第2章【チーム】①
女王に言われた通り、南にある泉に映る現実の快晴の夜空の景色を認識すると現実へと帰ることができた。
場所は同じ森林公園の池であった。
多少座標がズレているようだが、あちらの世界から戻る時は来る時とだいたい同じ場所に戻るようだ。
「戻ってきましたわね。というかまだ夜ですの? 半日くらいいた気はしますが」
帰スマホで時間を確認する。
すると遮断されていたネットワークと再接続されて時刻修正が入り、現実の時間が表示される。
「どうやらヌミノース世界での体感時間は現実の6倍ほどのようです」
俺たちがヌミノース世界に入ったのは19時、そして戻ってきた今の現実時刻は21時だ。
しかしヌミノース世界中で経過した時間をスマホで見ると12時間ほどであった。
「あら、まだ2時間しか経ってませんの。う~ん、でもつかれましたわね。半日も動いていたんですもの……あれ、でもおなかはそこまで空きませんでしたわよ」
「それは俺も気になっていました」
もしかしてあちらに飛んでいるのは精神だけなのか?
いやだとしたら、意識が飛んで抜け殻になった俺たちは地面に倒れていないとおかしい。
戻ってきた時ちゃんと立っていた。
わからないな……次に行く時にカメラでも置いて確かめてみるか。
「さて、ヤハウェイでしたわね。あいつらに制圧された拠点を1つ破壊できた影響が現実のどこかに現れているとは思うのですけれど今から調べるのは流石に……ふわ」
ユーハはアピールするようにあくびする。
契約して間もないし負担が大きく結構疲れているのだろう。
「今日はここで解散しましょう。話の続きは生徒会室で」
「おけけですわ」
◆
5月4日、金曜日
学内で圧倒的な人気があるユーハと昨日デート扱いで帰ったためかクラスメイトからは色々と聞かれるが、彼女の気まぐれに付き合っていただけで色恋には発展しなかったと返すことでざわめきを落ち着かせた。
アイカは黙ってこちらを見ているだけだ。
まだ婚約関係を復活させてはいないのもあってか口を挟む気はないのだろう。
そして昼休みに生徒会役員の仕事という名目で生徒会室に赴く。
そこで昼飯を食べつつ他の生徒会役員たちと話し合い親睦を深め新参者として受け入れられる。
それから20分ほど事務作業をさせられ次の授業の15分前である12時45分には解散となった。
15分前行動という猶予を持つため早めの解放を促していたのだが、それは表向きの理由。このあと俺と二人で話し合いをするための時間が必要であったからというのがユーハの本音だ。
「それでこのあとどう行動するか考えてきまして?」
「はい、調査と言ってもこの街のどの箇所が敵の意識操作範囲であって、そしてヌミノース世界で壊した装置がどこに適用されていた範囲のものであったかは分からない。けれど敵が群集の意識操作による犯罪幇助によって利益を得ているのであれば最近のそういう事件を調査すればおのずとそれが見えてくると思います。ひとまずは放課後に唯一分かっている昨日最初に向かった街中の立体歩道橋周りに行こうと思っていますが」
「なるなる、あたくしもご一緒したいところなのですが今日は残念なことに放課後に風紀委員との話し合いがありましてすぐにいけませんのよね」
「ならそれには俺も付き合います。同じ生徒会役員ですし。その後一緒に向かいましょう」
「おお、流石仲間ですわね! そういうのいいですわ」
ユーハはぴょんぴょんと跳ねて決めポーズを取り俺を指差した。
「まあ俺一人でまた戦いになった時に戦力が足りないと困りますし」
「ふふん、そうですわよね。あたくしのほうが強いんですもの! あ、そうだ。実は面白い発見がありまして~……とりゃぁ!」
ユーハは念じるように俺へと手をかざす。
すると何もない室内に突風が発生した。
「これは……現実でも魔法が使えるんですか?」
「かなり制限されますけどね。あなただって意識破壊は使えるじゃないですの。あれ、そういえばヌミノース世界では使っていませんでしたわね」
「ああ、実はあっちの世界だと意識破壊は使えないんです。当然、相手の意識を見ることもできない」
「なんと!」
「恐らくですけれどあっちで使える光の攻撃が現実だと意識破壊に変換されるって理屈なんだと思います」
「へえ、そうなんですの。契約する階層の違いでしょうか?」
「恐らくは。まあ他に契約者が増えて統計が取れないと絶対とは言えませんが」
「それもそうですわね。仲間がもっといた方が戦力的な融通は利くでしょうし増やしません?」
「契約者になるには適性がないとダメですよ」
「その適性者はどうやって見つけるんですの?」
「意識が正常ならその可能性は高いはずです。実際に正常だったユーハが女王に適性があると言われていましたし」
「なるほど、つまり現実で相手の意識が見えるあなたならその判別がつくと」
「そうなりますね。私以外に心当たりはありまして?」
明確に適性があるのはアイカだ。しかし彼女を巻き込むのは本末転倒でしかない。
だからそれは除外して残りの候補で考える。
「一人あります。ほら、俺がショッピングモールのレストランで助けた女性」
「ああ、あのデカパイですわね」
「そうそう、彼女との連絡先は交換していますし適当な理由を付けて会ってみようと思います」
「もう一人の心当たりは誘いませんの?」
「誘う気がないから一人と言ったんですよ」
「それでいいんですの?」
「ええ、一緒に傷ついてほしいとは思わないから」
「つまりあたくしは傷ついてもいいと、ひどし!」
◆
放課後に広い会議室を借りて、予定通り風紀委員との合同会議が始まる。
議題は新学期から1カ月たったことで校内の風紀が緩み、取り締まりと指導を強化しなければならないが、それらを生徒会が主体として行う行事日程と被せてしまうとトラブルになりかねないため日程調整をここで行うのだ。
「今年は不純異性交遊が盛んだな。校内で避妊具の所持者が何度も見つかる始末だ。これは由々しき事態、持ち物検査を厳正化するためにも来週から早朝チェックと放課後チェックを毎日執り行いたい」
と、風紀委員長の金堂厳が厳つい声で話を滑り出させる。
それに対して生徒会長のユーハはおほほと言わんばかりに右手を顔の近くに添えて切り返す。
「別にエッチしたいならさせればいいんじゃないですの? 溜め込んだら爆発してしまいますわ」
「ふん、昨日堂々とそこの1年生の新参をお持ち帰りした女は言うことが違うな」
「お~ほほほ、筋肉ゴリラはモテませんものね。だから自分と同じにしてやろうと皆さんを縛ろうとするのでしょう? 嫉妬は見苦しいですわ!」
「野放しにして学生妊娠にでもなったら大問題だ。そうなったら責任をどう取るつもりだ!」
「別に~その当人たちが頑張ってパパママになればいいだけですわ」
「話にならんな。頭のネジが外れた女にバトンを渡さざるを得なかった前代生徒会長が可哀そうだ」
「その言葉、そっくりお返ししますわ。肉ダルマに次を任せるしかなかった前風紀委員長が不憫でなりません」
金堂の意識は元々の高圧的なものにかなり戻っていた。
やはり意識破壊をしてもその効果は一時的で再生して元の状態に戻っていくのだろう。
とはいえ初めて会った時のように意識がかなり歪んでいるわけでもない。
正常とは言わないまでも他とそこまで大差がない程度の歪みに留まっている。
「過度なチェックはプライバシー侵害ですわ」
「プライバシーを盾に悪さする事例が鉄板だ。だから強行すべきだ」
……話が平行線だ。この二人は本当に噛み合わず、妥協点が見えてこない。
それを分かっていた生徒会と風紀委員、双方の役員たちはため息をつきながらそれを眺めていた。
煽りあい交じりの話し合いが続くほどユーハと金堂のストレスが溜まっていく。
今回に限ってはユーハの方がこの後の予定へと早く繰りだしたいのもあって溜まりが早い。
なので俺は金堂へと近寄って声をかける。
「あの、金堂先輩」
「ああ、なんだ1年坊主。あの女の手下になっている奴が声かけんな」
「そう言わずに。俺はこのやり取り、金堂先輩の方が理屈を通していると思っています」
「ん、はは、なんだ造反か。面白いなお前」
「来週からの朝か放課後のチェックはしてもいいと思います。ただ毎日という訳でもなく抜き打ちでランダムな日程にした方が効果的かと」
「んん? どうしてだ?」
「例えばですけれど俺とユーハ会長が学校でエッチしたいとします。しかし毎日チェックであるならそもそも避妊具をかばんには入れてきません。制服にもです。じゃあどうするかというと風紀委員のチェックが行き届かないルートで学校内に持ち込んで置いておきます。部活動のある生徒なら部室経由で。そういった小賢しい考えの生徒を増やしてしまう事態を避けるためにもギチギチな監視体制は避けた方がいいんです」
「なるほどな、一理ある」
そこで俺はさきほど自作した1か月程度の抜き打ちチェック表を渡す。
「こういうスケジュールはどうでしょう? これなら風紀委員の要望を叶えつつこちらの業務に支障が出ない理想的な妥協ラインになると思いますが」
「うん、少しチェック日程が少ないが悪くない」
「では1か月分の体制はこれで確定とさせてもらいます」
そこで金堂が俺の肩を掴んだ。
「お前いいな」
「は?」
「そこの棒切れ女の下で働かせておくのはもったいない。こっちにこい」
「ええ~」
あ~、上手く合わせてくれる相手がいたらいたで引き抜こうとするタイプか。
「お断りします。それだとまた口ケンカで話が平行線になって時間の無駄ばかりですし」
「はは、違いねぇ。おい、こいつに生徒会長ゆずったほうがいいんじゃねーか?」
「お黙りなさいですわ」
その煽りにユーハはストレスも溜まっていたのもあってキレてこちらに突っ込んでくる。
そして金堂相手に右拳を打ち込んだ。
女の細い腕で繰り出されるパンチなど痛くもないと金堂はタカをくくっていた。
俺も意味がないと思っていた。
しかしユーハは風の魔法を同時に行使していた。
それにより金堂は会議室の壁へと思い切り吹き飛ばされる
「なあああああああ!」
それに他の全員がドン引きした。俺もドン引きした。
ええ~何でここで使うの?
「どんな手品使った?」
壁に激突した金堂だが屈強なガタイのためか特にけがは追わなかったようでそのまま戻ってくる。
「風の魔法ですわ。あたくし魔法が使えるようになりましてよ」
「は? 頭イカれているのか」
「おーほほほ、どちらがイカれているかもう一度見極めてみまして? シュッシュ」
ユーハはシャドーボクシングスタイルをとって思い切り挑発する。
「このアマ!」
まずい、金堂の意識が急激に歪みだした。
また意識破壊を使ってもいいが他の生徒会役員や風紀委員が大勢見ている場で俺までも異様に見られるのは避けたい。
だから俺はユーハの方へ寄って見つめ振り上げた腕を握る。
「止めようとしても無駄ですわ。明星君」
「ああ、分かっている。だからこうするんだ」
そして彼女の懐に入りそのまま彼女を抱きしめた。
それに周りが一気に色めき立つ。
「え、ええ、何しますの? 何故こんな対処を?」
「ここで暴れようとするなら先に俺を倒せ!」
「そんな!」
「俺は君が暴力によって相手を傷つけることを望まない。話し合いとカリスマと面白さで相手を魅了する妖精のような君が好きだ」
大胆な告白だ。
「え、ええええ、羞恥プレイ告白なんて予想外ですわ!」
そこでユーハはだいぶ冷静さを取り戻して気持ちを落ち着かせる。
「……ふ~~~~~~分かりましたわ。そこまで言うのなら矛を収めます。金堂君、殴り飛ばしてすみませんですわ」
「え、ああ。わかりゃいいんだ……え、こいつが俺に謝った……マジかぁ」
予想外過ぎることに金堂は目を点にしてしまう。
意識の歪みもだいぶ下がっていた。
そこで俺はユーハを抱きしめるのを止めて指を鳴らす。
「さて、仕切り直しましょう」
俺のその言葉に皆頷いてその後の会議はスマートに進んだ。
◆
会議が終わって俺とユーハだけ会議室に残る。
「……それでどうして魔法を行使したか理由を聞かせてくれますか?」
「え~、そんなのテンション爆上がりでそうしたかった以外ありませんわよ」
「ええ~」
「だってあの金堂君に拳で打ち勝ったらさぞ気持ちいいでしょうし。実際吹っ飛ばしたらとてもスカっとしたんですのよ」
「あーそうですね。言い分は分かります」
「でしょう!」
「けれどそれで魔法が使えるってバレると色々問題になりますよね」
「なりますね! でもそうしたかったんですの!」
「ダメだこの人、そういう人だった」
「そうでしてよ、ですからこんな無駄話は止めてデカパイへとレッツゴーですわ」
そう、言い聞かせて直るような人じゃない。
けれどだからこそ一緒に傷ついても構わない仲間だと思った。
ならさっきみたいにフォローするしかない。理不尽な展開に持ち込まれても




