二部、2章③
7月20日、土曜日
このビーチには日を跨いだ撮影に備えて幾つもの別荘が建てられている。
昨日、船田社長がA、リラたちがCを取ったため俺たちはBを取りそこで夕方以降を過ごし就寝することになった。
別荘自体はあるものの食材や日用品は前回の利用者が残していない限りないため、買い出しに行かねばならない。
そういう不便さもホテルや旅館に泊まるのとは違った自活的な側面である意味夏の思い出にはなったのだった。
朝、昨日買い置きしておいた食材からリルルは朝食を作り出す。
俺はそのサポートだ。
他の3人はどうしたのかだが、ユーハは普段から面倒だから料理はできるだけしないまだ寝ている。シュンノスケとアイカは作れないというのが答えだ。
……朝食を食べ終わり皆であと1日半ほど何をしたいかを話し合う。
「ビーチバレーとバーベキューがしたいですわ!」
ユーハにしては意外と普通の意見であったため素直にそれで決まった。
ただそうなるとまた買い出しに行かねばならない。
「なら食材選びだからリルルが行くね。ビーチボールってどこに売っているんだろう?」
「昨日買い出しに行く時に古い玩具屋を見つけたからそこを尋ねてみよう」
「量が多いなら俺も付いていくぜ」
「いや、大丈夫。シュンノスケはここに残って。流石に別荘内にまで侵入してこないと思いたいけどユーハに悪戯をしてくる可能性もあるだろうし」
「おう、つーか妖風も一緒にいけばいいんじゃねーか?」
「昨日日焼けしすぎましたから今からしばらくは別荘内でゴロゴロタイムでしてよ。アイカ、ゲームをやりましょう」
「あ、はい」
「……という訳だからね」
「お、おう。分かったわ」
この日もビーチで遊ぶことを考慮してユーハ以外は水着に着替えていた。
街に繰り出すなら一度着替えようかとも思ったのだが熱いしリルルは別に水着のままでいいということなのでそのまま行くことになった。
「あ、二人きりだ。これデートかな?」
「そうかもね」
「えへへ、じゃあくっ付こう」
リルルは宣言通りくっ付き俺の右腕を自身の胸で挟んできた。
分かっていたけれどこうして直に触れるとその大きさが分かる。
「暑い」
「でも気持ちいいでしょ?」
「うん」
行き交う人は田舎に近い町であるため多くはない。
しかし胸がとても大きい女性が水着でこんなことをしていたら注目は集まるだろう。
「少し恥ずかしくない?」
「え~でも楽しいよ~」
ニコニコした顔を近づけてくる。
どちらかというと幼顔がまだ残っているし声が甘ったるいためリルルといると抵抗感というものがあまり生まれない。
だからこそ彼女は男受けしやすいのだろう。
「堂々と浮気なんてガキのくせに大したもんね」
そこでリラが目の前に現れた。
右手に買い込んだ袋を持っているところを見るに買い出し帰りなのだろう。
「浮気じゃないもん、ユーハちゃん公認だから」
「は?」
「えっと、昨日の別荘のお風呂でね、キュー君ハーレム計画って話になったの。だからリルルもキュー君も怒られないよ」
「冗談でしょ?」
とリラは俺の方へと回答を求める。
「……いや、本当なんだ」
「……なんなのあの女……はぁ、まあいいわ。あんたみたいなガキのほうに流れてくれるならむしろ助かるってもんだし。一応聞いておくけどあんたのとこのイケメンの彼ってフリーよね?」
「そのはずだけど……」
「シュンちゃんはダメ~!」
「え?」
「だって、シュンちゃんとあなたが突き合うのやだもん」
「あんたはこのガキのことが好きなんでしょ? ならいいじゃない?」
しかしリルルは珍しく首をぶんぶんと大雑把に振って力強く否定する。
「それはそれ、これはこれ。シュンちゃんは大切な幼馴染だからあなたはダメ」
するとリラは頭を掻いてため息をする。
「あっそ」
「俺からも1つ質問いいかな?」
「なによ?」
「傲慢な態度のわりに朝早くから自分で買い出しに行くんだね。自らの「悪意」と向き合っているからかな?」
そう尋ねるとリラは数秒沈黙した後分からないといった素振りをわざとらしく見せて答える?
「何の話? 気まぐれよ、今日は気分が良かったから」
そう言い残して彼女はすぐに去って行ってしまった。
「……キュー君、今の質問って」
「多分だけど彼女は悪魔と契約している。そして制御もできていると思う。リルル、彼女を見て俺に近いオーラのようなものは見えていた?」
ヌミノース契約者は魔階層や神階層の契約者、ないしその適性者をオーラのような視認で判別できるようになっている。
ユーハもリルルもシュンノスケも言わなかったがリラたちに対する態度からして察しはついていた。
「あ、うん、キュー君と同じ禍々しいものを発していた。けどキュー君のは違うよ。禍々しいけど真実と向き合うっていうか。あの人のは……厭らしい?かな。なんか不快に思えた」
「それがシュンノスケにふさわしくないと思えた一因かな。まあ、ともかく彼女が魔階層の契約者でルシフェルである俺に対してその素性を伏せているということは騙し討ちをしようと目論む敵の可能性が出てくる」
「あ、だからシュンちゃんを別荘に遺してきたんだね」
「そういうこと。仮にヌミノース世界にいきなり引き込まれたら近接戦ができるシュンノスケはいたほうがいい。アイカが補助、ユーハが魔法攻撃で一応バランスもとれている。さ、早めに買い出しを済ませて戻ろう」
「うん」
◆
買い出しを終えた俺たちは撮影ビーチの別荘Bに戻る。
そこでユーハたちにリラたちが魔階層の契約者ではないかという可能性を前置きで伝えつつ、異変はなかったか尋ねたが何もないようなのでまだ仕掛けてはこないだろうと安堵したかった……が、念のためにもう一人尋ねることにする。
それは別荘Aにいる船田社長だ。
そろそろ昼になり彼は先に帰ってしまうため、聞けることは聞いておきたい。
「……丁度良かった。僕はそろそろ帰るからここを管理するためのゲストパスワードやもしもの時の対応を君に伝えておこうと思ってさ」
「え、俺にですか?」
「うん、このビーチは野外だけど一応撮影スタジオの名目で管理会社があってね、使い終わったらちゃんと報告もしないといけないし片付けもしておかないと後で文句を言われてしまう。撮影が終わって皆すぐに帰るなら僕がやっておくつもりであったんだけれどそうじゃないからね」
「そうですね。なら俺がその処理を引き継いでおきます」
「助かるよ。一番若い君に任せるのもどうかと思いはしたんだが……ユーハ君は当然として、他のモデルの子たちもそういうの向いてなさそうだし。リルルちゃんだっけ、あの巨乳の子も向いてない。シュンノスケ君は向いているし大人っぽいから彼の方がいいかなと思ったけれどできるとしてもやりたがる性格でもないよね」
「はい」
「僕の方は以上だ。それで先に話しちゃったけれどここを尋ねたという事は君の方も何か話しがあったんだよね?」
「そうですね。念のための確認なんですけど……あのモデル4人と話していて違和感のようなものを覚えたりしませんでしたか?」
「というと?」
「契約者は現実世界に戻ってもオミットされているとはいえ力を行使できる。その形態は様々なんですけど、俺の場合はヌミノース世界では光の破壊攻撃だったものが、相手の意識を破壊するものとなっている。ですので仮にあの4人が契約者で同系統の意識操作能力持ちだとするなら船田社長が何かしらの意識を誘導されていたんじゃないかな?って思ったんです。普段のあなたの性格を考えるとここに来てからは少し違和感を覚えたので」
「あ~なるほどね。知っての通りユーハ君は僕の押しだ。学生時代の先輩との関係性はあるにせよ、サブモデルとして起用したあの4人に対しての態度は確かに甘くなっていると自分でも思う。ユーハ君に敵意と言わないまでも悪意があるのは察していたし仲良くできないなら切るべきだった。今にして思えばたしかにおかしい判断をしていたかも。……すぐに今後あの子たちを使わないとあちら側の事務所に報告した方がいいかな?」
「いえ、報告はむしろ利用期間が終わる明日の午後以降にお願いします。あちらの出方が変わっても困るので」
「それもそうか。しかし彼女たちも契約者となっていたとは。これも唯一神を倒した影響かな?」
「そうでしょうね。もはや適性がある誰もが容易に契約者になりかねない状況になりつつあるのかもしれない。ともかく彼女たちの対処はこちらでしておきます」
「うん、頼むよ」




