二部3章③
政庁ビルに入り、最上階を目指す。
前回と違って敵はいないため登るのに苦労はない。
天井が開けて床が黒く焦げてしまっている最上階までたどり着くとそこにはオオクニヌシが確かにいた。
外見上はほぼ人間と言っていい。ただ金堂先輩以上の巨体でたくましい上半身全裸を晒し腰からは白い衣を巻いており、衣の隙間からは逞しい男の太い脚が露出されている。
「おう、来たか。ルシフェル王」
「何を企てているかを確かめたかったが……見れば一目瞭然か」
彼の周囲には10人も女性がいた。
どれも神々がよく好む薄い白い衣を着ていたため、一見、同じ神々の女性かと思えたがよく見ればそうではない。
彼女らは人間の女性だ。そして彼女らの腹は人目で妊娠中と分かるほど膨らんでいた。
「神が人を孕ませるか」
「おうよ、生まれてくる子らはさぞ強かろう。なにせ我の子だからな。そこの乳の大きい嬢ちゃんもどうだ? 我の子を孕んでみたくないか?」
「ええ? 嫌だよ」
「はは、残念だ」
オオクニヌシは豪快に笑う。しかしそこに気の緩みはなく笑った後はすぐに俺たちをまた見据えてくる。
「ここにいる人間の女性たちはどうやって連れてきた?」
「そんなもの口説いたに決まっておる」
嘘はないようだ。彼女たちの表情は強い男に惚れこんだメスそのものでしかない。
「強引にではないならそこを咎めはしない。けれど半神のリスクは分かっているだろう?」
直前に内にいるルシフェルから半神について聞かされた。
半神は半分が人で肉体を持つが故に現実で生きるほうが適切だ。
しかし人ほどに現実での適応力があるわけでもない。
だから不安定で魔性に落ちたり、自己崩壊する危険性が高い。
「……そりゃなぁ、かつて世界がまだ1つで神と人が同じ世界にいた頃から世界が2つに分離した際に半神であった者らの大半が悪い末路を辿ったのは覚えておる」
「なら何故だ?」
「それは逆だからだろう。今度は世界が元の1つに集約せんとしている。そうなったら今の人こそ付いていけん。半神のほうがまだ望みはあるわ。だから種を撒いて試そうとしているわけだ」
理屈としては通っている。サマエルとは違うがこれはこれで新しい世界で人という種の衰退を防ぐための手段なのかもしれない。
オオクニヌシは身構えて拳を俺の方へと向ける。
「1つ、力比べと行こう」
「唐突だな、意味のない戦いだ」
「そうか? 男の強さを魅せることは女どもを従えることに繋がるぞ」
「そんなもの求めていない」
「魔階層の王は冷めておるなぁ。まあいい、こっちからいく」
そう勝手にオオクニヌシはその巨体を高速で移動させてこちらに急接近して拳を打ち出してきた。
回避した先のその一振りで空気が破裂するほどの鈍い音がした。
本気というほどではないだろう。しかし相応の力で相手をしなければ怪我は免れない。
「スターダスト・デカラビア!」
上空より星型の光を無数に出現させ、流れ星のように敵へ降り注ぐ。
回避しようがない魔法だ。
「おお、煌びやかだな。だが! うおらあああああ!」
だがオオクニヌシは闘気を纏うかのようなオーラを自身に集約させて拳を無数に打ち出す。それにより自身に振ってくる流れ星をすべて打ち砕いてしまった。
「ならこれはどうだ。ルーン・アバドン!」
オオクニヌシの足元を軸に円になるように光のルーンを設置する。
それらを一気に開放して小さな光の柱を多数出現させ、さらにそれらを編んで集約させる。
それは拳の数で防げはしない。
逃げ場なく敵を絡めとり焼き尽くす。
だがオオクニヌシは防御姿勢を取って普通に耐えきってしまった。
「ふぅ、なかなかきつかったな」
「まさか……」
殺し合いじゃないため出力はこっちも抑えている。
しかし問題なく耐えきれるはずがない。
オオクニヌシは弱点ではないにせよ光への耐性を持っていないのだから。
「ま、ここらでいいだろう。どうだ、女ども? 俺は勇ましかったか?」
そう、彼は自らの体の汚れを払いながら尋ねると、女性たちは期待通りだという声をあげたのだった。
「ルシフェル王よ、誰もお前を否定はせん。唯一神の支配が確立してしまえば神も悪魔も自然も未来などなかったのだから。散々言われただろうが我も言おう。感謝してはおる。だがそれまでだ。お前は壊す者でしかない。ここから先を築く力は持つべき者たちに任せよ。不服であろうとな」
「それはお前たちが間違いを起こした場合も何もするなということか?」
「いや、気に入らないなら壊しに行けばいい。好きにしろ。そしたら我らはまた作り直す」
「! イタチごっこだな……」
「おうよ、だがどこかで納得のいく折り合いある形が見つかるやもしれん」
「……それが目指すべき場所ということか」
「そうだ」
俺は戦闘態勢を解いて距離を取る。そしてリルルと金堂先輩に告げる。
「帰ろう」
「いいの?」
「うん、半神という存在がここから先、ダメなものかは誰にも分からないからね。なら可能性という意味で詰まない方がいい。とはいえダメだった場合の責任は父親が取るべきだ」
そうオオクニヌシに告げると彼は胸をドンと叩いて答える。
「勿論だ。子の不始末となったならケリを付ける。というか、そう言わねばここで殺しに来るつもりだっただろう」
「当然だ。でなければ認めはしない」
「はは、恐ろしいな。自由を推奨しながらも無秩序や無責任を否定するその在り様……これがルシフェル……いや、明星救世か」
そこで俺の名を呼んでくるのは以外で驚かされた。
神や悪魔はルシフェルがどうこうで考えて依り代である俺をおまけとして考えることが多いためだ。
国を造った神なだけあって基盤となる人をちゃんと見ているという事か。




