二部、2章②
7月19日、金曜日
午前中に1学期の閉会式は終わったため、予定通り午後はユーハのCM撮影と夏の思い出作りのために指定された撮影専用の海岸ビーチへと都内の駅から県外へと移動して向かった。
撮影用という事で一般客が訪れるビーチと比べてかなり澄んでいる。
浜辺にゴミはなく水辺も綺麗で潮風も気持ちいい。
「うわぁ、こんな綺麗なビーチまだあったんだ」
アイカが第一声に感動を口にした。続けてリルルが騒ぎ出す。
「ね、ね、早く着替えて泳ごうよ」
「待てよ、自由に使っていいのは撮影が終わってからだろ。それまで俺らは控えておくもんだ」
「む~、そうだった。けどシュンちゃん、それまでリルルたち何していたらいいの?」
「何してって……そういや、細かいこと聞いてないな。キューセイ聞いているか?」
「いや、ユーハも野外での水着のCM撮影は今回が初だから勝手は知らないって。まあ、撮影範囲に入らない場所で涼んでいるか、もしくは近場の町に繰り出して暇を潰すのが無難だろうね」
実は今ここに来たメンバーは俺とアイカとシュンノスケとリルルだけだ。
ユーハは仕事なため一足先に既に着いており撮影の詳細をスタッフと話し合って決めているところだろう。
そこで撮影会議で使われる小屋から撮影に関わる人たちが出てきた。
その中には既に水着姿のユーハもおり、俺たちの到着に気付いて手を振ってこちらにくる。
「今から撮影でしてよ~。モブは速やかにあちらの日陰に移動なさいまし~」
流石に学校で来ていたスク水ツインテ―ルといった受け狙いの格好を今回はしていない。
緑色のビキニで出来るだけ肌を露出してアピールするスタンスだ。
「ユーハちゃん、キレー。やっぱモデルだね~」
「はい、背が高いの羨ましいです」
「ふふん、もっと褒めて構いませんのよ」
ユーハが自慢げなポーズを取っていると彼女を撮影場所に戻すためか既に来ている船田社長と他のモデルだろう4人がこちらにくる。
「ユーハ君、今潮風と日差しがいい向きだから監督がすぐに撮りたいそうだ」
「あら、そうでしたわね」
「あれ、船田社長、今回の撮影ってその子たちも使うんですか?」
そう俺は尋ねる。彼女たちには若干失礼な聞き方になるがそんな予定は聞いてないからだ。
「ああ、勿論メインには据えて取らない。サブモデルというところかな。王手の事務所から使ってほしいと頼まれてね。最初は断ろうとも思ったんだけどその事務所の幹部が僕の学生時代の先輩でさ。まあ、勝手が良さそうだったら今後も考えてみるかな程度で了承した訳さ。彼氏としては少し嫌な判断かな?」
「いえ、そこは船田社長の裁量だけの問題ですし俺が口を出すことでもありません。それでユーハへの依頼が減ったのならそれは彼女の実力問題というだけですし」
「ちょっとキューセイ、彼女にもうちょっと忖度した発言なさいませ」
「ええ~、自分から忖度言うのかぁ」
「はは、相変わらず仲がいいようで何よりだ」
船田社長は温かい目で見るのとは裏腹に、4人のモデルたちは俺とユーハをどこか嘲笑うような目線で見ていた。勿論、口に出して罵倒などはされてはいないが。
……ユーハがリテイク回数少なく船田社長や監督の要望に上手く答えていたためCM撮影は思いのほか早く終わってしまった。
これで解散というのも勿体ないため、船田社長からの提案で自社製品を使ったPVを各モデルたちで撮らせることにした。
それ自体は時間の有効活用で作れるもののためいい話なのだが、遠くから眺めている分でもユーハと4人のモデルの仲はあまりよろしいように見えない。
勿論撮影の時はそれを表情に出さないが明らかに壁がある。
……撮影が完全に終わり、撮影スタッフたちは一足先に引き上げてしまった。
そこで船田社長は俺たちに「今から日曜の昼まで隙に使っていいよ」と伝えてきた。
「ありがとうございます。あれ、あのモデルたちも残るんですか?」
「ああ、長めに撮影期間を設けていたことは知らせていたからね。元からそのつもりなのだろうし、さっき許可も出してしまった。だから貸し切りにはならなくてごめんね」
「いえ、それでも十分に感謝してはいます。こんないい場所をただで過ごせはしませんし」
「そう言ってくれて助かるよ。僕も明日の昼までここにいるよ。先に別荘Aのリビングで仕事の確認をしているから何かあったら尋ねて来てくれ」
「はい」
そう言い残して船田社長がハウスに籠ったところで俺たちはユーハと4人のモデルたちが言い争いになっていることに気付いた。
「……だいたい撮影の時もあたくしがメインなのだからもっと引いた位置にいてくれないと困りますのよ。そのせいでリテイクになったこともありましてよ」
「下がれなんて指示出されてないしぃ、あんた自分で出来てるつもりだけどさぁ、自意識過剰だって。弱小事務所にいる時点でそれが実力でしょ」
「なんですって~! 吹き飛ばしますわよ」
明らかに風魔法を使う直前の怒り様だったため、俺は駆けつけてユーハの腕を握って制止を促した。
「ユーハ、挑発に乗ってもいいことはないから」
「ありますわ、あたくしがスッキリしますの!」
「ああうん、そうだね。けど抑えて」
俺は背伸びをしてユーハの頭を撫でてあやした。
それが滑稽だったのか4人は嘲笑しだす。
「ガキに慰めてもらってんの受ける~」
「ガキか……ならあなたたちの言動はガキじゃないのかな? 相手を挑発して貶めたって自分が変わるわけじゃない。大人なら分かるはずだ」
そこでリーダーであろう女が前に出た。
「ガキが言うじゃないの、名前は?」
「俺は明星救世」
そこでモデルたちは気づいたように俺に指をさす。
「あ、この子、高天原とアドナイ外務大臣の対談で映っていた子じゃん」
「なるほど、なるほど、只者じゃないってわけだ。今の政権の関係者ってことで付き合ってんのね。小賢しい」
「は? 高天原はどうでもよくってよ。キューセイはあたくしの都合に合わせてくれるチョー便利な存在だからでしてよ」
そこはもう少し真っ当な回答をしてほしかった。
別ベクトルで自分の勝手さを許容してくれるからというのもどっこいだ。
まあユーハらしいか。
「あなたの名は?」
「はっ、王手所属なんだから知っときなさいよ。リラよ」
年齢は二十前後か、強気なだけあってスタイルはかなりいい。
綺麗さでいえばユーハに劣るが胸の大きさは圧倒的に勝っている。
長い間揉めていると思われてか、アイカたちもこちらへ来る。
この時、俺たちも撮影が終わるのを見越して既に水着姿であった。
リラはリルルの水着で露になった爆乳を見て舌打ちしつつ、そのあとシュンノスケの鍛えられた水着姿を見て肉食獣の顔を見せる。
シュンノスケほど高身長で精悍ないかにもカッコいい感じの男性は一般ではなかなかいないからだろう。
「おい、長引いているけど大丈夫かよ。あんたら……」
シュンノスケが注意しようとするとリラは態度を一変させて下手に出だす。
「やだぁ~、あたしたちちょっと撮影の反省会していただけよねぇ」
彼女がそういうと仲間たちも即座に同調する。
「ああ、そうなのか?」
「そんなわけありませんでしてよ! さっきまでやたらねちっこく嫌味を言われていましたわ」
「ひっど、うちらそんなつもりじゃなかったのにぃ。まあ、なんか空気悪くなっちゃったからお暇させてもらいますね。私たち別荘Cを使いますから」
そう告げてリラたちは去っていった。
「……おかしい」
「ん、何がだキューセイ?」
「いや、彼女たちの意識を一応見てはみたんだけどまるで歪んでいないんだ。あのレベルの態度ならだいたい歪んでいることが多いのに」
「ムカつきますわ~!」
ユーハは地団太を踏むほどだった。
それにリルルとアイカは同調する。
「うん、分かるよ。あの子たちヤだなぁ。リルルもね、同性の嫉妬たまに買うんだけどあの子たちの場合は自覚してやっているから怖かった」
「ですよね。悪意をコントロールしているから質が悪い」
「うう、いい仲間を持ちましたわ~。お礼にキューセイをデートに誘ってもよろしくてよ」
「え、ホント、わーい」
「浮気はダメじゃない?」
喜ぶリルルに対してアイカは戸惑った。




