二部4章【国際会議】
7月27日、土曜日
この日、政権が簒奪されて新体制となった日本が初めて世界と向き合うことになる。
簒奪したのは高天原、その国主は総代である天童日輪。
事前に通達されていた規約に基づき総代はヤハウェイのことを伏せて外資による支配を避けるために行動したという側面を強調し、各国へ……そして中継カメラを通して世界へ訴えた。
事の発端は行き過ぎた資本主義であるならば高天原の行いは私利私欲ではない。
故に採決で多数の認可をすんなりと得られることとなった。
すなわち新体制となった日本はたった今、世界に認められたということになる。……表向きはであるが。
……会議場のライトの光色が一段階暗いものに切り替わる。
それが合図であった。
中継は切られてここからはオフレコという状態となる。
「さて、本当の会議を始めるとしよう。ルシフェル王、アマテラス、そのただの人間の横に並びたまへ」
そう呼びかけたのはローマの代表……それと契約している最高神ユピテルであった。
それに伴い彼は自らの席の名札を裏返して「ユピテル」と書かれたものを示した。
ローマ代表はすでに体をユピテル側に貸している状態ということだ。
他の代表も体を契約した神々に貸したのか、名札を人間のものから神々のものへと裏返していった。
ちなみにこの会議は今どこで行われているかというと俺がアドナイを殺した孤島だ。
その孤島はヤハウェイの所有地であったものの、アドナイの死により唯一神の存在の消滅を悟ったヤハウェイは早々に所有地を売り払って行方を晦ましたそうだ。
ヤハウェイの所有地なだけあって利便な施設が揃っており大きな会議場まであったため本来の国際議場の代わりに今回は「戦利品」の意味合いを込めてここで会議をするという事になったという訳だ。
俺とアイカが総代の席まで来るとユピテルは早々に告げる。
「まずはルシフェル王、唯一神の支配を終わらせてくれたこと。それは如何なる神々でさえも成し得なかった所業だ。既に何度と称賛されているだろうがここに神々の代表一同が重ねて示そう。大儀であった」
「俺は、俺が望む自由の在り方のために抗ったまでだ。しかし神々一同が礼するというなら褒美をもらうのもやぶさかではない」
「いいだろう。申してみよ」
「新たな世界を築いていくには神々が己の住まう国の人々を導かくしかないのだろう。俺が……日本がリーダーとなって世界すべてをこうだと決めつけるのは支配と変わらないのだから。だから初めに入っておくとあなた方の自己裁量に委ねることを良しとはする。ただ、それが身勝手な支配に繋がるようなら俺はそれを新たな自由の敵として破壊する。それも許してほしい」
「なるほど、ルシフェル王は監視者の立ち位置になろうということか。話し合いを待て」
そこで神々は話し合い、これを認めるかどうか論議し始めた。
……数分後にユピテルが採決を言い渡す。
「採決を言い渡す。賛成多数で行き過ぎた神を殺す権限を褒美として与えたい……ところだが、その前に懸念というをまず払拭したい。我らは遥か昔に唯一神の功績を信じて権威を渡して裏切られ閉じ込められた経緯があるのでな。唯一神と同じではないことを彼らに信じさせよ」
そこで席を立つ代表が二人いた。
ギリシャ代表のアイテールという男性と、メソポタミア代表のティアマットという女性だ。
「身勝手の裁量が貴殿の目線というのは非常に曖昧だ。神は時に人を支配し律しなければならない。でなくばカオスという崩壊に繋がる。監視者という立場を狙っているようで真に狙うは混沌の世界なのでは? 悪意に塗れた悪魔ならそれこそが望みのはずだ」
「アイテール、あなたの言う事も一理あるかもしれない。しかし混沌はもう不要だ。我ら悪魔は魔階層の誕生から長き月日より混沌より脱して人に還ることに行き着いた。人々に悪意を受け止めてほしいと。無秩序の先を見ている」
「そうか、なら私からは以上だ」
「かつて原初の人々を創造した神として言わせてもらいます。今の人々は3世界の分離や唯一神の支配の影響で大きく弱体化している。故に脆く神の導きが欠かせない。しかし本来の人は神に似せた完璧に近い存在。いずれ世界は統合し悪魔と自然の力を取り戻した人が仮に繁殖能力を失わなかったとしたらどうなります?」
「神を超えるかもしれないな。ティアマット、それは不服な状況なのか?」
「とても。人は元より神を敬い信仰し祈りという命を捧げる者。それが力を手にして増長し、祈らぬどころか神々の排斥を掲げるなら大問題です」
「ふん、神を監視するばかりで人の監視がないのは不満という事か。我が身可愛いが過ぎる発言だな。しかし最もでもある。人は自由であれ行き過ぎた冒涜など起こすべきではない。そうならないよう悪意を制御できるように教え導くが神の務めだ。それは任せよう。しかしそれでも逸脱するような存在が現れるならその始末は俺が付けよう」
「結構、私からも以上です」
どちらも席に座り納得した顔となった。
そこでユピテルが再度言い渡す。
「ではルシフェル王、これよりあなたに過ぎたる支配をする神、及び過ぎたる反抗をする人を裁く権威を与えるものとする」
権威とは言ったがアドナイが持つような概念能力のようなものが譲渡された感覚はなかった。
あくまで現実で取り決めたルールの上での権限というだけということか。
「有難く頂戴する」
そこで会議は終了となり解散となった。
神々の誰もが早すぎる議題の終了に驚きつつも安堵した表情を見せていた。
それもそうだろう。
唯一心を倒した功績はそれだけ大きい。
世界を代わりに手にしたいと言えば通るかはさておき一考されるくらいのものだ。
しかしそんな思惑は一切見せずに支配がない限りは神々の自治に委ねるというのだから拍子抜けではある。
……帰りの飛行機で隣の席のアイカが尋ねてくる。
「事前に決めていたことだけど良かったの、あれで?」
「うん、きっと口では支配してないと言いつつも私欲に動く神々もそのうちでてくるだろうね。けれどそれならそれでいい。自由を奪ったのならその代償を払ってもらうだけだ」
結局、誰もが嘘なく誠実になどなりはしない。
だから正す者はいるし、それが戦い続けるしか腐敗を抑えられはしない。
「戦い続けるんだね、辛くない?」
「自由がない世界になるよりは辛くはない。それに一緒に戦ってくれる仲間もいる」
そこで俺は近くの席に入る少女に手を振ると、彼女は手を振り返してこちらに来る。
「エリシアさん、どうしてここに?」
「会議場にもいたわよ。陰ながらあなたたちのことは見ていた。立派にやっていたわね。総代も久しぶりね」
「そうだな。欧州の政治家になったのではなかったか?」
「なろうとしたけれど神々が政権を握ってしまったからなる意味がなくなったのよ。ヌミノース契約者は中枢には入れないようにされてしまったから。まあ、彼ら神々が民を救ってくれるならそれでいいわ。という事で暇になったのよ。ただまあ彼らを完全に信用もできないからこっそり国際会議にも潜入していたわけ」
「偶然だったね。けどおかげで連絡を取る手間も省けた。これからまた俺たちと戦ってくれる?」
「いいわよ。戦いましょう。いい世界にするために」
そこで俺とエリシアは再会の握手を交わしたのだった。
「アイカ、言うまでもないだろうけど総代のあとは頼む。日本の治世を長きに渡って支えられるようになってくれ」
「任せて。あ、アマテラスもそのために力を貸してくれるって」
「それは何よりだ」
そこで窓の外を眺めると日本列島が見えてきた。
「もうすぐだね。帰ろう。日本に」




