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二部3章②

 

「…………」


 人の精神というものはどうしたら成長するものなのだろうか?

 子供から大人にかけて何を得ていけば真っ当になりえるのか?


「キュー君、リクが酷いこといってごめんね」

「いいよ、むしろ参考になった」

「え? どういうこと?」

「中学生なら意識が不安定で考え方も独りよがりで普通だ。いや、高校生や大学生でもそれが続いている……下手をすれば大人まで引きずっている人間だって多い。そんな彼らがこの先の神や悪魔が現実に干渉していく世界に耐えられるのだろうか? 恐らくは無理だろう」


 サマエルが毒を散布して耐性を付けさせようとしているのは当然だ。

 唯一神が支配していた最近までの世界においての適性者というものは、それこそ確立した自我と正常な意識を持っていなければなりえなかった。

 金堂先輩も確立した自我そのものだけは初めから持ち得ていた。だから正常な意識を得られてすぐに契約者となりえた。

 しかし今は確立した自我さえ前提としているか怪しいほど緩くなってしまっている。

 リラたちはまだ完全は無理でもある程度は悪意を制御できているだけマシな方だ。

 己の自我を理解しきれない多くの人間はマシにすらなりえない。


「ふん、たるんでいるというだけだろう。リルルさん、弟さんにはもっと厳しくした方がいい。多感な中学生は道を踏み外しやすいからここで躾をちゃんとしないと後で苦労する」

「やっぱりそうかな」


 金堂先輩の言うことは最もだ。だからリルルも納得しかけるが俺はそこで待ったをかける。


「いや、金堂先輩、彼はそういう事をすれば余計に反発すると思う」

「しかしだな、放置も良くないだろ」

「分かっています。リルル、意識を視て分かったことだけど彼はそこまで捻くれてもいないよ」

「え、でも最近、口が悪くなるし態度も大きいよ。可愛くなくなったなぁって凄く思う」

「それは体が急成長して大人になったからそれに合わせようとしたせいじゃないかな? 子供のままの挙動じゃおかしく見えてしまうし」

「あ~、確かにそういうの気にしてもいたかも。どうしたらいいのかな?」

「優しく矯正していくしかないと思う。無理やりじゃなくてあくまで納得させながらね」

「それ難しいよぉ~、あ~キュー君みたいにお利口さんだったらなぁ~」

「それは彼の前で言わないようにね。比べられるのは嫌だろうから」

「うむむ、難しい」

「まあ、できればでいいよ。無理ならまた相談に乗って」

「うん、ありがとう」


 そこでリルルはまた抱き着いてきた。


「暑いし重い」

「それで明星、ここからどうする? 祭りを一通り楽しみはしたが……」


 金堂先輩はお開きにするかと尋ねてきた。


「……実はどこかで確かめようと思っていたことがあるんですけど、二人がまだ時間があるならいい機会ですし今からヌミノース世界に行きませんか?」

「別に構わんが何のためにだ? 日本にいるヤハウェイの使徒はアドナイが全て契約を切ったことで事実上壊滅してしまったはずだろう」

「はい、ヤハウェイはもういない。しかしヤハウェイが築いた建造物はまだ残っている。そして神や悪魔が他の世界に出入りしやすくなってしまっている現状を踏まえると恐らくあの場所……ウリエルが治めていた街は……」

「神か悪魔が代わりに根城にしてしまっている可能性があるということか。俺はその時、仲間ではなかったからどれほどの場所か見当が付かんが。それほど重要な拠点なのか?」

「はい。流石にヤハウェイが生み出した各機能を利用して現実に干渉するまではしていないと思いますけれど、それでも一応調査はしたほうがいい」

「理由は分かった。そういうことなら異存はない」

「リルルもいいよ」

「決まりだね。それでどこからヌミノース世界に行くかなんだけれど……流石にアイカの家まで戻るのは面倒だ。そこからもかなりの距離があったしね。となるとウリエルの街と同座標のところから行きたい。それがどこかというと恐らくこの地区の北はずれの別地区との境界にあるビルがそうだと推定される」

「推定? 確定じゃないの?」

「うん、実はクーデターの後、今後のことも踏まえて異世界調査が高天原の適性者たちによって行われてね。それでヤハウェイ関係者であった政治家や起業家が所有する物件の座標が、ヌミノース世界のヤハウェイの拠点と一致していることが多いということが分かった。しかしまだ多いだろうという調査段階で一致個所を全て調べきったわけでもない。だからその情報から俺なりに考えてウリエルの街の同座標を推定したということ」

「確定じゃないならいけない可能性もあるわけか」

「はい、けれど知らない場所に飛ばされるという事もない。ハズレだったら現実にいるだけで時間の無駄をしただけで済みますしリスクはありません」


 そう二人を説得したあと、推定場所へ向かった。

 そして目の前にあるビルを政庁ビルと認識すると俺たちはヌミノース世界へと飛ばされたのだった。


 ◆


 目の前にあるは上層部が焼け焦げた政庁ビル

 政庁ともなればあの戦いの後、すぐに復旧作業をするとも思えたがどうやらそんな暇はなかったようだ。

 辺りを見渡せば焼け焦げたビルの残骸が落ちたままで相当な日数が経って風化を見せ始めている。


「誰もいなさそうだね」


 リルルの言うように周囲に人の気配はない。


「うん。けれど……人……いや、何かしらの存在が行き交ってはいるとは思う」

「生活の痕跡というものだな。本当に誰もいないまま日数が過ぎていたら外に晒されているものが風化するだけじゃなく色々とすすけていくんだ。ヌミノース世界が現実と同じ自然作用なのかは分からんが」

「違うところはありますけれど基本は同じですよ。そして時間経過は6倍だから風化もすすけ方も分かりやすくなっている」

「なるほど、ということはいるな。壊れた場所を修復する気はないが居座りたいと言ったところか」

「修復する意味がないからとも取れます。さて、どこから調べるべきか……」


 一番怪しいのは政庁ビルの最上階だろう。

 俺とウリエルが戦った場所だ。そこから強い神のエネルギーが漏れているのを感じる。

 それは金堂先輩やリルルも気付いたようだ。


「街を適当に回ってそのあと異層制御室に行こう。その後ここに戻って政庁ビルの最上階を目指す」

「俺はここに来るのは初めてだ。明星の案内に任せる」

「リルルもそれでいいよ」


 方針が固まったためそのように俺たちは調査を開始した。

 街を回っていると一部の区画に固まって過ごしている集団を発見する。

 日本風の着物を着た神聖さある人型の存在であるため恐らくは神の部類だろう。神格の高さを感じられなかったため名の知れた有名どころでもなさそうだが。

 ヌミノース世界に来ると自動で悪魔化する俺の存在はすぐに相手も気付く。

 こちらが神聖さを感じるように、むこうは悪魔の禍々しさを感じるため隠しようがない。


「ル、ルシフェル」

「あの唯一神を倒した……どうしてここへ?」


 警戒態勢を取られるも、先に打って出るほどの勇み足も見られなかったため尋ねる。


「聞きたいことがある。あなた方はこの都市で何故過ごしている?」

「それは……」


 言いたくないようだ。恐らく言ってしまえば計画を壊される恐れなどがあるためだろう。

 そこで金堂先輩が口を放む。


「悪いようにはせん。確かにルシフェルは強大だ。しかしそれの依り代であるこの男はルシフェルを完全に制御できている。それと盟友である俺を信じてくれ」


 これは不動明王の言葉も混じっているのか。

 ともあれ不動明王の依り代にそう言われた彼らは迷いつつも説明してくれることとなる。


「……唯一神が倒された後、我ら日本の神々は大きく2つの派閥に分かれました。1つは我らへの信仰の元となる日本神話を敬い教えとする高天原に日本をそのまま担わせる。もう1つは他の国の神々のように日本を神の手によって導く。我らは後者側です。率いるはオオクニヌシ様」

「大国主(おおくにぬし)か……」

「どんな神様なの?」

「言い伝えとしてはこの日本国に必要な学問や教えなどを整備して基盤を造ったいい神様だよ」


 しかしそんな神であるならそれこそ日本神話に沿った高天原の教えを邪魔する必要もない。


「へ~いい神様そうだね」


 そのリルルの感想に俺と同じく矛盾に気付いた金堂先輩は苦い顔をした。


「オオクニヌシはここで何を成そうとしている?」

「それは新しい教えのための試験です。ここはそのための立地条件が揃っていましたので占拠いたしました」


 具体的に何を試験しているかは口に出しにくいのか彼らはそこで黙ってしまった。


「……分かった。あとは直接会って聞こう。確認するけど政庁ビルの最上階にいるんだよね」

「はい」


 そうと分かった俺たちだが、一応異層制御室のほうへ出向いて異常がないか先に確かめる。

 ……制御パネルには触られた痕跡がある。

 しかしこのままの方が都合はいいのか設定を変更してはいないようだ。


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