彼女のフリで行くから」
「え?」
「ユーハちゃんフリだし彼氏借りていい?」
「お前、フリでもダメだろ」
「いいえ、許可しますわ。あ、でもあたくしも大学見学したいですわね。そうだ、二股すればいいんですわ!」
「いや、もっとダメだろ」
そこでユーハとリルルは俺をサンドイッチするように両腕に抱き着く。
「キューセイ、嫌ならちゃんと言えよ」
「いえ、けれどこれが最善な気がするからそれでいいです」
「ほんとか?」
「はい、だってリュウノスケは他に好きな人がいるんでしょ?」
「……なんでわかった」
「まあ、リルルは内面これだけど知らない周囲からすればグラビアアイドルを連れているようなもので男としてはステータスになりますし。それを拒む理由は明確に好きな人に勘違いされたくないリスク回避だと推察できる」
「確かに頭いいな。素の出来の良さは俺以上みたいだ。気を使わせてわりぃな。ならそれに甘えるわ。お前はハーレム楽しんどけ」
◆
5月5日、土曜日
予定通り俺とリルルはシュンノスケのいる大学に来ていた。
「ユーハちゃん残念だったね」
シュンノスケの彼氏と間違われないよう俺にべったりくっ付いて歩いているリルルがそう言う。
「欲求に忠実なユーハのことだからゴネて急に入ったモデルの仕事は断るかと思っていたけれど意外だったね」
そう、当日になって彼女は所属している事務所からいきなり仕事の依頼が入ったのだ。
悩むこと自体初めて見たがそれでOKするのもかなり意外だった。
「土曜でも結構人はいるんですね」
「ん、おう。講義はほぼやってねーんだが、学生間の活動やらで解放されているんだよ。んじゃ案内するぜ」
シュンノスケに付いていく形で大学の各棟を見ながら、その棟の役割をざっくりと説明される。
やはり俺の存在は若すぎるのか、隣で抱き着いているリルルの存在もあって通りかかる人たちに妙に注目されていた。
……一通りの案内が終わると機械工学の研究棟前にあるベンチに座って休憩となる。
「どうだった?」
「思っていたよりも面白そうだなって印象を受けました。けれど広いから広義の取り方次第では移動が大変ですね」
「それな、結構疲れるんだよ」
「へへん、私が通っている専門学校は疲れないよ~」
「そりゃ小さいからだろ」
そう他愛ないやり取りをしていると研究棟から出てきた女性が声をかけてくる。
「あら、春坂君、珍しいわね」
「お、空田さん」
「知り合い?」
と俺が尋ねるとシュンノスケは簡単に説明する。
「ああ、機械工学院生の空田清美さん」
「初めましてボク、まだ大学生じゃないわよね?」
「はい高1です。今日はシュンノスケにお願いして大学の見学をさせてもらっています」
「あら、じゃあいずれこの大学の後輩になるのかもしれないわね、春坂君、ちょっといいかしら?」
「はい、お前らちょっとそこにいてくれ」
落ち着いた余裕ある大人の女性といった外見と話し方であった。
二人が少し離れたところに移動して会話を再開すると、リルルが少し睨んだ目で見る。
「うう~、シュンちゃんオバさん好きとか趣味悪いよぉ」
「言うほどおばさんなのかなぁ? 院生だから23以上……見た目的に25~28くらいではあるだろうけど。……確かにリルルとは対照的だね。そこに惹かれたのかな?」
「やっぱりリルルって中身の魅力ない?」
「俺は頭悪い子嫌いじゃないよ。母さんみたいなタイプが一番相手し辛い」
「うわーん、ありがとキュー君」
ナメクジのようにさらにべったり抱き着いてくる。
結構重い。
「シュンノスケのこと諦められないくらい好きなの?」
「え、いやそこまでじゃないんだけど……リルルとシュンちゃんって家が近所で小さい頃から幼馴染だったんだ。リルルは頭悪いからよく勉強を教えてもらってさ……シュンちゃん口は悪いけど面倒見は良くてうん……感謝しているんだ。それでリルルなりにどう感謝を返せばいいかって何度か考えてはみるんだけどわかんなくて……それでリルルはおっぱい大きいし料理も上手いからお嫁さんになってあげたら喜ぶかなって……」
「ああ、そういうこと」
「けど当のシュンちゃんはリルルがタイプじゃなかったんですよ。ババ専だったんだよぉ、おろろ~。厄介な妹くらいにしか思ってないんだよぉ」
「それは悲しい結果だね」
「あの二人の仲、応援したほうがいいのかな?」
「それがシュンノスケのためならそうしたほうがいいだろうね。ただ……」
「ただ?」
「外見上とても正常な素振りなんだ。けれど意識を見ると真逆で歪み切っている」
なんだこの女……力を得て多くの人間の意識を見てきたがここまで意識と言動が反比例しているなんてありえなかった。
空田清美はシュンノスケとの話を終えると手を振って研究棟に戻っていった。
入れ替わりで俺たちはベンチを立ってシュンノスケに尋ねる。
「何の話をしていたの?」
「最近、裏口在籍ってのが噂になっているらしくて思い当たることはないかって聞かれただけだよ。講義にいきなりいるはずもない奴がいたりとか……んなことあるかってんだって返したら頷いてくれて話は終わった」
それに俺とリルルは驚かされた。
大学に来た目的の目的はそれの調査だったのだ。
シュンノスケもそれは思い当たるところがあって理解していたからこそ案内する流れに至った。
だというのにこの反応。
俺は気になって彼の意識を見る。
すると少し前とは変わって部分的に歪まされたような状態となっていたのが分かった。
正しい認識ができる人間に無理やり誤認させるよう弄ったような。
「シュンちゃんおかしいいよ」
「ん、何がだよ?」
「え、だって最近いるはずがない人がいたりして不気味だったからキュー君の話に共感したんじゃないの?」
「ん、そりゃ……っ、何言ってんだよ。この大学にそんなことはねぇって」
やはりそうだ。本人も違和感を覚えているというのにそれが何故か分からない。
あの女との会話前後でこの変化が起きているなら犯人は言うまでもないだろう。
ともかくこの状態のままでは話が進まない。
なのであまりやりたくはないが、シュンノスケの歪まされた部分だけ狙って意識破壊をする。
するとシュンノスケは少し頭を抱えて苦しむもすぐに頭がすっきりしたように冷静さを取り戻した。
「あれ、そうだよ。俺はキューセイの話に共感したから……あれ、さっきなんで?」
「あの空田って女の人と二人きりで会話した後、シュンノスケの様子がおかしくなったんだ。そこまでは整理できる?」
「……ああ、けど空田さんと会話しただけでなんでこんなことになるんだよ」
「それは……」
「知っているならハッキリ言え。気を使われるとむずがゆいからよ」
「分かった。あの空田って人は敵だ。意識操作をしている側の人間で間違いない」
「待てよ、なんでそんなこと分かる」
「俺には他人の意識が見えるんだ。空田と話した前後でシュンノスケの意識がイジられたのが見えたから」
「相手の意識が見えるってエスパーかよ。お前何者んだ?」
「それについての説明はあとだ。問題はまずここから離れることだ」
「おい、なんで離れなきゃならねぇんだ? ここが一番危ないみたいに……いや、そういうことなのか?」
そこでシュンノスケまでも「認識」してしまった。目の前の研究所が原因の中心地だと。
恐らく認識する人数が一定を超えることも条件だったのだろう。
俺たちは今ある現実と同じ座標にあるヌミノース世界へと飛ばされてしまった。




